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勇者の贖罪  作者:
1章 『魔王城脱出』
12/29

11.『--俺が英雄でアイツが大悪党』

白い光の中で、憎悪の声が聞こえてた。


アレは、今思うと、"ルイ・レルゼン"が浴びてきた憎悪の声だったのかもしれない。



覚えの無い濡れ衣を着せられた零は、激怒し理不尽さに悪態を打ち続けた。

黒澤 零は、可哀想な人間だ。


何もしていないのに、殺されかけ、憎まれ、絶望され、何も知らない、何もしてない。

どうして、そんな目を向けてくる。


多分、誰であってもこんな目に逢えば悲しい。

そして、誰であっても、こんな人生なら嫌だ、と、


死にたくなる。


零も例外ではなく、自分は不幸だったと、このルイ・レルゼンという人生に諦めをつけかけていた。


仕方ないことだ。悪いのは黒澤 零ではなく、ルイ・レルゼンなのだから。


------


「...お兄ちゃん?大丈夫?」


「あ、うん。へーき、へーき。」


ひょこっと視界に現れる少女はルイの顔色が悪いことに気づき心配そうな目で見つめてきた。


「そうだ、名前を聞かなきゃね、君、名前は?」


「私セレナ・リーべ。お姫様なんだよ!」


自慢するように鼻を高く上げ腕を組む少女の名を聞き、ルイは少し戸惑う。

お姫様と言われてもこの世界の国も王も何も分からないしどれくらい偉い立場なのかいまいちピンと来ない。


「俺ルイ・レルゼンらしい、よろしく。」


「らしい、って、随分と他人事の様に言うのね、変なお兄ちゃん。」


「うん、まぁ記憶喪失になってるから他人事感は否めない。」


「そっか、........へ?記憶喪失?」


「...ん?うん、記憶喪失。」


「記憶喪失?」


「記憶喪失」


「...っはぁあああああああ!?!?!?」


セレナの叫び声にギョッとなると同時に、自身の記憶喪失を完全に周知の事実として喋っていた自分の馬鹿さをしみじみ味わう。


記憶喪失なんて言われたらこのくらい驚く。

それこそセレナにとってのルイは自分を助けてくれた勇者であって、恩人的立ち位置。その人物が記憶喪失だなんて言い出したら、聞きたいことは山積みだ。


「...それじゃあ、私を助けてくれたことも?」


「うん、ごめんだけど全然覚えてない。」


--覚えてないと言うより、それは"ルイ"っていう他人がやった事だから俺じゃないんだよなぁ。


今の、ルイ改め、零の見解ではこの状況は記憶喪失ではなく、ルイという体に零がたまたま転移してしまっまたという状況であると考えている。


つまり、細かく言えば記憶喪失ではなく身体の乗っ取り...では、言い方が悪いので憑依...も、良いか言い方とは言えないが、そんな感じなのだ。


「...」


--あ、この目、デリーナにもされたな。


セレナの戸惑いと、悲しみ、そして絶望を秘めた目がルイに向けられる。この目には覚えがある。


だが、それに時間を食っている暇はない。


「ごめん、色々混乱してると思うけど一旦俺の話いいか?」


「...う、うん。」


未だに戸惑いは晴れないが首を横に振り思考を再始動させようとするセレナには頭が上がらない。

ルイは一度息を吐き、この異世界転生の"核心"に迫る質問をする。


「セレナ、俺に向けて"転移"の魔法を使ったか?」


「...へ?魔法?」


「いや、今回の意図しない魔法は無しだ。それよりも以前に、俺に向けて魔法を使ったこと、無いか?」


そう、今回の転移魔法と白い世界でのあの引力には似た何かを感じた。

異空間から現実世界へ引っ張られるあの感覚。


もし、アレが同じ"何か"の作用なら、それはセレナによる転移魔法ということになる。

そうなれば、最初の白い世界の引力もセレナの魔法ではないのか、とルイは考えていた。


あの魔法によって黒澤 零の異世界転生は異常を来たし、本来の転生ではなく、予期せぬ身体に無理矢理転送されてしまったのではないか、と、考えていた。


「...」


じっくり、セレナの瞳を見つめ、答えを待つ。

アレがセレナの魔法であれば、もしかするとこの身体を"ルイ・レルゼン"へ戻すヒントが、何か出てくるかもしれない。


「...使った」


「っ!!!!やっぱり!」


見事な推理力だと自分で言っても誰も文句は言わまい。いや、言わせない。

やはり、あの白い世界での引力は、セレナの時はなった"転移魔法"が、作用して--


「ごめんなさい!その、お兄ちゃんだったとは、思わなくて...」


「...ん?」


『?』が、ルイの頭に浮かぶ。

今の発言は、流れ的に不自然だ。


「ごめんなさい?」


「う、うん。だってだって!私知らなかったんだもん!まさかお兄ちゃんを閉じ込めるなんて...フェイが悪い人がいるから協力して欲しい、なんて言うから...お兄ちゃんだって分かってたら私--」


「待て待て!俺とお前の間で凄い勘違いが起きてる気がする!」


「...勘違い?へ?あの、ループの件についてじゃないの?」


双方、この時点でお互いの言いたいことについて認識の違いがあったことが明確になった。

セレナはルイに魔法について言及された時、てっきりループの件について咎められるのではないかと恐れた。セレナによる転移魔法の応用で起点と終点に転移の術を編み込むことで完成されたループする廊下はほぼ脱出不可能の状態だったらしい。


