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勇者の贖罪  作者:
1章 『魔王城脱出』
28/32

27.『始源の間』

目覚めると、何度も見てきた黒い天井が--


「ばぁ」


「ぎゃああああああああああああああああ」


突然、横からひょいっと現れたのは頭蓋骨であった。

ルイはホラーもビックリ系も無理な人間なので、この寝起きの頭蓋骨挨拶は、ルイを気絶させてもおかしくなかった。

無意識に身体が後ろへ走って行き、壁に頭を激突させた。


「あははは!驚き過ぎ!!!」


「お、おおおお、おま、おまま、お前なぁあああ!」


頭蓋骨を手に持ちながら、ケタケタと笑っている少女。セレナは目から涙が出る程ルイの滑稽さを面白がっていた。

そんな彼女の事を激しく睨み付け、ビクビク震える膝を手で抑える。


「ったく、セレナ...無事だったか。」


「うん、大丈夫。お兄ちゃんも、大丈夫...そ、う...だね...っぶ...っぷははははは!!!!」


「お前なぁあああ!!!!!」


落ち着いた所で、2人は辺りの散策に赴く事となった。セレナが目覚めたのは、つい先程のことで、ルイとさほど変わらない。目の前の祭壇の上に頭蓋骨が置かれていたのを見て、興味本意で手に取った所で、ルイが目覚めたので先程のドッキリをした模様。


祭壇に置かれている頭蓋骨を持つ所でちょっと待て案件なのだが、異世界ではそのような行動が不敬になるという考えは無いのかもしれないともルイは思った。


常識が違う異世界に現代社会の常識を投げかけるのは違う気がしたので、あまり言及しなかった。


「よし、ちゃんと階段無いな。」


「ちゃんとって何よ!普通に大ピンチじゃない!」


「何言ってんだ、俺達があの大きな広間で目覚めた時も階段なんて無かっただろ?そのおかげで、俺達は階段が常にあるという固定概念を壊す事が出来た。だから今回も当然の様に無い階段に驚くことも無く、順応出来るってことよ。」


「訳わかんないし、ピンチに変わりないし。」


ルイのアホくさい説明に子供ながら肩を落とすセレナ。彼女のバカを見下す目が何とも苦しかったが、メンタルは鍛えられているのでこらえることが出来た。


「てか、俺達は何処に飛ばされたんだ...?」


「2階、じゃないもんね。明らかに部屋の空気が違う。何かちょっと寒いし。」


「...今回も、セレナの魔法って線は...」


「違うよ、私じゃない。絶対、アレでしょ。」


「だよなぁ」


ルイとセレナが目覚める前、最も新しい記憶は黒い霧に飲まれて行く記憶だった。

ロイの身体から溢れ出る黒に2人はまんまと飲まれてしまったのだ。


しかし、目が覚めて辺りを見回した瞬間に気付いた。

飛ばされたのだと。セレナの魔法のように、どこかへ転移させられたのだ。

黒い霧によって殺されたり、どこかへ閉じ込められたりという考えもあったため、ひとまず一安心はしたが、問題は何処に飛ばされたかだ。


「魔王城の黒い壁とは、ちょっと違う様な感じだよなぁ。」


「うん、随分と古びてるよね。ヒビがいっぱい。」


「出口も見当たらんなぁ。セレナ、転移できるか?」


「ここが何処か分からないから難しいかも...」


「それってどゆことなの?」


セレナが魔法の使用困難と言うが、ルイはイマイチピンと来ていなかった。


「例えば、私がこの壁の奥に転移した時、ここが高い所だったら、落ちて死んじゃう。地下とかだったら、土に埋もれて死んじゃう。分かんない所で魔法使うのって、結構危ないんだよ。ママが言ってた。」


