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勇者の贖罪  作者:
2章 『ロード村』
32/44

1.『クソ兄貴』

そこは、白い世界だった。

異世界に転生した時と同じ、と言っても良いほど酷似している。

違う事と言えば、あの時はただ突っ立っているだけであったが、今はセレナと共に身体が吸い寄せられて行く感覚があった。


「---」


激しい吸引力に吸い寄せられているのか、押し出されているのか、ルイには分からなかったが、とにかく、身体は為す術なく白世界を飛んで行く。


セレナを離さぬようぎゅっと抱き締めていたが、あまりにも強い空気抵抗が固い拳をこじ開けようとしてくる。


「---」


セレナが口を開けて何かを言ってくるが、彼女の声の音も置き去りにして、移動し続ける為、全く聞こえない。鼓膜を震わすのは、激しい空気の流れの音だけだった。


激しい引力が、ルイとセレナを吸い寄せて行き、世界の底へと落っことして行く。



白い世界が、遠ざかって行き、






段々、消えて---





------


「は」


ルイ・レルゼンは、知っている。この異世界においては、目覚めとは平凡の始まりではなく、新たな進展を意味する分岐点だということを。


そして、今回も例外ではなく、ルイの眼に映し出された世界は、全く予想打にしていなかったモノだった。


「...ここは?」


辺りを見回すと、そこはどこかの森の中だった。

生い茂る木々の中には自然豊かな生態系が住んでいる。


木々の隙間から地面に届く太陽の光は、まだ完全には上がっておらず、冷たい空気がルイの肌に伝わった。


「朝になってる、随分と寝たもんだな。」


ルイの最後の記憶は、白い世界での出来事だが、アレは現実世界ではなくセレナの転移によって起こった現象だと解釈する。

だとすると、この世界での最後の記憶は魔王城。

空は黒い雲で覆われていたものの、紅く輝く月だけは浮かんでおり、それは夜であることの証明をしてくれるものだった。


そして、今目を開ける光り輝く太陽の姿。

ルイは夜から朝までぐっすりと寝込んでしまったということになる。


「この、森の中で!?」


危険溢れる森の中、と言うのは全世界共通であるとルイは考える。しかも、異世界の森なんて危険種しか居ない様に思えてしまう。


「いや、それより、セレナ!セレナどこ...あ」


慌てて立ち上がり辺りを見回すと、すぐ横で眠っている少女が目に入った。

あまりに焦っていた為気付かなかったが、ずっと隣にセレナはいたのだ。

気付かなかった自分の愚かさと焦りに、ルイは気を引き締める為、自身の頬を叩く。


「...ん...んん」


「おーい、セレナ。起きろ。朝だぞー。」


まさかこんな母親みたいな言葉を自分が言う日が来るとは思ってもみなかった。

毎朝、母の目覚ましの声は憂鬱であったのは、全学生が共感するだろう。夢から現実に引っ張りだされた上に、うるさくて堪らない声が、何とも不愉快だったのを思い出す。


ということで、毎朝優雅に目覚めてそうなこの姫様には、現実世界恒例の母親目覚ましを食らってもらおう。


「セレナ〜!朝で〜すよ〜!っぶ!」


「うるさいっ!」


頬に小さな拳がめり込まれ、ルイは後ろへ倒れる。

予想外の一撃に、ルイは動揺隠せない。


「お、お前!起こされて不機嫌なのは分かるが、殴る事はないだろっ!そんなことしたら母親ブチ切れ案件だぞ、朝からちゃぶ台返しされるレベルだぞ!」


「意味わかんなよ!ていうか、お兄ちゃんはママじゃないっ!」


「あ、そうだった。」


と、2人の朝から騒がしい会話が、静寂な森の中で響き渡っていた。


「ここ、魔王城じゃないもんな...何処に転移したかとか分からないよな?」


「う、うん。なんか、咄嗟に魔法使わなきゃって思って...一気に解き放たれたって感じだったの。私でも、何が起きたか分からない。」


「...魔王城より、かなり暖かいな。」


正確な気温は分からずとも、肌感で魔王城よりも暖かい土地に転移したことは分かる。

単純な話で言えば、南の方向に飛んで行ったと考えられるだろう。この世界が地球と同じ地形であれば、南に行けば行くほど暖かいはずだ。単純な話では。


「なぁ、この世界の地形って...って、地理無理なんだっけ?」


「うん...。」


「ここが何処かも分からない状態かぁ...よし、とりあえず人が居ないか探してみるか。」


そして、2人は森の中を歩いて行く。


茂みの中で青い目を輝かせる獣の気配も感じ取らず、太陽の方向へ足を進めて行く。


ルイとセレナは自然豊かな生態系を感じつつ、森を数十分歩き回った。

時折、セレナが虫を怖がり騒ぐので、ルイが仕方なしに背中に乗っける。


「おい、コレ何だ!?気持ち悪い!」


「ぎゃあああああ!!!!!!」


ルイの足元の葉をスルスルと動き回る蛇の様な生物。大きさも形も殆ど蛇なのだが、本来尻尾がある部分にも頭部がある2つ頭の異型生物を発見してテンションが上がるルイ。そして、悲鳴をあげるセレナ。


