表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/42

第18話:話すって、ちょっと怖い

声って、言葉じゃない。

でも、ちゃんと伝わることがある。


だれかが、だれかに向けて、何かを届けようとするだけで。

それはたぶん、すごいことなんだと思う。


——ももか(団地の放送聞いてた人)

「ラジオDJの未来、どうだ?」


いつものように未来屋に行ったら、ミラジイがそんなことを言った。


「しゃべるの、得意じゃないですけど……」


「そういうやつほど、おもしろい話をするもんだよ」


わけがわからないまま「体験する」を選んだ。




目を覚ますと、そこは未来のラジオブースだった。


ガラス越しにスタッフが手を振ってる。

耳にはヘッドホン。前にはマイク。


「はい!今日のパーソナリティは吉本レンさんです!」


と、いきなり流れる声。


「えっ!?はじまってる!?え、えーっと……こ、こんにちは、吉本です……」


自分の声が、スタジオに響く。


(やばい。変な汗かいてきた)




用意された台本には「最近あった話」とか「好きな音楽」とか、話すネタが並んでいた。


でも、どれもピンとこなかった。


「団地の話、してみたら?」


スタッフの人が笑いながら言った。


「……いいんですか?」


「その“ふつう”が、いちばん聞きたいんだよ。きっと」




レンは深呼吸をして、団地のことを話し始めた。


「団地に住んでます。毎日、いろんな音が聞こえてきます。

 子どもが走る音とか、となりのおばさんの電話とか。

 あと……夜、だれかが泣いてる声が聞こえる日もあります」


一瞬、スタジオがしん……となった気がした。


(やばい、変なこと言ったかも……)


でも、レンは続けた。


「でも、そういうのも、なんかいいなって。

 誰かの暮らしが近くにあるって、ちょっと安心するんです。

 それがうるさいときもあるけど、でも、なんかあったかいです」


それだけ話して、レンは「もう終わりにしてください」とスタッフに伝えた。


「自分、しゃべるの向いてないです」




帰り際、スタッフが小さな紙をくれた。


「リスナーから届いてたよ。ほら」


手書きのメッセージだった。


『今日の話、なんだかホッとしました。

 あの団地、私も住んでました。

 今は離れてるけど、あの音たち、思い出しました。ありがとう』


レンは黙って、紙を折りたたんだ。


「……すげぇな」


誰かに届いたんだ。オレの言葉が。




団地に戻ると、ももかがベンチに座ってた。


「どこ行ってたの?」


「未来で……ラジオ、やってきた」


「しゃべったの?レンが?」


「うん、なんか、変な感じだったけど……

 ちょっとだけ、声ってすごいって思った」


ももかは何も言わず、うなずいた。


そのあとしばらく、二人で何も話さずに、風の音を聞いていた。


それが一番、レンにとっての“ラジオ”だった。




未来屋の棚の上。


白いイヤホンが巻かれた、丸いカセットテープが置かれていた。


そのラベルには、手書きでこう書かれていた。


《第0回 団地放送局/よしもとレン》

自分の声が、誰かに届くって、ちょっと怖い。

でも、届いたって思えた瞬間、少しだけ嬉しかった。


伝えるって、きっと、勇気と希望のあいだにあるやつだ。


——吉本レン

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