「え、詰みじゃん。」


ルイ・レルゼンの贖罪の道は、終わった。








「諦め早すぎるって!!!!」


セレナの怒号が、部屋中に響く。ルイの耳元で叫ばれた彼女の声は、鼓膜から脳へと渡り振動する。


「うーん、でもどうすりゃ...。つか、俺ほんと閉じ込められてばっかだなぁ!」


思い返せば、ループする廊下から始まり、1階の階段の無い大広間、花畑での見えない壁、ルイは結局の所、自力で脱出出来た試しが無い。

と言うか、セレナに頼らなければ何も出来ない。


「あ、じゃあ、思っきし高い所まで転移しちまえば?」


「...どういうこと?」


「要は辺りの地形が分からなくて危険だから転移が出来ないんだろ?だったら、いっそ空に転移する勢いで飛んじまうんだよ。」


「...はぁ。」


「どうせここ魔王城だろ。魔王城から一旦外に出る事を考えよう。城さえ出ちまえば、外の地形が確認出来て、転移も出来るだろ?」


我ながら良い作戦だと思う。セレナの転移の障害となっているのは、壁と未知の地形だ。

であれば、壁が無く地形を理解出来る外に行くのは至極当然の話。

そして、セレナが考慮している壁の奥が土の場合生き埋めになる問題。これは、ルイはセレナの考え過ぎだと考えている。


部屋の構造からして、恐らく魔王城であることは明白。そして、ルイとセレナは魔王城1階を知っている。

あの大広間には下へ続く階段は無く、魔王城の最下層はあの広間であると考えられる。

更に、セレナは一度壁の外へ転移している。

ルイから逃げている時の事だ。彼女は一度中から外へ転移し、再び外から中へ戻って来た。この事から、壁の奥で生き埋めになる心配は無いと考えている。


「でも、怖いのはここが高い所だった場合だな。」


むしろ、ルイが考えるのはここが高い階層で、壁を出た瞬間上空から地上に落下する危険性だ。


だが、それは上空まで転移するルイのやり方と何が違うのか?

時間の猶予だ。


例えば、ここが20階だった場合、壁を出ると、20階の地点から地上までの落下の間に落下死を対処しなければならない。

だが、遥か上空まで飛ばされれば、かなり時間に猶予が残る。更に、魔王城の周辺状況の確認もできる。

落下中にもう一度転移を使って安全地への避難も、最悪落下中での、"タイミング見計らい地上転移"も可能。


地上に落下するギリギリで地上に転移するイメージ。これなら落下衝撃が無くなる。なんて素晴らしい案だろうか。


「魔力が足りない。」


「む...」


だが、シンプルにセレナの魔力が枯渇していた。

そもそも、子供である彼女の魔力はたかがしれていたのだ。それなのに、今日1日で何度も魔法を酷使した結果、もう魔力がすっからかんとなっている。


「ちょっと、時間をくれたら魔力回復するかな。」


「どんくらいだ?」


「24時間くらい」


「んぐ...」


セレナの魔法を頼る立場なこともあり、何か言いたげな顔をしつつ、何も言えないルイ。

腑抜けた声を出して、セレナの顔色を損ねる。


「はぁ...お兄ちゃんは私を守る立場ってこと、忘れちゃった訳じゃないよねぇ?」


「ん」


「なーんか、さっきから私頼りじゃない?」


「そ、そんなこたぁありませんよ。俺も俺なりに色々と...ん?」


適当な事をペラペラと喋って適当に身体を動かし、働いてる感だけ出すのはお手の物であったルイだが、ふと、壁に刻まれる文字を目にする。


「...し、しげんの...間?」


『始源の間』と、壁にはそう刻まれていた。

所々にヒビが入り、薄汚れた壁にはっきりと。


と、ここでルイはとある事に気づく。


「あれ、何か...読めないのに、読める。」


「...何言ってんの?」


ルイのすっとんきょうな発言に「?」を浮かべるセレナ。だが、ルイにとっては些か気味の悪い感覚だった。何故なら、そこには明らかに日本語ではない文字が刻まれているのに、ルイはそれが何と刻まれているのか読めるからだ。