そんな事が5、6回ありながらも、ルイとセレナは深い森の中を遂に抜ける事に成功する。


緑を抜けたその先に広がる世界、そこは--


「...村だ。」


普通の村が、あった。


建物の多くは木材を中心とした建築。

畑や牧場がある事から、自給自足をして暮らしている村であることが分かる。

ルイは、この世界の文明がどれ程進んでいるのか分からなかった為、この建築が普通とされているのか、田舎とされているのかの判断は出来ない。

ただ、異世界人であるルイから言わせれば、間違いなく田舎であった。


「お兄ちゃん、人が見えるよ。」


背中におぶられたセレナが、村の方向を指さしてルイに語る。

ルイも、その方向に目をやるとごく普通の生活を送っている村人達の姿が見えた。

ほとんどの村人の髪色が茶色だったり金だったりで、この世界の髪色の常識は黒が普通の色という訳では無い事が分かった。


服装に関しても、中世ヨーロッパの様な衣服であり、異世界そのものって感じの世界観であった。


ルイは異世界に来てから、魔王城でしか生きてなかったので、こうして普通の世界を見ると、何だか異世界転生を実感してくる。


「考えてみたら、異世界転生直後に魔王城とか、頭おかしいからな...。転生っつーのは、もっと順序良く、勇者になって、敵倒して、ようやく魔王城に行くってもんなんだよ。」


「お兄ちゃん、よく分からない事言ってないで、早く行こう。」


「お、おう。でも、何て声かけようかな。」


「普通に、ここはどこですか?って聞けば良いでしょ!」


と、子供であるセレナに怒鳴られてしまい肩身が狭いルイであった。


草原に広がる村へ進もうと、一歩進んだ時だった。


--ドサッ


背後で、何かが落っこちる音がしたのだ。


「ん?」


ルイが振り返ると、そこには赤い果物がカゴごと地面に落ちており、一人の少女が立っていた。


「---」


少女は、真っ赤な長い髪の毛を腰まで伸ばしており、村人達と同様の服装をしていた。

長いワンピースの様な服を着ており、何やら唖然とした表情になっていた。


目の前の現実に理解を苦しむ様な、そんな顔を。


「....な...んで...」


震えた声で、少女がそう言った。

そこでルイは、世界では自分が大悪党とされている"ルイ・レルゼン"である事を思い出す。


何気に今まで全くルイに怯えないセレナと共に行動していたこともあり、自分の素性を忘れかけていた。

自分が、存在してはいけない人間であることを。


だが、それは今のルイではなく、過去の"ルイ"の事なので、必死に弁明を試みる。


「あ、ご、誤解だよ!俺は--」


「--お兄ちゃん!?」


「--っ!どの...」


弁明より先に、少女の白い手が、ルイの首元に迫っていた。

背中にいるセレナ諸共地面に尻もちを着いてしまう。

セレナは無事、地面に着地したが、ルイの首には少女の手が添えられていた。


力強い、殺意のこもった手で。


「ぐ...ぐぁ....っく!」


「どの...面下げて!!!!」


押し倒されるルイの身体に跨り、少女は全体重をかけてルイの絞殺を試みる。


意識が飛びそうな程の苦しみが与えられ、呼吸の器官が閉ざされる。


頭から身体へ血が回らなくなり、脳がフワフワしてくる。汚らしい唾を口から吐き出すも、少女は全く手を緩めることなく、ルイの首元を捉えて離さない。すると、


「っ!....ぐ.....」


「お兄ちゃんを!離せ!」


セレナが少女目掛けて突進をして来る。

小さなセレナの身体よりは大きい彼女。それでも、横に飛んでくるセレナの突進に思わず「うぶ」と声を漏らし、草原に倒される。


「っがは!!!っは!はぁはぁはぁ.....」


「お兄ちゃん!大丈夫!?」


「あ...あぁ、助かった。セレナ。」


本当に、危機一髪の所をセレナによって救われた。心の底からの感謝を込めて頭を撫でるが、今はセレナと戯れている暇は無い。


「...」


「で、気は済んだか?」


「っ!そんな、訳ないでしょ!」


声を荒げて叫ぶ少女にルイは眉をしかめる。

彼女は"ルイ"に何か怒りがあるのかもしれないが、生憎今のルイは"ルイ"ではない。

暴力を受ける筋合いは無いと、ルイは考える。故に、また彼女が首を狙うのであれば、ルイは迷わず正当防衛をするつもりの覚悟だ。


「君が、怒る理由は分からないでもない。俺が何かをしちまったんだろう?でも、聞いてくれ、俺は--」


「ふざけるなっ!何かしてしまったで済むか!!!!」


「...」


完全に聞く耳を持たない少女。怒りMAXで戦闘態勢だ。

ルイは複雑な表情を見せながら構える。

万が一少女が魔法を操る者であれば、ルイは油断出来ない。ここで死ぬのはあまりにも理不尽すぎる為、最大限の抗いを決める。


少女は叫びをやめない。


「お前は、何をやったのか、分かってるのか!?」


「...な、なんだよ。」


「実の、母を殺しておいて、良くものうのうと帰ってきたな!クソ兄貴!!!!」


「...え」


少女は、涙を浮かべた怒りの眼でルイの顔を睨み付けた。


「クソ兄貴」と、ルイのことをそう呼んで。

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