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勇者の贖罪  作者:
2章 『ロード村』
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6.『閃光の狼』

「随分と、騒がしいですね。これも、貴方のせいと考えてよろしいですかね?ルイさん。」


光り輝く星々の美しさは、異世界でも尚健在の様子で、高層ビルや住宅街の無いこの高台から一望するその景色は正に絶景と言えた。


鉄の鎖で身体を拘束されていなかったのなら。


ロード村は夜も更けてきたというのに、灯りが絶えず人々が活発に走り回っている。

それも皆血相を変えてまるで獲物を死に物狂いで狩ろうとする狩人の様な顔で。


「...さぁ、勝手に俺のせいにしないでくんない?祭りでもやってんじゃね?季節的に夏祭りとか?」


「なんで、夏だからって祭りやるんですか。」


「いやそれは別におかしく...」


ふと、この世界の常識と、現実世界の常識の違いに疑問を抱く。

考えてみると、確かに夏だからと言って祭りを催すのは何だか不思議な感覚だ。

夏祭りがある理由は昔は厄災を祓う為とか何とか聞いた事があるが、今はただの夏の風物詩として行われている。


夏という単語に違和感を持ってないフェイを見て、季節というのはこの世界にもある様だが、夏祭りは無いようだ。


「別に、俺も祭りなんて好きじゃないから良いんだけど。」


黒澤 零だった頃は、夏がとにかく嫌いで仕方なかった。陽キャ達がワイワイ海に行ったり花火に行ったり楽しい楽しい青春を妬ましい目で見ていた。

祭りも小学三年生の親と行ったのが最後で、それからはずっと祭りの日は1歩も外に出ない生活となった。


地元の祭りなんかは、同級生とかに会ってしまうから。


「あの、もっと緊張感持った方が良いのでは?貴方は今、自分の立場を分かってるんですか?」


と、爽やか男の刺々しい苦言が耳に刺さる。


「んだよ、怯えてほしいのか?もっと落ち込んで欲しいのか?それで見逃してくれんなら何だってするけど?」


「...見逃す訳無いですし、逆に尊敬しますよ、その態度は。僕では到底考えられない。」


フェイはそう言って、ルイから視線を逸らすと、横の草原でスヤスヤ心地良く眠っているセレナの頭を撫でていた。


「...この子の人生も、貴方はめちゃくちゃにしたんです。その責任は、取って貰わなきゃ。」


「それはちゃんと"ルイ・レルゼン"に取らせるって。俺がやらかしのはセレナを怖がらせちまった事だけ。その分の贖罪だけはするって。」


「もう言及するのも疲れます。その記憶喪失設定。」


相変わらず、フェイは記憶喪失の件を全く信じていない様子だった。

そんなフェイにルイは苛立ちが芽生える。

見た感じ、彼はそれ程強くない。今ここで鉄の鎖で拘束されているハンデを差し引いても、ギリギリ戦いになるかもしれない、とルイは踏んでいる。


セレナを連れてさっさと逃げ出したいルイは、ここでフェイを気絶させる事も考えたが、そんな事はしない。


「...」


その理由は、セレナ・リーベだ。


ルイは、考えたのだ。足りない頭を捻って、考えるだけ考えてみた。


ルイは"ルイ"の罪を被るつもりは無い。

それでも、多分これからも、ルイを"ルイ"として扱う世界の目は、ルイを『大悪党』として見る。

きっと、憎悪や殺意を沢山向けられる。


どれ程多くの憎悪を向けられても、ルイはもう挫けない。自分が無罪である事を、自分で証明してやると胸に誓う。


だが、セレナはどうだろう?

ずっとルイの隣にいる、セレナに危険が及ぶ可能性はあるのではないか?


「...」


今もこうして、ルイ・レルゼンの帰還を知った村人達は血眼になってルイを探している。

皆片手にナイフや斧を持っており、殺意MAXなのは見て明らかだ。

見つけた瞬間即殺されるだろう。


その時、隣にいるセレナが、とても、とても怖い。


守らなければならないものがあるのが、ルイは凄く怖かったのだ。


「お前は、セレナを...大事に出来るんだよな?」


「...はい?」


「それだけ約束してもらえれば、俺から言うことはない。」


フェイの顔は「?」一色だったが、別に理解して欲しいとは思っていないので、特にそれ以上の説明はしなかった。

簡単な話だ。セレナをフェイに預けるのだ。


フェイ・ハイル、彼は魔王城に居た際、セレナの心の拠り所となっていた存在と聞く。(セレナ曰く)

