0ー2 SPY‐A組
「君たちをスパイとしてスカウトしたい」
「は?」
思わずシオンは声が漏れ出る。
第2話 SPY‐A組
4月6日
「…いやいやいや、ちょっと待ってくださいよ」
シオンが止めに入る。リューキはシオンのほうをちらりと向くが、話を続ける。
「君たちを未来の諜報員としてスカウトしたいと言っているんだ。もちろん、親御さんにはすでに話をつけている。」
(あ、それで母さんは今朝安全に、って…)
「ここは安全区域内。未来の諜報員を育てるために最適な環境なんだ。今日から君たちは法院学園の生徒兼SPY‐A組の生徒だ。異論はないね?」
「…命の保証はあるんですか?」
そう聞いたのは水色の髪をした先ほどの女の子だった。それにリューキが回答し始める。
「ここに集まっているのは成績優秀者や体力面で選抜された人たちだ。そう簡単に死ぬことはないと思う。また、最初に学園内でスパイとしてのノウハウを伝授する。」
「私が聞きたいのはそうではありません。命の保証があるかないかを聞いています。」
「…なかなか鋭い子だね。命の保証はないよ。そもそも戦争で死人がバンバン出てるわけだからなりふり構ってられないわけだ。さっき、ノウハウを伝授するって言っただろう?その知識を持ったうえで死んだなら、その人がそこまでの人間だったってことなんだよ。」
「そうですか…」
彼女は小さくうなずき席に着く。
(いかにも優等生だな…こんな子がこんなところにきてよかったのか?…いや、今は自分の心配をしよう。)
リューキは説明を続ける。
「君たちがこのスカウトを受ければ、君たちは国家の戦力として活躍することになる。不要な人材はどんどん切り捨てていくからね。心してかかれ。」
そう言うリューキの目には、光が灯っていなかった。
「大事なことは資料にまとめたから各自読め…ってどんだけ放任主義なんだよあのリューキってやつ!!」
ベドロが愚痴をこぼす。
(なんでオレはこいつと帰っているんだ…)
「おい、ベドロ。これちゃんと読んでおいたほうがいいぞ。いろいろ重要事項が書いてある。」
「うっせーよ真面目ちゃん!!」
ベドロが真面目ちゃんと呼んでいるのはガタイのいいあの男。名前はデスナというらしい。
「デスナ、重要事項が結構書いてある…って本当か?」
(オレも読まないつもりだったけど…)
「あぁ、例えばここだ。」
「SPY‐A組の存在は、君たちとリューキ、そして君たちの親御さんたちしか知らない。これは安易に口に出すと敵対国家であるスーベにとって有益な情報になってしまう可能性があるため、口外は厳禁だ。もちろん、法院学園の君たち以外の生徒はこの事実を知らない。バレないように常に気を張っていろ。」
「…なるほど。ようするに口外禁止ってことね。」
シオンが納得したような姿を見せる隣で、不満そうなベドロがやはりずっと愚痴を漏らしている。
「…リューキは、明日オレたちのスパイとしての素質を見るっていってたよね。それって、どういう形式で見極められるんだろう?」
シオンが疑問をこぼす。
「わかんないけど、安全なのは間違いないと思うぜ。」
ベドロが答える。
「どういうことだ?」
「だって、あいつ言ってただろ。ノウハウを教える、って。そこまでの安全は保障されてるはずだから、安心してもいいとおもうぜ、シオン。」
「…そっか、安心したよ。」
シオンは胸をなでおろす。デスナとベドロは目を見合わせるが、すぐに逸らす。気まずい沈黙が流れ、耐えかねたデスナが口を開く。
「本当に保護者には説明済みなのか?俺、親に何も言われなかったぞ。」
それに呼応して、シオンが回答する。
「オレは母さんに『安全に』って言われたよ。だから多分あの先生が言っていたことは本当なんだと思う。」
デスナは納得のいかない表情を見せるが、すぐに切り替える。だが、相変わらずベドロは愚痴を漏らしていた。
「ただいまー」
シオンが勢いよく戸を開ける。心配そうな眼差しをしたシオンの母親が安どの表情を見せ、にこりと笑う。
「おかえり。さぁ、ごはんにしましょう。」
(そっか、お母さんにもリューキは口外禁止を伝えているんだ。それは、もちろん家族にも適応する。たとえSPY‐A組に通っている張本人であるオレでも、例外ではないのか。なら、オレも母さんにこの話はしちゃいけないな。)
4月7日
「シオン!今日も用事あるのか?ないならかえろーぜー」
セーちゃんは相変わらずのテンションで、シオンは少しにやけてしまう。
(だめだな、緩んでる。これからスパイとしての素質が試されるんだ。)
「ごめん、セーちゃん。今日も無理なんだ。レンと帰っててくれ!」
「そっかー。昨日も連絡全くなかったもんな。忙しいのか?」
「そうなんだよ、部活でね。」
嘘をついた罪悪感を胸に、作り笑顔を向ける。
「…そっか。レン!かえろーぜ!」
セーちゃんとレンが教室を出たことを目視し、シオンは静かに席を立つ。
「おーい、シオン!」
呼ばれたほうを振り向くと、ベドロとデスナがいた。
「…おい、ベドロ。ほんとにお前、昨日の資料呼んだのか?」
「俺は一応、止めたんだけどな…。」
苦笑いをするデスナの横で、ベドロが怒っている。
「ちゃんと読んだしー。決めつけんなしー。」
「はいはい」
(…まぁ、この雰囲気は嫌いじゃないな。)
シオンたちは、期待と不安を胸にSPY‐A組の教室へ向かうのだった。
スパイとして動き始めたシオン。
第0章 完結!
次回
1ー1 スパイとしての素質




