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勇者の贖罪  作者:
1章 『魔王城脱出』
25/29

24.『--ナ』

デリーナ・エイリの魔法は、『魔炎』だ。


身体に張り巡らされた魔力を炎に変化させ、灼熱の攻撃を繰り出す事を可能とする魔法。

更に、この炎は普通の炎とは異なり、魔術に対して効果的な能力を有する。


呪いや魔法によるデバフを自らの炎で焼き切る事が可能であり、呪術の類には滅法強い。

傷すらも治そうと思えば彼女の炎にかかれば容易いだろう。


本気を出せば彼女の身体を巻き付ける鎖すらも--


「それは、無理そうね...。」


否、それは出来ない。

彼女の魔法についてはフェイも理解してる。

ただの鉄の鎖等彼女にかかれば容易く溶かされてしまう。

当然の様に鎖には細工をしてある。あらゆる魔法を無効化する鉄を使用し、魔法による鎖の破壊を禁じている。


要するに、今の彼女は、魔法を使う術がない。

故に、何も出来ない、今の彼女には。


「...」


デリーナが歩く度に、階段を鎖の揺れる音が鳴る。

無力な彼女は騎士に連れられ階段を下りることしか出来ずにいる事に酷く憤りを感じている。

1分1秒でも、今のルイを一人にしてはいけないと思っている為、鎖の解除方法を頭の中で模索し続ける。


『魔炎』は、あらゆる魔法が現れ、高度な技術と応用が要される近年の魔法文化の時代では何とも平凡な魔法である、というのが世界の評価。

ただ炎を出すだけで魅入る様な力は無い。


その意見は、デリーナ自身も十分に実感していた。これまでの旅で、彼女は多くの敵を倒して来たが、小賢しく、回りくどい高度な魔法に対しては滅法弱かった。

元々考える事もそれ程得意では無い彼女は、自身の魔法が単純な事を、どこかで安心していた。


「...」


--こんな、鎖すら焼けないなんて、私に存在価値はあるの?