ルイがセレナを壊してしまった償いとして、彼女を守る事を誓ったが、自分と一緒にいて危険な目に遭うのであれば本末転倒だ。


騎士である彼に、彼女を託すのが得策だとルイは考えたのだ。

眠るセレナの頭を撫でるのは若干腹が立ったが、この際大目に見るしかない。


「...あの、ちょっと聞きたいんですけど。」


「ん?」


首を擦りながら聞いてくるフェイの挙動に対してルイは疑問を抱くが、そこを言及する前に、フェイの質問が飛んでくる。


「貴方、記憶喪失じゃなくて...ロイさんと人格が入れ替わってたりしません?」


突拍子の無い彼の質問に、ルイは困惑気味になる。

ロイと言うのは、『英雄』ロイ・レルゼンで間違いないだろう。セレナ曰く、この世界で悪名轟かせる"ルイ・レルゼン"とは違い、人々に希望と尊敬の眼差しを向けられる、正に『英雄』に相応しい男との事。


そんな『英雄』と人格が入れ替わっているのか。

勿論、答えはNOなのだが、ルイからしてみても、少し違和感がある。


「入れ替わり...は、無いと思うけど...確かに、アレが英雄は、ちょっと無いよな?」


ルイの中でのロイ・レルゼンという男は、セレナを殺そうとしたヤバい奴判定。

『英雄』とは似ても似つかない。だが、もし"入れ替わり理論"が正しかったらどうだろう?


これまで正しい事しかして来なかったロイ・レルゼンが悪に手を染め始める。

これまで悪しかしてこなかったルイ・レルゼンが正しい事をし出す。

正しい事と言うよりは、悪では無い動きとする。

零からルイになって、ルイ・レルゼンは悪行をしただろうか?