日本語、中国語、英語、どれでも無い。いや、この際どこかの国の言語であろうと関係無い。どうして読めるハズのない文字をルイは読めているのか。


「あれかな、転生特典かな?」


異世界転生ありがちな、異世界語は勝手に読めちゃうサービスとかではないかと、勝手に結論づける。

理由無く出来る事があるのは気味が悪いが、その事に疑問を持つのはこの際、時間の無駄だ。


「出来るもんは出来る。今は、考えんな。んで、始源の間って聞くと...なんか神々しい雰囲気の部屋に見えてきたな。」


「ねー、しげんって何?」


「始源は、なんて言うか"始まり"って意味。何かの最初で、根っこって事。つか、これ俺の世界での意味ね。この世界でどう使われてるかは、お前のが詳しいんじゃないのか?」


「言語あんまり勉強してないんだよー。」


「勉強しろい、姫様が。」


「その呼び方!!!」


------


ロイ・レルゼンの魔法は、『闇』だ。


かなり大雑把な説明になるが、ロイは基本『闇』を連想するあらゆる現象を引き起こす事が出来る。

その中の一つ、"黒霧(くろぎり)"。これは、時空に干渉する危険な技であった。


対象の相手を異空間へと引きずり込む魔法で、ロイから放たれる黒霧の中に入れば最後。その者は永遠に異空間を彷徨う事となる。

しかし、これはあくまで完成系の時の話。ロイの黒霧は未完成。異空間へ一瞬だけ送り込む事は出来ても、そのまま閉じ込めるという事は出来ない。


だが、異空間と現実世界は並行している。

宇宙空間の様に広がる異空間において、一瞬でも入ってしまえば、元いた現実世界の座標と、戻って来た時の座標に大きな差が生じる。


ロイは自身を巻き込む黒霧によって、脱出&2人の転送を行った。


その結果、ロイは魔王城7階に辿り着いた。


「状況は最悪だ。」


何度も見た様な装飾が飾られる部屋の中でそう零したのはロイであった。

彼は包帯を自身の身体中に巻き付け、痛々しい格好をしていた。


「これで俺の信頼ってやつもゼロになった訳だが...まぁ、そっちの方が都合良いか。」


ロイは廊下を進みながら神妙な面持ちになるが、直ぐにとある考えに行き着いて問題無しと捉える。


「そっちはそっちで、上手くやれよ、ルイ。」


と、聞こえるはずのない呼びかけが、暗闇の中で響いたのだった。


------


「あぁ、アイツ、フェイって言うのか。」


「そう、あんなんだけど、とっても頼りになる騎士様!」


と、何やら緊張感の無い会話を繰り広げるルイとセレナ。彼等は今、セレナの魔力回復を待っている最中であった。

ルイの上空への長距離転移、『魔王城脱出作戦』と銘打って、この案を軸に動いていくことにした2人。

しかし、それ程長距離転移をするのには、魔力が足りなすぎる事もあり、今は魔力回復兼他の案考案中なのだが、会話が脱線して、セレナのそばに居た黄緑髪の騎士の話になっていた。


「 成程、つまりフェイって奴が俺とデリーナを閉じ込めようとしていた犯人か。んで、金髪の男に?」


「うらぎり?って、言われてたかな。」


「ふむ...」


ふと、デリーナの発言を思い返してみる。

それはルイの記憶喪失が発覚して直ぐの事だった。ルイはデリーナに仲間の数を聞いた覚えがある。


『--仲間ね...私が仲間だって認めてるのはルイとニカルドと、ペルー...だけよ。』


--裏切り...。


「大体...分かってきたな。」


デリーナの発言と、フェイという男を結び付けると、彼は元々ルイ達の仲間であったのかもしれない。

しかし、何かが原因でルイ達を裏切り陥れようとした。だから、あの時デリーナはフェイの事を考えて仲間の数を聞かれて顔をしかめたのかもしれない。


「それで、金髪の男の名前が?」


「ん?あぁ、うん、すっごい怖い顔のお兄さん。確かニカルドって言われてたようなぁ」


「ニカルド...。」


結び付く。ルイのかつての仲間。

デリーナ、ニカルド、ペルー、そして恐らくフェイ。


「そんで、一番重要そうなのは...アイツだな。」


「誰?」


「お前の大嫌いな...」


「っ!ロイ・レルゼン!?いやっ!」


口にしただけで、セレナは頭を抱えてトラウマをフラッシュバックさせてしまう。セレナに与えた恐怖は言葉に言い表せない程であろう。ロイ・レルゼンという男は、それ程ヤバい奴なのだ。


