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第3話:プロゲーマーの一日

団地でゲームやると、だいたい最後はケンカになる。


「それ今ズルい!」「お前、もうやめろや!」


でもさ。

文句言いながらも、また次の日には集まって、また一緒にゲームしてるんだよな。


これ、ある意味、最強のチーム戦じゃね?

団地のベンチでジュース飲んでただけなのに、いっちーが爆弾を落としてきた。

「レンって、ゲームめっちゃ上手いよな」


レンは顔をしかめた。

「またそれ?」


「いや、ガチでプロゲーマーとか向いてんじゃね?」


「なわけあるか」


そう言いながらも、ちょっとだけ悪い気はしない自分がいた。

レンは、団地じゃ無敵だった。ゲームに関しては。


でも、いっちーがニヤッとした顔で次の言葉を続ける。

「未来屋、行くべ」


やっぱりそうなるか。

逃げられねぇな、これ。




未来屋商店。

団地の裏の、ボロい小屋。今日も変わらない風景。


ミラジイは、アロハシャツのまま涼しい顔をしている。

「プロゲーマー体験?あるぞ。まぁ、中層手前ってとこだな」


井戸を覗き込むレン。

未来の自分が、大会の控室にいる。


思ってたより、ちょっとだけ……緊張してた。




未来体験、スタート。


最初は楽勝だった。


ゲームの腕は、未来でも通用してた。

敵を倒す感覚は、団地でのいつも通り。


操作も速い。反射もキレッキレ。

観客がざわつく感じに、少し酔ってたかもしれない。


(やっぱオレ、できるわ)


そう思ってた。


……けど。

試合が進むにつれて、違和感が膨らんできた。


(あれ?なんか……やりにくい)


味方の動きが、妙に遅い。

指示を出しても、反応がズレる。


レンが先行して、敵陣に飛び込む。

でも、フォローが来ない。


(なんで?今の、普通ついてくるとこじゃん)


気付けば、チームメイトとの間に、目に見えない壁ができていた。

独りで突っ込んで、独りで沈む。


助けも、言い訳も、ない。

無線から、低くて冷たい溜息が聞こえた気がした。


(……オレ、一人で戦ってる?)


今まで団地のゲームなら、それで勝ててた。

でも、ここは違った。


最後の試合は、あっけなく終わった。

レンのチームは、完敗だった。


控室で、レンはぐったり座っていた。

そこに、未来のミラジイが現れる。例のごとく、ちゃっかりと。


「上手ぇ奴なんて、どこにでもいる」

ぼそっと、いつもの調子で言う。


「でもな。隣の奴とちゃんと勝てる奴は、少ねぇんだ」

レンは、肩をすくめた。


「オレ、リーダー向いてねぇし」


ミラジイは笑った。

「上手い奴ほど、そう言う」


未来体験、終了。




団地のベンチ。

いっちーが、開口一番で聞いてくる。


「で? 勝った?」


レンは即答。

「負けた。ボッコボコ」


「ダッセーーー!」


でも、その声に悔しさはなかった。

レンも笑ってた。


「チーム戦とか、無理だろ」


「まぁな。でもやってみっか、今度」


「は?」


「団地のチーム戦。オレらで」


「……地獄かもな」


それでも、レンはスマホを取り出して、ゲームアプリを起動する。

いっちーが嬉しそうに笑った。




未来屋商店の小屋の奥。

ミラジイは、古びたジョイスティックを指でなぞる。


《GINJI 2P》


かすれた文字。


「ゲームも人生も、チーム戦だわな」

ぽつんと、そんなことを言った。

ゲームってさ、上手い下手より、

誰とやるかの方が、案外大事だったりする。


団地のメンツで勝てるわけない。

でも負けても笑えるなら、それで十分。


——吉本レン(今はチーム戦、楽しんでるかも)

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