「あ、セレナを壊したか。」


してた。


「いやっ!アレも、何かおかしかったんだ...さっきみたいな、何かに操られてるような...」


思い返すと、あの時も精神に異常を来たしていた。

感情を逆撫でされ続ける不愉快な感覚が永遠に心から離れてくれようとしなかった。


「--っ!?」


そんな考え事をしていると、突然フェイがルイの身体に乗っかり、草原の地面に顔を叩き付けられる。

いきなりの事で叩き付けられた痛みを味わい、ルイは怒りを覚えるが、フェイが辺りを見回していたことから、何か起こっていることを察する。


「なんで...認識阻害の術を組み込んでるハズなのに...」


「なぁ!?」


森の奥から、4本の足で近付いてくる、巨大な白狼。

青い瞳を輝かせて、真っ白な毛並みをなびかせながら、その白狼は、ゆっくりとルイとフェイの方向へ歩いて行く。


鋭い牙が口元から見えており、一噛みされれば最後。頭蓋骨をぐちゃぐちゃに引き裂かれる感覚が襲ってくるに違いない。


「---」


白狼は、顔色一つ変えることなく、ゆっくりと近づいてくる。

ルイとフェイは息を殺しながら逃げるタイミングを伺っている。


「おい...どうすんだよ、セレナ守れんのか?」


「黙っててくれます?何でヤツに、僕達の姿が見えているのか今考えてる最中なんです。」


フェイは、セレナ含めて3人を取り囲む透明な認識阻害の結界をこの草原の中で形成していた。

村人達に今ルイが見つかれば確実に殺されてしまうことを懸念した為だ。


フェイの目的はあくまでルイの連行。死すべき存在であることにはフェイも同感ではあるが、それはあくまで司法が決める事だ。

この異世界においても、司法はある。


死刑当然の犯罪者が居たとしても、可能であれば一度連行しなければならない。


その為、ルイは生かして連行しなければならなかった。だから、認識阻害で村人から目を背けたのだが、完全なる意識外からの急襲。


「---」


白狼は、ただ静かに青い眼光を2人の青年に向け続ける。圧倒的な威圧感はその場の空気を支配していた。


「いや、見られているだけで...攻撃の意思は無い?なんでバレてるのかは分かんないですけど、攻撃されないのならそれで良い!」


フェイは襲う気が無さそうな白狼の言動でほっと肩を撫で下ろしている。正直、ルイからすればよくもまぁ、そんな楽観的な思考出来るものだと言いたくなる。

どう考えても様子を伺っているだけだ。動けば必ず襲って来る。瞳は一切離れようとしていないのだから、もう捉えられているのだから。


「動くな...絶対に、挑発するなよ...。」


「っ!貴方に言われたく...は?」


フェイが、ルイの小言に顔を顰めて、何か言いたげに振り返るが、その直後に顔色が変わる。

ルイの後ろに見える現実に対して驚愕の顔をしていた。


「ん?なんだ?...後ろに何が...は?」


釣られてルイも後ろを覗くが、それは正に驚愕の世界だった。

否、驚愕なのは世界では無く、そこに立つ生物の事だろう。


「---」


手足の長い、真っ黒な人影が立っていた。

真っ黒な、真っ黒な人の形をした生物。しかし、手足の長さは尋常では無い。

腕は肩から地面までだらんと垂れており、顔は明確に見えないが、どこか頭を傾げている様に見える。


"こういう生物"と、何かに断定する事が難しい、異様な生命体。生命体てすらないのかもしれない。

しかし、ルイはこの異様さを知っている。


完全に一致、では無いが、何処か似ている。

それは、異世界にやって来て早々に出会った忌まわしき生物。


『--ナァ』


ルイ・レルゼンに、贖罪の道を歩ませる事に背中を押したと言っても良い存在。


花畑の化け物、ソイツと目の前の黒い人影は何処か雰囲気が似ているように見えた。


「だいぶ、分が悪い。」


戦況を見て、そう零したのは隣で冷や汗をかく騎士、フェイであった。

彼は人差し指を曲げて唇の上に置き、目の黒点を左右に震わせている。

辺りの戦況を細かに分析して勝機を導き出す為、思考をフル回転させる。


「ちょ!おいっ!なんだぁこれ!?」


「な、なんです...は?」


2人の視界を埋めつくしたのは、周囲を囲む無数の黒人影達だった。

先程一体しか存在しなかった"ソレ"は、一瞬で増殖しルイとフェイの辺りを囲む程の数に増えていた。


「---」


声とも言えない声を上げ、"ソレ"達はルイ、フェイ、セレナ、白狼を取り囲む。

獲物を逃がさんとする勢いであり、不可解な生命体はルイとフェイに恐怖を与えていた。


「...セレナ!起きろっ!」


ルイは眠るセレナの肩をさすり、覚醒の兆しを与えんとする。

今この状況を脱却するのは、セレナの『転移』を使う以外方法は無い、ルイはそう結論付けた。


しかし、セレナの身体を揺するも、全くと言っていいほど起きる気配が無い。


「おい!セレナ!」


「セレナ様は起きません!明日の朝まで絶対に起こさない様にしたんです!」


「はぁ!?何言って...てめぇ!セレナに何した!」


フェイの発言に、ルイは怒鳴る様な声をあげる。

セレナを起こさない様にしたということは、フェイが何かしらの作用をセレナに施したという事だ。セレナを起こさない方法よりも、何故そんなことをしたのか。それがルイは一番の謎だった。


「なんで!そんなこと!」


「貴方は感じ取らなかったんですか!?セレナ様の"魔口"が壊れてる事に!」


「...ま、まぐち?」


聞いた事の無い単語が、ルイの耳に届けられる。

一瞬で怒鳴る声主が逆転した瞬間であった。


フェイはそのまま続けて説明する。


「魔力を魔法へ移行し実行する時、魔力を放つ時、魔力の出入口となる"魔口"が、激しく損傷しているんですよ!ずっと魔力が流れ出てると思ってもらえれば分かりやすいですか!?」


「な!それって...やばいの?」


「最悪死にますよ!なんで知らないんですか!僕よりずっとそばにいたハズの貴方が...なんでっ!」


「っ!ちょ!おい!黒い影が!」


フェイの激しい怒りのトリガーを引いてまったルイ。

こんな非常時に"魔口"という未知の単語の勉強をしている暇などないのだ。


黒い人影達はみるみるうちに近付いてきていた。

足と思われる部分を前に出して、緑豊かな草原の葉を真っ黒に侵食して行く。


「っ!ヤバい...闇魔法だ...!」


「おい!セレナ守ってくれ!俺が囮になるから!」


「囮になってどうなるんですか!?どうやって逃げろって言うんですか!」


「何とかしろ!!!!」


2人の言い合いに拍車がかかってきたのと同時に、黒い人影も足を早める。

もはや誰にも止めることのできない邪悪の進行に、ルイは目を瞑りそうになる。


その時だった。


「--ウォオオォオオオンンン!!!!!」


白い狼が、空に向かって咆哮をしだしたのだ。

白い毛を逆立て、青い瞳を輝かせる。


「--っ!?」


ルイの視界を埋め尽くす、真っ白な世界。

狼の身体から放たれた真っ白な世界は、みるみるうちに、その場を覆い隠し、何も見えなくなる。


「--な、んだ!?」


目を開けられないほどの白い光に、ルイが混乱していると、ほんの僅かな目の隙間から見えた光景に、衝撃を受けた。


「---」


白狼は、無数の影を、食い殺していた。

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