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勇者の贖罪  作者:
1章 『魔王城脱出』
22/29

21.『ルイの魔法』

この世界における魔法は、ある程度認識してきた。

基本、何でも出来る能力であることは間違いない。

そして、使える者も割と多め。青髪女、デリーナ、セレナ、化け物。転生してから出会った者たちの殆どが魔法を使用している。この世界では魔法は希少という訳では無い。故に、それ程圧倒的脅威という訳でもない。


転生直後、腹に思いっきり魔法と思われる攻撃を青髪の女から受けたが、ルイは死ななかった。

魔力とか、種類とかあるだろうが、魔法という異次元の力は、この世界では異次元の強さという訳でもないようだ。


それは、少し残念な話ではある。

異世界に転生して、正直魔法というものに期待していた側面もある分、そこまで脅威では無いとなると、ガッカリ感が否めない。


魔法は、大抵の人間が有してる。


さて、


ルイ・レルゼンは魔法を持っているのか--


------


一太刀一太刀が、全て決定打になりうる緊迫感。

鋭い先端は常に致命傷になりうるであろう箇所を狙っており、油断をした瞬間命は無い。


中学の体育で、剣道の授業をした事がある。

あの時はとにかく相手に木刀を当てることに必死で、互いに木刀を避ける意識が少なかった。


だが、本物の剣。本物の命のやり取り。


まさか、ここまで、ここまで恐ろしいとは。


「動きが鈍くなったんじゃぁねえか!?」


「--っ!」

「お兄ちゃん!そっち!」


ロイの剣を受ける事で精一杯のルイは、セレナの指示の元、何とかギリギリの攻防戦で堪えている。

ルイが剣を受け、セレナがロイの剣を見る。


そうしなければ、対応出来ない。

ロイの剣はあらゆる所から打ち込まれ、神経を注がなければ見落としてしまう。


右から、左から、上から、下から、次の行動を相手の動きから読み取るのは、今のルイには無理だ。

剣を剣で受け流す事に神経を使わなければ、殺される。なので、動きを読み取るのは、セレナに任せる。


しかし、ここまでとは思いもしていなかった。


「クソ...こっちから攻撃出来ねぇ。」


「やっぱり、そこの姫様が重りになってるようだなぁ。さっきまでとは動きも太刀筋も鈍い。」


そう言い、ロイはルイの背中に捕まるセレナを見る。


「...」


正直、その通りではあった。先程までは一人でもロイの剣には対応出来ていたし、こちらからも攻撃出来ていた。セレナをおぶりながらの戦闘はキツイ。それに、セレナの命もかかっていると思うと--