だから、こんな単純な術を編み込まれている鎖は、デリーナは何とかしなければいけないのだ。

単純な力技で単純な魔法無効化の術を解く。簡単な話だ。何故、出来ない。


「デリーナさん、考えてもどうしようもない事はありますよ。」


彼女の思考に土足で踏み込んできた声の主は、当然彼だった。


「...何?フェイ、軽々しく名前呼ばないでくれない?」


「罪人が、大口を叩くなんて事、あってはいけませんよ。常識は相変わらず身についていないようですね。」


「...何、ぶっ飛ばして欲しいの?」


「いや、常識無いから罪人なの--」


「っ!」


フェイに鬼の形相で急接近するデリーナ。

しかし、それを止めたのは意外にも連行している騎士では無く、同じく連行の身柄であるニカルドだった。


デリーナをニカルドの身体が思いっ切り床に打ち付け、身動きを取れないようにする。


「ニカルド!退いて!」


「デリーナ、今の俺達は無力だ。余計な波風は立たせるもんじゃねえ。」


「でもっ!コイツ...何なのさっきから!」


デリーナは、床に打ち付けられ顔を冷たい床に付着させながら、目の前に立つ男を睨みつける。

彼女を見下しているその男は、静かに前髪を整えながら呟いた。


「...ごめんなさい、八つ当たり...かもしれないですね。」


「...」


「でも、これは...僕の本音です。」


「...何よ。」


「もう、ルイ・レルゼンに、人生を棒に振るのはやめてください。デリーナさん、ニカルドさん。」


「っ!何を....」


言葉が、詰まってしまった。

デリーナは決して、ルイのせいで人生がめちゃくちゃになったなど、考えていない。

彼には感謝しかないのだから、彼に命を捧げると誓ったのだから。彼の隣で生き続けると決めたから。


反論したかった。心の奥底から。


でも、そんな、そんな風に、


悲しい顔をされたら、言葉が詰まってしまう。


「...僕は、あなた達が大好きだったんです。...だから、これ以上、憎ませないで欲しい。」


それだけが、フェイの本音だった。


「仲間って、何なんですかね、ほんと。」


フェイは、今、2人の青年を思い浮かべる。

1人は『英雄』だったが、暗く、闇を抱えていそうな顔をし続けていた青年。

1人は『悪党』だったが、明るく、白い光の様に輝く顔をし続けていた青年。


どっちも、仲間だった存在で、フェイが裏切られた存在。


彼は運命の神に振り回され続ける不幸な人生を歩んできた。

これからも。


「フェイ」


「メリーさん?」


上の階段から降りてくる青髪の少女 メリー。

杖をつきながら下りてくる彼女の顔は何処か浮かない様子であった。


「どうでした?生存者はいました?」


「37階までは確認出来ました。そこから上は私程度では無理ですね。とりあえず、37まで生存者は居ないです。」


「...そうですか。」


「...というか、死体すら見当たりませんでした。」


「まさか...。」


「そゆことです。フェイの言ってた通りかと。」


2人の意味深な会話に首を傾げる捕縛者の2人。何かに気がついた様子のフェイの表情は仲間時代から分かりやすかった。


「あと、私気になる事があるんですけど。」


「はい?」


右手を小さく上げて、疑問を投げかけるメリーに、口に手を当て、思考を巡らせてる中視線を逸らすフェイ。彼の目は彼女の発言によって再び動揺することとなる。


「不気味過ぎませんか?エルダー封印の報告から時間が経っているのに、魔王側のアクションが一切無いなんて。」


「そうなんですよ、こっちはエルダーさんが負けた時、抗う術が無いので、魔王側からしたら人類を潰す絶好のチャンス。」


「...あの、もしかして...」


「はい、僕はそう思ってます。」


「まさか...エルダー封印っていうのは--」


「--(ブラフ)、です。恐らく。」


------


デリーナとニカルドを拘束する鎖の鉄は、『魔鉄』だ。


これは、触れている生物から魔力を吸い取り魔法の使用を不可能にさせる性質を持つ。

そして、どんな魔法であっても、この鉄を破壊する事は困難だ。魔法で火を浴びせれば、瞬時に火の魔力を吸い取り、無傷となり、斬撃で割ろうとすれば、瞬時に斬撃の魔力を吸い取り、無傷。


魔法に対しては厄介過ぎるモノだ。


では、この鉄は破壊不可能ということか?


否、普通に壊せば良いのだ。


魔法を使用しなければ、それはただの鉄となる。

鉄さえ壊せれば、彼女達は開放される。


デリーナは、魔力無しで、この鉄の鎖を破る事が出来る。これは彼女の本来の筋肉量が為せる所業であり、彼女はそもそも、魔法に頼らずとも鉄や岩程度であれば簡単に崩す事が出来る。


「メリーさん、魔力はまだ残ってますか?20階に魔力の気配があります。魔王軍の残党かも。」


「魔力...あんまり残ってないけど、やってみましょうか。敵はどんな見た目ですか?」


「すいません、暗すぎてよく見えないですけど...黒い格好です。」


目を赤く発光させてシンクロ中のフェイが言う。

現在彼らは22階から21階へ下りている最中であり、フェイの魔法であるシンクロで20階にいる何者かを感知した様子。


その会話を聞いて、デリーナは考える。


--もし、戦闘になれば...抜け出せるかも。


「...ニカルド」


「ん?」


彼女は2人の騎士とフェイ、メリーに気づかれぬくらいの小声でニカルドに声をかける。


「20階にいる何者かとの戦闘になった時、その時が、絶好のチャンスよ。」


「...あぁ、頼んだ。」


「全速力で、1階まで下るわよ。ルイを探しながら。」


デリーナは、自力で鎖を破る事が可能。

だが、今破った所で、彼女は2人の騎士にきっとおさえつけられる。

フェイは簡単に倒せるが、問題なのは連行しているこの2人の騎士だ。


彼女が捕縛された時、彼女は勿論全力で抗った。

フェイは戦闘向きでは無いので、何も出来なかった。

青髪の女、メリーは魔法を使ってきたが、デリーナであれば簡単に対処出来る程度の魔法であった。


しかし、意外にも2人の騎士が手強く、デリーナは彼等に囚われてしまったのだ。

1人は茶色の髪色をした短髪の大柄な男。強固な顔を保っており、一切緩まぬ顔筋は固い意思を示している。

1人は長い黒髪を後ろで束ねている美しい顔をした美少女であった。だが、彼女もスンと凛々しい顔を崩す事はなく、油断の出来ない人物。


メリーはどうやら魔力を使い過ぎている様で本調子では無いと見える。今の力差で言えば、メリーとデリーナはデリーナに分がある。


「---」


だが、この2人の騎士が、それを補うレベルの強さを持っている。はっきり言って、この2人はニカルドとデリーナをら捉える実力者なのだ。簡単に倒せる脇役ではない。


そんな2人を見て、デリーナは頭を悩ます。


そんな時だった。


「...来ますよ。」


「そうみたいですね。」


フェイとメリーが、下からやって来る謎の気配に気付く。

コツ、コツ、と、階段を上ってくる足音が、暗闇から聞こえてくる。


「...ニカルド」


「あぁ...」


戦闘が始まれば、騎士達は戦力、恐らくメリーをそちらに削ぐことになる。デリーナがニカルドの鎖も瞬時に破れば、勝機は見えてくる。

あわよくば、2人の騎士が戦闘に狩りだたされれば、勝機はグンと跳ね上がる。


足音が近くなる度に、緊張感が高まる。


そして、声が、聞こえた。




「--ナァ」





「ぇ」


暗闇の階段から上がってくるのは、金髪で3メートル程の高さの女、否、化け物だった。


化け物の足が階段に付着すると、その足から数本の花が、咲き誇った。


「ナァアアアアアア」


暗闇の階段の中、化け物が怒り狂った様に叫んだ。

そして、世界が花畑と化した。

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