表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/42

番外編①:団地の隅っこ(ミドリさん、情報は足で稼ぐ)

スーパーのチラシ、毎日見てる人って、実は最強説あるよね。


団地に住んでるなら、ミドリさんの名前は覚えといたほうがいい。

安い豆腐の場所、今日の夕飯のヒント、昨日誰が何を言ったかまで、全部知ってるから。


今日の主役は、団地の情報屋——ミドリさん。

「ねえ、今日はナスが安いよ。4本で99円」


レンが自販機でジュース買って戻る途中、いきなり声をかけられた。


「え、あ……ども」


ミドリさん。団地のどの階段にも顔が効く、最強のおばちゃん。

今日もキャリーをガラガラ引きながら、軽快に坂を上ってくる。


そのキャリーには、新聞、チラシ、買い物袋、団地の掲示板の張り紙がゴチャっと入ってる。

カオスなんだけど、妙に片付いてる。不思議な収納力。


「で?今日のお昼、カップ麺でしょ。あの子と一緒に食べたでしょ」


「……なんで分かるんすか」


「顔がむくんでるの。塩分取りすぎの顔よ、それ」


(えぐ……観察眼やば……)


ミドリさんは団地の“歩く検索エンジン”みたいな存在だ。

スーパーの割引情報はもちろん、ゴミ出しのマナー違反から、誰が最近引っ越してきたかまで、全部把握してる。


「明日から三日間、商店街の肉屋がセール。鶏むね肉が100g58円。あと、魚屋の前に猫が居座ってるから注意ね。階段2のゴミ捨て場、今朝もカラスに荒らされてたから、ネットちゃんとかけておくように」


……情報が細かすぎて、もはや団地の人工知能。


「なんでそんな詳しいんですか?」


レンが思わず聞いてみた。


ミドリさんは少しだけ歩みを緩め、横に並ぶようにしてこう言った。


「若い頃ね、この団地に越してきたとき、全然なじめなかったのよ。誰も話しかけてくれないし、どこで何買えばいいかも分かんなくてさ」


「……」


「だから、毎日歩いたの。チラシ持って、スーパーまわって、話せそうな人には話しかけて。気づいたら、“知ってる側”になってた」


風が少しだけ吹いた。団地のベランダの洗濯物が揺れる。


「オバチャンってさ、ただの役職じゃないのよ。“つなぎ役”なの。だから、教えたくなるの。ちゃんと知って、伝えたくなるのよ」


その時、階段の下から小学生が駆け寄ってきて、


「ミドリさーん!昨日のアイス、どこで買ったやつー?」


「郵便局の前!2個で100円!今日も残ってたら買っときなさい!」


即答。


未来屋行かなくても、この人の足元には、ちゃんと未来が転がってる気がした。


未来って、大きいことを考えることだけじゃなくて、

「今日の晩ごはん、何にしようかな」って考えることかもしれない。


ミドリさんは、団地の未来をちょっとだけ支えてる気がした。


——吉本レン(明日は魚屋、寄ってみようかな)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