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第17話:お世話するって、こんなに難しい?

いつもは、誰かに見守られる側だった。

でも今日は、見守る側になってみた。

そしたら、ちょっとだけ、自分の声が変わった気がする。


——吉本レン

「お兄ちゃん先生、あたしの靴、どこ〜〜!?」


「ぎゃあああ〜〜!!泣かないで〜〜〜!」


「トイレ!トイレ間に合わないッ!」


レンは思った。

これが、未来屋史上いちばんカオスな体験だった。




きっかけは何気ない一言だった。


「お前さ、子どもに好かれそうだよな〜」といっちーに言われ、

「そうかな〜」


そんな軽いやり取りの、その夜。


未来屋商店のカーテンがふわりと揺れた。


「“育てる未来”って、やってみたことあるか?」

ミラジイが言った。


育てる?オレが?誰かを?


想像もつかなかったけど、ちょっとだけ、興味が湧いた。


「……やってみます」




翌朝、目を覚ますと、枕元に名札が置かれていた。


《よしもと せんせい》


なんだこれ。


そのまま連れてこられたのは、未来の「こども園」だった。


教室も机も小さくて、なんだかかわいい……

そう思えたのは最初の10分だけだった。




レンの担当は、3歳児クラス。


「ピーマンきらい〜〜」と投げる子。

「ママがいい〜〜〜!!!」と泣き叫ぶ子。

「かしてよー!!」とケンカする子。


そのたびに止めに入って、「だめ!なぐらない!」って大声出して。 


(……オレ、こんなに声でかかったっけ?)




一番しんどかったのは、昼寝の時間だった。


布団に入っても、ひとりだけ目をぱちぱちしてる男の子がいた。


「ねないの?」


「……ママ、いないから」


レンは、どう返せばいいかわからなかった。


少しだけ、布団の横に座って

「じゃあ、寝なくていいよ。ここにいていいから」とだけ言った。


しばらくして、その子は眠った。

レンはそっとその子の頭をなでた。

自分でもびっくりするくらい、優しく触れていた。




その日、仕事が終わる頃には、足も腰もクタクタだった。


「よしもとせんせい、また来てねー!」


「おにいちゃん先生、こんどはおゆうぎもやろ!」


笑顔で手をふってくれたけど、

レンはなんだか、泣きそうだった。




夕暮れの団地。

自販機の横でレンが腰を下ろしていると、ケンちゃんが通りかかった。


「……どうした?疲れてんな」


「……今日、保育士体験してきました」


ケンちゃんはちょっと驚いた顔をして、缶コーヒーを買った。


「それはまた、エラいとこ行ったな」


「全然うまくできなかったです。

 泣いてる子も、ケンカする子も、なにもできなかった」


ケンちゃんはコーヒーを一口飲んで、言った。


「それでも、お前がいたから、泣けたんだよ」


「え?」


「子どもってさ、安心してると泣けるんだよ。

 “泣ける相手”になれたってこと。それって、すげぇことだぞ」


レンは、その言葉をしばらく反芻した。

“泣ける相手”か……それって、信頼ってことかもしれない。




その夜。


未来屋の棚の一番端に、新しいファイルが加わっていた。


タイトルは「お兄ちゃん先生、奮闘記」


中にはクレヨンの絵と、ぎゅうぎゅうに書かれた文字。


《きょう、だいすきなおにいちゃんせんせいが、ぼくのよこで、ねてた。》

ちびっこは、未来の縮図みたいなもんだ。

めんどくさいし、泣くし、話通じねぇし。


でも、あいつらが笑ったら、こっちもなんか救われる。


お前、今日ちょっと“大人の仲間入り”だな。


——ケン(団地の幽霊ポジ)

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