「きっついなぁ...。」


命を背負うというのは、これ程恐ろしいものだったのか。決意はした。彼女を守ると、それでも、怖いものは怖い。


「お兄ちゃん、絶対に守ってもらうからね。」

「わーってますよ...。姫様。」

「その呼び方やめて!セレナって呼んでよ!その呼び方...怖いよ。」


「んー?なーに、俺見てんだよ。姫様。」


ロイの悪魔のような笑みと共に向けられる視線に、セレナは怖じける。

殺人鬼の目をした彼を前にして、先程まで余裕をぶっこいていたルイですらも、


「怖いな」

「...うん。」


魂がヒリヒリする。


命をかけて戦うこと。

誰かの命を背負い戦うこと。


ここまで、精神にくるものがあるとは、思ってもみなかった。


自分が死ねば、セレナも死ぬ。そんな思考が動きを鈍くする。

死んでもいいと思って戦っていた時とは違い、今回は生きて、守らなければいけない。


「すっげーヒリヒリするよ。」


「震えてんぞ、腰抜け。」


「武者震いだよ、マヌケ。」

「...むしゃぶるい...って、何?」


震える身体を気合いで、静止させる。

心を落ち着かせ、深呼吸をする。


『--凄い人間になってやる。』


「決めたんだよ、人生やり直すって!」


ルイは、そうじぶんに言い聞かせ、床を蹴り飛ばす。

ロイの腹に一直線に剣を突き刺そうとする。


「ふん」


「っ!」


しかし、ロイの剣は下からルイの剣を持ち上げ、ルイの剣先は天井へと向けられてしまう。

その隙をロイは見逃さない。今度はルイの腹に、ロイの剣先が届かんとする。


「っんぐ!」


「お」


身体を最大限捻り、何とかかわすも、また1秒後には彼の剣先は再びルイへと向けられる。

避けて、避けての繰り返し。


「ふんっ!」


「っ!」


ルイの剣が、ロイの剣を捉える。


「力は...俺のが上だっ!!!」


「ちっ」


再び、ルイがロイを吹っ飛ばす。

やはり、力で言えばルイの方に分があった。

筋肉よりも別の何かに力が引っ張られている感覚がする。恐らく、魔力だろう。魔力がルイの肉体を強化している。


「...だが、決定打が見つからねぇ。」

「お兄ちゃん...死なないよね?」


「死ぬぜ、そこのお兄ちゃんも、お前もな。姫様。」


「...」

「...」


状況で言えば、五分五分。技術はあっちの方が上。

力はこっちの方が上。他に、何か、何か決定的な差があれば、勝てるのに。


「...セレナ、転移使えるか?」

「もう、魔力すっからかんだよ...当分使えない。」


もし、セレナの転移魔法があれば、瞬間移動なんかを利用して勝機が見えたが、それも今は使えない。

このままだと決定打が見つからず、ジリ貧で負ける。


「クソ...約束したんだよ。守るって。」


「簡単に、約束なんかすんじゃねえよ。」


ロイの視線が、急激に冷たくなる。

冷徹な声と目が、ルイに向けられた。怒りと悲しみを混じえた感情が、ロイにはあった。


「守れる保証もねぇなら、ハナから約束なんざするもんじゃねえ。それはただ一時の感情に身を任せたクズがやる算段だ。俺ァそいうのは好きじゃねぇよ。」


「逆だろ、守れるから約束するんじゃない。約束したから死ぬ気で守んだよ。何事も出来るか出来ないかで見てたら...何も変わらない。」


「...あ?」


「やるんだよ...やれるか、やれないかで考えない。やるしかねぇんだ。」


--ここで変わんなきゃ、俺は一生変われねぇ。


「全部、変えにここに来たんだ。全部やり直すために、俺は異世界に来た。だから、死ぬ気で全部やるしかねぇんだ。」


「...なんだ、お前...」


ロイの顔が、みるみる禍々しい表情になっていく。


ガチギレだ。


「記憶無くしてもクソイラつくじゃねえか。」


「--っ!」


そして、大気が揺れ始めた。

周辺の空気がロイに集まっていくのを感じる。

黒い霧が、ロイの身体から解き放たれ、それはまるで、


「...魔法か」


魔法を解き放つ前兆の様子だ。


「...お前が、嫌いだ。見てるだけでイライラする。」


「俺もお前は好きじゃねえな。」

「お兄ちゃん!!!」


「死ね」


ロイの剣が、どす黒いオーラを纏いながら、ルイに振りかざされた。

