第22話:知らない未来が、ちょっとだけ怖い』
未来ってさ、見たってすぐにはわかんないよ。
誰の未来かも、自分の未来かも、ぐちゃぐちゃなままなんだよね。
でも、それでも……ちょっとだけ、前に行きたくなるんだよ
――ももか
団地の広場で、レンといっちーは、今日も段ボール棚と格闘していた。
棚というより、もはやただのダンボールの塔だったけど。
「……まあ、遠目で見たら、それっぽくね?」
いっちーが、ペンで棚をコンコン叩きながら笑った。
「いや、近づいたら終わりだろ」
レンが笑いながらツッコむと、
いっちーは「細かいこと気にすんなよー」って肩をすくめた。
そのとき、ももかが近づいてきた。
「ねえ……ごめん。ふたりに任せっきりで」
ももかは、すまなそうに笑った。
レンは、少し驚いて、手に持ってたガムテープをぐしゃっと握りしめた。
「……別に。いいし」
「うん。でも、ありがと」
ももかは、それだけ言って、そっと手伝いに加わった。
小さなことかもしれないけど、
それだけで、広場の空気が少し柔らかくなった気がした。
(未来って、こういうことなのかもな)
レンは、ふとそんなことを思った。
作業を終えて、夕方の団地を歩く。
手に持ったジュース缶は、少しだけぬるくなっていた。
ふと気づくと、
未来屋商店の前に来ていた。
ドアの前で、立ち止まる。
昨日までは、手を伸ばして、引っ込めて。
でも、今日は、押せた。
きい、と音を立ててドアを開く。
中には、あたたかい光と、木の匂い。
カウンターの奥、ミラジイがコーヒーを飲みながらこちらを見ていた。
「来たか、坊主」
レンは、少しだけ緊張しながらうなずいた。
「未来、見たいです」
言葉にするだけで、喉が少し渇いた。
ミラジイは、カウンターから小さなカードを取り出す。
「どんな未来だ?」
レンは、言葉に詰まった。
でも、思い切って言った。
「……知らない未来が、見たいです」
ミラジイは、にやっと笑った。
「いいじゃねぇか。ただし、覚えとけ。
見える未来が、お前自身とは限らねぇからな」
レンは、一瞬だけ戸惑った。
(どういうこと……?)
でも、うなずいた。
「……わかりました」
カードを胸に抱えて、レンは未来屋の奥の井戸へ向かった。
ふわっと感覚が歪む。
目を開けると、知らない部屋だった。
パソコン。ゲーム配信。
カレンダーに書き込まれた予定。
──未来の俺?
いや、違うかもしれない。
机の上には、メモが一枚。
『今日も5ミリだけ進んだ。』
未来の姿。
でも、そこにいる人物は、
少しだけ、自分とは違って見えた。
たしかに、どこか似ている。
でも、全部が自分じゃない気がした。
配信を終えたあと、未来の"誰か"は、
静かに深呼吸して、椅子に沈み込んでいた。
(……これ、オレ?)
心の中で問いかけても、答えは出なかった。
ただ、わかったのは、ひとつだけ。
知らない未来は、ちょっとだけ、怖かった。
でも、ほんの少し、うれしかった。
未来屋に戻ると、
ミラジイがいつものようにカウンターに座っていた。
「どうだった?」
ミラジイは、コーヒーを一口飲みながら、軽く尋ねた。
レンは、ちょっと考えてから答えた。
「……知らない場所だったけど、なんか……悪くなかったです」
ミラジイは、それを聞いて、深くも浅くもない笑みを浮かべた。
「それでいいさ」
特別な言葉はなかった。
だけど、それで十分だった。
団地へ戻る。
空は暗く、道の端っこに誰かが忘れたボールが転がっていた。
レンは、そのボールを軽く蹴って、道の真ん中まで押し出した。
(未来って、すげえ遠くにあるもんだと思ってたけど、
たぶん、こんなふうに、気づかないうちに、ちょっとずつ近づいてんだな)
スマホが震えた。
《明日、また図書館の続きやろうぜ》
いっちーからだ。
レンは、軽く笑って「うん」とだけ返した。
明日がどうなるかなんて、わからない。
でも、少しだけ、今日とは違う何かが待ってる気がした。
それだけで、胸の奥が少しだけ熱くなった。
未来って、誰のものかなんて、すぐにはわかんないよ。
でも、そうやって迷いながら進んでるレンは、
たぶん、ちゃんと未来に向かってると思うな
――古賀さん




