1ー3 地下室の調査
ミサトから受け取った資料を入れたファイルを片手に、シオンは職員室前に来ていた。
第3話 地下室の調査
4月8日 ミスト先生スパイ疑惑調査1日目
昼休み
昼休み、シオンは職員室前に再び来ていた。今朝の恐怖と今の好奇心。どちらも大きな感情で、どちらが優位などと決めることはできなかった。
(あー、気持ち整理しないと今のオレじゃ使い物にならないな。)
「あ、シオンじゃん」
シオンに赤髪の少年が軽快に話しかける。
「…スピードか。こんにちは。」
「あぁ、こんにちは。」
気まずい沈黙が、2人の間にできる。
(この人とあんまり話したことないんだよな。ベドロとかデスナとか、リーフみたいに自分から話すタイプでもなさそうだし。ミサトさんみたいに黙々と任務をこなすタイプでもなさそうだし…きまず。)
「あ、あいつ。うちのクラスにいたよな」
先に口を開いたのは、スピードだった。彼はきれいな黒髪の少年を指さしていた。
「あぁ…確か全く緊張が伝わらなかった人…できるだけあの人にはかかわりたくないかな。」
少年はこちらに気づいたのか、「黙れ」と言わんばかりの目で睨んできた。
「ほらね、あんまかかわりたくない。」
「なぁなぁ、お前名前なんていうの?」
スピードが躊躇なく話しかける。
「『黙れ』とにらんだはずだろう。気づかなかったのか、赤髪野郎。」
「気づいてたよ。それでも、好奇心には抗えないタチでね。」
「…いいだろう。俺はヒカゲだ。お前らとつるむ気はない。失せろ。」
「へぇ、ひでぇじゃん。お前も調査?」
「いや…特定だ。」
ヒカゲは、すでにカメラを握りしめていた。そういうと彼は、職員室の中にずかずかと入りこみ、僕たちが存在すら知らなかった、「地下室」にカメラを構えた。
(職員室に…地下室!?こいつ、いつ地下室の存在にたどり着いたんだよ…!?)
「なぁスピード……こんな地下室、学校の図面にあったか?」
「…なかった。」
彼はぴっと手を払い、シオンたちに「どこかへ行け」と合図を送る。
(もう証拠をとるつもりか?こんな短時間で、ロジックがもう組めたのか!?)
「ナニモンだよ、あいつ…」
シオンが焦り始める。
(オレも、急いで調査しなきゃ…)
「シオン、落ち着け。」
スピードの声で、シオンは目を覚ます。
「ヒカゲのテンポに乗せられるな。俺らは、俺らのテンポで調査するのが1番だ。」
「そう…だよね。ごめん。」
「『ごめん』は受け付けてねぇ。『ありがとう』だろ?」
(こんなとこまでイケメンか)
シオンは顔が少し緩む。
「ありがとう」
放課後
放課後は、6人で集まって数分だけ報告会をすることになっていた。
「どう?なにか成果はあった?」
ミサトが他5人に問いかける。
「今日一番の成果は、やっぱミサトちゃんのあの資料じゃない?おれは特になんもできなかったしー」
ベドロは、ふてくされている。
「なんでふてくされてんだよお前。何もできなかったのは自分のせいだろ。」
「わかってんだよデスナ。自分がなんもできなかったからイラついてんだよ。そういうデスナだって、なんかわかったのかよ。」
「俺は…特に」
緊張した空気が2班の中に流れる。
(この空気を切り裂けるのは、あいつしかいない。あいつは…)
「おい!寝るなよ。」
スピードがリーフを叩く。
「寝てたのかよ、お前……」
シオンが呆れるが、微笑みがこぼれる。
「うにゃ…今何時?」
「ふっ…いつから寝てたんだよ、おまえ」
シオンはリーフの緩さに感謝しながら、とても笑った。ほかのメンバーも笑い、緊張した空気はどこかへ消え去った。
「あ、そういえば…スピード。ヒカゲの情報は共有しといた方がいいんじゃない?」
「そうだな。職員室の、『地下室』について。俺たちは先に調査したんだ。」
スピードはキリッとした表情で、プレゼンを始める。ミサトとデスナは興味津々の顔をしているが、それ以上にリーフの顔が輝かしい。
「地下室!?…にひっ、面白そぉじゃん」
「…以上が俺らが昼休みで調べられた内容だ。」
スピードが少し顔を濁らす。
「みんなの期待を裏切ってごめん。でも、これが手に入る情報の限界だった。」
シオンが謝るが、ミサトがフォローの態勢に入る。
「いや…十分。私たちに足りなかった、決定的なピースが手に入った。」
「そーだねぇ。これだけ情報があれば、明日いくらでも戦えそう!」
リーフは柄に合わず考えている。シオンはそんな様子を見て、少し安心する。
「え…お前らすごいな。俺には全く案が浮かばないよ。」
「おれも…。なんか申し訳ねえな。」
スピードとベドロが後ろめたそうな表情をする。
「明日…より決定的な情報を手に入れる。そのために必要なのはお前だ、デスナ。」
シオンは、デスナを指差す。
「お、俺…?」
4月9日 ミスト先生スパイ疑惑調査2日目
朝礼前
シオンたち6人は、校長室の前にきていた。
「デスナ!準備はいいか?」
スピードがデスナに問う。
「俺はいいけど…俺だけに任せんなよ!お前らもやるんだからな!」
デスナが少し緊張しながら言う。
「デスナ、きっと大丈夫だよ。」
シオンがデスナの緊張を解くために声をかける。
「校長はオレらがあのクラスのメンバーであることを知ってるはず。すぐ、吐くよ。」
(正直、賭けだ。でも…でもきっと、この6人なら…!!)
「そ、そうだよな…サンキュー、シオン。」
「いくよ!!」
リーフの合図とともに、6人は校長室へ突撃するのであった。
校長室へ突撃する2班の6人。
次回
1ー4 必要なピース
7月6日(日)掲載予定