黒い光が部屋に飛び散り、斬撃がルイ目掛けて飛んでくる。


「--っ!」


黒い光は、ルイとセレナを飲み込もうとする勢いで、迫って来た。


「お兄ちゃんっ...!」


セレナの声が、耳元で聞こえてきた。

怯えてる。声だけで分かる。


「大丈夫、信じてくれ。」


ルイは、セレナの顔を見て、ニコッと笑いながらそう言った。


------


ルイ・レルゼンに、魔法はあるのか。


ルイは異世界に来てから一度も魔法を使おうとしてない。あるのか無いのかも分からないためだ。

だが、この世界で魔法を使えるのは限られた人間という訳でもない。


少なくとも、ルイが異世界に来てから魔法を使ってない人間は、目の前にいる黒髪のこの男、黄緑の髪をした男。この2人だけだ。

他に、ルイが異世界に来てから出会ったのは、青髪の女、デリーナ、セレナ、そして化け物。

5人と1体。過半数が魔法を使用している。


そして、黒髪の男も、どうやら魔法を使えるようだ。

黄緑の男、彼は一瞬目に入っただけで、分からないが、彼も魔法を使えるだろう。ただの勘だが。


ルイが出会った人達、(多分)全員が魔法を使っている。


さて、ルイ・レルゼンに魔法はあるのか。


大悪党ルイ・レルゼン。

人を殺し、街を滅ぼし、戦争を起こしたルイ・レルゼン。使い方は良くない。でも、それでも、そんな事、考えれば分かる。


ルイ・レルゼン。彼に魔法は--


------


--厄介だ。


ロイ・レルゼンは、この状況に歯ぎしりを立てていた。剣の腕前で言えば、圧倒的にロイに分があるのは一目瞭然。

だが、その差を埋めるルイの魔力。


--完全に、高まってる。随分と大きくなってやがる。それに、何より厄介なのは...


「...」


ロイは、ルイを細い目で見つめた。

ルイの身体から立ち上る白いオーラ。ルイの身体を守るように、そのオーラは広がっていた。


--あの、防衛魔法。防衛魔法は、初歩中の初歩。魔法と言うのもおこがましい類だ。でも、記憶無くしてるクセに、なんでコイツ...防衛魔法使えんだ?


ルイ・レルゼンから立ち上る白いオーラは、常にルイ・レルゼンを攻撃から守っている。

普通に彼を物理的に叩けば防衛魔法が発動し、届かないようになっている。


その為、彼を叩くには攻撃に防衛魔法を緩和する簡単な攻撃魔法を加えなければならない。

防衛魔法を破くのはそれ程難しいことでは無い。実際、ロイはこれまで剣に簡単な攻撃魔法を加えていた。その為、ルイの防衛魔法は機能しておらず、彼が意識的に避けなければ攻撃は当たる。


だが、どうして。


--防衛魔法出しっぱなんて、魔力持たねぇだろ。


防衛魔法は、戦いの要所要所で使うバリアの様な感覚。常に出しっぱにしているのは使い方として非効率過ぎる。常に魔力を解放している状態で、愚行中の愚行。それに、そもそも出しっぱにするなんて、精神的にキツイハズだ。戦いで手一杯だと言うのに、防衛魔法に気が散れば、逆に攻撃が当たるかもしれない。


--つーか、なんでコイツ魔力が尽きねぇ。普通ならもうとっくに尽きてんだろ...。あぁ、そうか。セレナか。セレナが、ルイを....クソ、面倒な状況だ。だが、高度な魔法は使えまい。






「死ね」


ロイの持つ最大限の魔力を込めて、黒い光の斬撃を解き放つ。ルイ・レルゼンとセレナ・リーベを完全に消す為に。


いや、ルイ・レルゼンは死なないだろう。

どうせ、生き残る。


--防衛魔法も、身体が無意識にやってんだろ。そりゃそうか。ルイが簡単に記憶喪失なんてするわけねぇ。何か保険はかけてるだろう。


黒い光が、2人を飲み込んだ

完全に、当たった。


--ルイ、お前...一体どこまで、読んでいやがる。何を、企んでる。だがまぁ、これで、


「姫様の方は、死んだかな?」


2人に完全に直撃した黒い斬撃は破裂し、黒い煙となって、立ち込める。


完全に、2人を飲み込--


「--は」


「--これが、俺の魔法だっ!!!」


黒い煙の中から、白い光が、閃光の如く現れ、ロイ・レルゼンの身体を白い斬撃が捉えた。

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