第21話:未来を、選べない夜
未来ってさ、選びたくないときもあるだろ。
逃げたっていいけど、そんとき自分がどっち向いてたかだけ、あとで思い出せたらそれで十分だよ。
――ミドリ姐
団地の広場に、秋の夕暮れがゆっくり落ちていく。
レンといっちーは、
崩れかけた段ボール棚の前に立っていた。
「……うーん、オレ、こういうの向いてねぇわ」
いっちーが、頭をかきながら笑った。
「知ってる」
レンもつられて笑う。
今日も、図書館作りはほとんど進まなかった。
ガムテープもヨレヨレ、
段ボールもベコベコ。
それでも、いっちーは適当に板を立てかけて、
「ほら、遠目で見たらマシじゃね?」とか言っていた。
(ほんと、コイツ、いい意味で適当だな)
レンは、そんなことを思いながら、
少しだけ気持ちが軽くなるのを感じていた。
未来を作るのは、めんどくさい。
でも、こうやって笑ってられるなら、
悪くないかも──
そんなふうに思った。
作業を切り上げたあと、
レンはひとりで団地をふらふら歩いた。
自販機でジュースを買って、
プルタブを開ける。
炭酸がしゅわっと抜けた。
冷たい缶を持ったまま、
未来屋商店の前に立った。
ドアは、閉まっている。
「未来体験受付中」の手書きの看板。
それも、少し色あせて見えた。
レンは、ドアノブに手を伸ばす。
でも、また、止まった。
(……何を見たい?)
未来を見るためには、
自分でテーマを決めなきゃいけない。
でも、今のレンには、
「これが見たい」って言えるものがなかった。
図書館が完成してる未来?
すごい大人になってる未来?
思い浮かべようとすると、
全部ぼやけてしまった。
指先でドアノブをなぞる。
だけど、押すことはできなかった。
そのとき。
きい、と小さな音を立てて、ドアが少しだけ開いた。
中から、ミラジイが顔を出した。
「どうした、坊主」
レンは、答えなかった。
ミラジイは、ゆるく笑って、
ドアにもたれかかった。
「未来なんてな、無理に選ばなくていいんだよ。
選べねぇ夜も、ちゃんとお前の未来だ」
それだけ言って、
ミラジイはまた店の奥へ引っ込んだ。
ドアは、ゆっくりと閉まる。
その瞬間、
ちいさくカラン、と鈴が鳴った。
レンは、その音を背中で聞きながら、
また歩き出した。
団地の外階段に座った。
缶ジュースは飲み干して、手の中で少しぬるくなっていた。
レンは、地面のヒビをじっと見つめた。
細かく割れたアスファルト。
でも、それでも崩れずに残ってる。
(……なんだろ)
未来とか、そんな大それたことじゃない。
ただ、今日一日を、なんとか過ごして、なんとかここにいる。
それだけでも、少しは意味があるんじゃないかって思った。
スマホが震えた。
《明日、また棚やろうぜ!》
いっちーからだ。
レンは、笑いながら「うん」ってだけ返した。
明日、またちょっとだけ動く。それだけで、十分だ。
顔を上げたレンの前で、
団地の明かりが、ぽつぽつと灯り始めていた。
未来ってさ、選べなくても、ちゃんと前に進んでんだよ。
迷ったっていい。足踏みしたっていい。
気づいたら、ちゃんと道できてっから。心配すんな
――ケンちゃん