記憶喪失前のルイなら、話は別らしいが。


だが、ルイが聞きたかったのは白世界での転移の件だ。

もし、アレがセレナの魔法なら、ヒントになるものがあると踏んでいたのだが、


「アレとセレナは別個?だとしたら、ますます謎が...」


あの引力の源がセレナでないとすれば、白世界と先程の転送による引力の魔法はそれぞれ別個という結論になってしまう。

些か腑に落ちない結論ではあるが、それが真実なのであれば、何も分からない無垢な青年、ルイ・レルゼンはこの現実を受け入れるしかないのだ。


それとは別に、もうひとつセレナの話で引っかかった部分がある。どうしても、聞き流せない箇所があった。


「ところで、ループの件...あれ、セレナなの?」


「っ!ごめんなさい!!!!」


ルイの視線にビクッと肩を震わせて大声と共に頭を下げる少女は心の底からの謝罪をしてきた。


「いやいいよ、あの時の俺は捕まってた方が良かった。何か、ちょっとおかしかったから...」


「そ、そう?」


「うん、問題なし。俺もセレナを殺そうとしてたんだし、セレナも俺に危害を加えた、よし、これでお互いの罪は帳消しに--」


「ならないよ!?お兄ちゃん私を殺そうとしてたんだもん!私悪くない!お兄ちゃんが悪い!」


「ごめんなさい」


------


胸の中にあるホコリにわざと気付かぬフリをする。

見て見ぬふりをすることが時に心を救うこともある。


--知らない、俺は、そんな"ルイ・レルゼン"知らない。



「そろそろ、本題に入ろう。セレナ、俺は記憶の取り戻し方と、デリーナを助けようと思ってるんだが...セレナを一人にしとく訳にもいかないんだ...だから...その...」


--気持ち悪い、俺は、何になろうとしてんだ?何になりたいんだ?


セレナは少し考えた後、意を決するように口を開く。


「分かったよ、お兄ちゃんに着いていけばいいんでしょ?」


「...うん、その方が、良いと思う。」


「...?なんで、そんなに心配そうな顔をしてるの?」


「大丈夫...なはず。」


どうして、この子は俺にそんな目を向ける?


------


「--これは、どういう状況だ?フェイ。」


男は、その現場に立ち会い、眉間に皺を寄せて騎士である一人の男に問いただした。

目の前で起こっている現状についての説明を求めた。


「...ッチ!英雄様まで来てたかよ!うさんくせぇ偽善者がっ!」

「はっ!デリーナ、お前言うようになったな!そうさ!そんな奴が英雄なんて言われてるこの世界が間違ってる!ははっ!どう見てもコイツァ悪人面だしなぁ!」


鎖で拘束され、床に這い蹲る2人の男女の戯言には耳を貸す素振りすら見せず、男は、黙ってただひたすら騎士に向けて質問をし続ける。


「これは、どういう状況だ?」


「...」


黄緑の髪をした優男の様な雰囲気を出す騎士、フェイ・ハイルは、向けられる視線に何も言うことが出来ず、黙って下を見続ける。


男の鋭い視線が後頭部にチクチク刺さっている感覚がし、むず痒いったらありはしない。


「...デリーナ・エイリ、ニカルド・スコッパーの2人の捕獲は成功しました、ですが、肝心のルイ・レルゼンについては、その...」


「ルイ・レルゼンは捕獲しなくても構わない、俺はお前に、ルイ・レルゼンを単独行動させ上に誘導し続けろと、そう命じたよな?」


「で、でも!どうやらルイ・レルゼンには何かしら異常があって、それが計画に歯車を--」


「フェイ、それだけじゃないんだよ、俺が命じたのは。」


男の鋭く光る眼光を前に、フェイは思わず言葉を詰まらせる。


「セレナ・リーベは何処にいる?何故、一緒に居ない?」


「そ、それは...」


「いや、もういい...これは、お前だけの問題では無い。」


男は、フェイの発言にストップをかけた後、自身の頭に手を当て苦しい表情を見せる。

近くの壁に体を寄せ、疲労を顕にした。


「...何もかも、想定外が起きすぎた。魔王城に入った時も、『異剣』も、ルイ・レルゼンも...何もかも!」


美しい黒髪が乱れ、ぐしゃぐしゃになるくらいかき乱すほど、男は怒りと自責でおかしくなりそうだった。

歯ぎしりを立てる音が部屋にいるもの達の緊張感を更に増幅させる。


「ちょっといいですか?」


そんな緊迫した空気の中、一人手を挙げて発言を求める者がいた。

青い髪をなびかせて、つかつかと前に歩みだした少女。


「私は貴方に色々と聞きたいことが山ほどあるんですけど、そもそも、貴方はルイ・レルゼンを使って何をしようとしています?」


「...メリー、今お前と話してる暇は..」


「私の事気絶させてまであの男に執着する理由というのは?」


「......」


「英雄ともあろうお方が、大悪党に、何を求めているのですか?」


青髪の女、メリーの威圧的とも言える夥しい質問に対して、黒髪の男はゆっくりと顔を上げ、


歯をかみ締めながら笑う。


「--俺が英雄で、アイツが大悪党、それだけで...条件は揃ってたんだよ。」


意味不明な理論を展開させて、部屋にいたもの達を混乱させた。

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