第6話:父ちゃんって、何すりゃいいの?
「オレって父ちゃん向いてるかも!」って言い出すやつ、だいたい向いてない説。
でも、向いてないなりに考えてる奴って、実はけっこうイイ父ちゃんになるのかもな。
——吉本レン
日曜日の午後。団地のベンチには、レン、いっちー、ももか。
いつもの顔ぶれ、いつもの空気。
「なあレン。オレ、最近気づいちゃったんだけどさ」
「……またかよ」
「オレ、絶対イイ父ちゃんになるタイプだと思うんだよね!」
「いやいや、むしろダメ父候補筆頭だろ」
「いや違う。子どもと対等に遊べるし、優しくできるし、あと“親バカになれる自信”ある」
「謎の自信すぎる」
ももかは静かにカルピスを飲んでいたが、一言だけボソッと。
「いっちーが親になったら、確実にバズらない育児日記つけそう」
「やめろ、リアルに刺さるやつ」
その後、なぜか「父ちゃんロールプレイ」が始まった。
いっちーが「子ども役」レンが「父役」ももちゃんが「近所の目」
「ただいま〜、今日学校で先生に怒られたー」
「そっか……って、いや待て。なんで普通に受け入れてんだよ俺」
「でさー、宿題出すの忘れて、帰りにお菓子買って〜、アイスも2個食べて〜」
「ちょい待て!なんで怒らせる選択肢ばっか重ねてくるんだよ!」
「父ちゃんってさ、どこまで怒っていいの?」
「知らねぇよ!!」
演技中なのに、素が出るレン。
その後、団地の隅っこでボール遊びしてたキッズたちが、こっちを見て笑ってた。
「おっさんが父ちゃんごっこしてる〜!」
「誰がおっさんだ!」
夕方、レンは未来屋商店の前に立っていた。
ミラジイは店の中で、謎の絵本を読んでいる。
「……父ちゃん体験、ありますか」
「あるよ。いちばん体力と精神力持ってかれるやつだ」
「っすよねぇ……」
未来のレンは、父親になっていた。
朝は弁当作って送り出し、夜は宿題見て、寝かしつけて、洗濯して、
たまに遊んでくれなくなる子どもに寂しさを感じながら、それでも背中を見せる仕事をしていた。
(これが……オレの未来?)
子どもに「パパ、うざい」って言われて、
心の中で「つらいわ」ってつぶやいた。
でも、夜寝るとき「パパ、好き」と言われて、
「はい、優勝」って心の中でガッツポーズしてた。
未来体験から戻って、団地のベンチにいたレンは
コンビニの袋からこっそりプリンを取り出した。
「……明日いっちーに渡そ」
「え、なにそれ?」
背後から現れたももちゃんに驚いて、プリンをしまう。
「いや、なんでもねえよ」
「パパになったつもりで、買ったんでしょ」
「うるせぇ」
その夜、いっちーの部屋では
プリンを食べながら、育児日記ならぬ「父ちゃんノート」が書き始められていた。
《初めての父ちゃんごっこ。
意外と向いてる気がするけど、
本物はたぶん100倍大変。
でもちょっと、やってみたいかも。》
子どもと向き合うって、
多分、自分の“ダサいとこ”もまるごとさらすってことなんだな。
プリン一個で、父親レベル1くらいは上がった気がする。
——吉本レン(いっちーにバレずに渡せますように)