第23話:進むって、こういうこと?
進むってさ、すごいことしなきゃいけないわけじゃないよ。
ちょっと考え方変えるだけでも、前に行ってるんだよ。
気づかないだけでね。
――ももか
広場に、でっかい段ボールの山ができていた。
「……これ、棚じゃないよな」
レンがぼそっと言うと、
いっちーが爆笑した。
「芸術だろ、芸術!」
そんなこと言いながら、いっちーはマジックを取り出して、
段ボールにでっかく”だんち図書館(仮)”って書き始めた。
「おまえ、棚直さないの?」
「直すの無理だろ。だったら、名前だけでも先につけとくんだよ!」
いっちーは、わりと真顔で言った。
(なんだよそれ……)
でも、レンはなんとなく、笑ってしまった。
進んでるんだか、停滞してるんだかわからない。
でも、昨日とはちょっと違う。
その感じが、悪くなかった。
広場のベンチで休憩していると、
ももかが近づいてきた。
「ねえ、これ」
そう言って、ももかは、小さな段ボールの切れ端を差し出した。
そこには、ちいさな字で、
『貸し出しノート(仮)』って書いてあった。
「……これ、図書館に置きたいなって。
借りる人、名前とか書けたらいいかなって思って」
ももかは、ちょっとだけはにかんだ。
レンは、切れ端を受け取って、しばらくじっと見つめた。
べつに、完成してるわけじゃない。
むしろ、超テキトー。
でも、
(ああ、進んでるんだな)
ふと思った。
誰かが、「これやりたい」って思ったことが、ちょっとずつ積み重なってる。
見た目はグダグダでも、心だけは、確実に前に動いてる。
レンは、段ボールのノートを胸にあてた。
未来って、たぶんこういうことかもしれない。
団地のベンチに腰かけて、レンは段ボールの切れ端をいじっていた。
「貸し出しノート(仮)」と、ももかが書いた雑な文字。
角は曲がってて、マジックもかすれてた。
でも、なんだかそれがよかった。
(完璧じゃないし、雑だし、続くかもわかんないけど……でも、ちゃんと"始まってる"んだな)
そんなふうに思った。
スマホが震えた。
《明日、また棚やろーぜ!》
いっちーからのメッセージ。
《ももかがポスターも描きたいって》
レンは、スマホを持ったまま空を見上げた。
空はもう夜になりかけていて、
高いところにうっすら星が見えていた。
どこか目立たない、でもちゃんと光ってる。
レンは、
「うん」ってだけ返した。
棚も、ポスターも、貸し出しノートも。
バラバラだけど、それでもつながって、小さな図書館になろうとしている。
なんだかそれが、すごくいいなって思った。
未来って、
「まだ見えないもの」じゃなくて、
こうやって手の中にこぼれ落ちる小さなものたちかもしれない。
レンは、胸の奥がふわっと熱くなるのを感じながら、
ベンチから立ち上がった。
明日は、
また少しだけ、違う景色が見えるかもしれない。
進むって、すげぇスピードで走ることじゃねぇよ。
ちょっと足踏みしたって、道ができてりゃ、それで十分だろ。
レンも、いっちーも、ももかも、ちゃんと進んでんだよ。
――ケンちゃん