ところで、今ルイは何について話しているのかと言うと、彼の最大目的に関わる重要な話だ。

彼は、異世界に来てから、一貫して一つの事しか望んでない。


「俺の、記憶の取り戻しに必要な(ピース)。」


"ルイ・レルゼン"を取り戻す戦い。

コレが最重要目的だ。ルイは自分がしでかした事は自分で片をつけるのが筋。

セレナの心を壊したルイが、償いとしてセレナの心に寄り添い続ける様に、"ルイ"が壊したモノは"ルイ"が何とかしなければならない。


その為にも、一刻も早く記憶喪失の原因を探っている。と言うのは建前。ルイは誰にも言えないが、現実世界への帰還方法を探っている。


ルイは傍から見れば記憶喪失。零から見れば、零による魂の乗っ取り。だから、零が居なくなれば"ルイ"が戻ってくると踏んでいる。その為に、"ルイ"を呼び起こしそうなかつての仲間達、そして何か知っていそうなロイが必要だった。


「でも、俺現実世界で死んだわけだけど、帰れるのかなあ。つか、普通に今度はちゃんと転生させて欲しい。」


「さっきから意味わかんない事言ってないで。ほら、魔力回復したよ。」


「人が浸ってるってのにズケズケと入ってきやがって...て、え?魔力回復したの?」


嘆くルイにチョップをしながら声をかけるセレナに顔をしかめるルイであったが、彼女の発言に目を開かせる。


「待て待て、24時間くらい必要って言ったろ?」


「う〜ん、何か分かんないけど、目覚めてから魔力の回復が異常で...それどころか、何か、いつもよりすっごい事出来そうな気がしてくるの。」


ウキウキとした顔でそう述べる彼女にルイは開いた口が閉じなかった。

これは嬉しい誤算だった。正直ここでかなり時間を食われると踏んでいた為、これ程のスピード復活はルイにとって最高だった。


そして、ルイはとあることに気付く。


「...なんか、俺もすっごいこと出来そうな気がする。」


ルイ自身も無意識に魔力が溢れ出るのを感じるのだ。

セレナからダダ漏れになっている様に見える魔力の流れ。それがルイも同じようにダダ漏れだった。


ルイはこれまで、理由も無く魔力が強化されていくのを感じていたが、今回のは異常だった。

全知全能にでもなった気分だった。


「もしかして、この部屋が原因か?」


これほどの魔力向上は何か理由が無ければおかしかった。一番可能性があるのは部屋にかかっている魔法の効果によるバフとかではなかろうか。

ルイはそう考えるが、本能がそうでは無いと否定する。


「...」


「アレ、かな?」


ルイとセレナはあるモノに視線を合わせた。


「---」


それは、何も言わないし何もしない。何も出来ないハズのただの物体だ。

純白の白が美しく輝いている。ヒビも入っておらず、古代のモノでは無く、割と最近のモノなのかもしれない。

不思議なオーラを醸し出す、祭壇に置かれている真っ白な頭蓋骨を見て、セレナとルイは魔力向上の原因をソレであると仮定した。


この日、起こった魔王城の混乱は幾つもあるが、"エルダーの封印"と同等の混乱の一つは、これだ。

500年間、一切の侵入者を許さなかった『始源の間』そこに現れた、2人の侵入者。


そして、2人の侵入者によって、これより引き起こされる大事件は、世界に大きな影響を与えるモノとなる。

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