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団地ノート①:ももか、ひとりごとが止まらない夜

言葉って、出したら戻らないから、

けっこう難しいよね。

でも、言わなくても伝わることも、あると思う。


——ももか(団地の静かな観察者)

夜の団地って、たまにすごく静かすぎて。

冷蔵庫の音とか、自分のまばたきの音まで聞こえてきそうになる。


今日、ベランダに出たら、風にちょっとだけ“しょうゆっぽい匂い”が混じってた。

たぶん、下の階のヤスさんが夜食でインスタントラーメン作ってたんだと思う。


……こういうこと、口に出したことないけど、

いつも思ってる。ちゃんと、考えてる。


誰にも言わないだけ。




最近、ノートに「言わなかったことリスト」を書いてる。

なんか、話したくなる日もあるかもしれないから。


今日の“言わなかったこと”リスト(2025.4.28)


・いっちーのジャージ、たぶん上下で違う学校のやつ

・ケンちゃん、廊下でこっそり笑ってた(ゲームで勝ったっぽい)

・団地のベンチ、ちょっとだけ傾いてる

・未来屋のカーテンが、昨日と違う色だった


くだらないって思われるかもしれないけど、

私の中では、どれもちゃんと“感じたこと”。




私はたぶん、「しゃべらない子」って思われてる。

それでラクなこともあるけど、ちょっとだけ、さみしいこともある。


この前、レンが言ってた。


「未来って、自分だけのものじゃないのかも」って。


なんとなく、わかる気がした。


でも、私はまだ、誰にも“未来”の話をしたことがない。




もし未来屋で体験するなら、どんな未来にするだろう?


みんなみたいに派手なのは、たぶん無理。

アイドルとかYouTuberとか、絶対向いてない。


でも、ひとつだけ、ちょっと見てみたい未来がある。


それは――

“言わなくても伝わる未来”。


空気とか、視線とか、そういうものでつながる未来。


例えば、

朝起きて、隣に誰かいて、

「おはよう」って言わなくても笑ってくれる未来。


(……なんか、ちょっとキモい?)




そういえば、今日も団地図書館の本が増えてた。


いっちーが「寄贈者:いちかわ」とか書いた紙を貼ってた。

ポストカードで。なぜかピカチュウの絵がついてたけど。


そういうの、笑うポイントなんだけど、

私は笑えない代わりに、心の中で「ナイス!」って言ってる。

声には出さないけど、3回くらい、うなずいた。




夜って、なんでこんなに自分の声がでかくなるんだろう。


誰にも聞かれてないのに、言いたくなる。

言わないくせに、言葉が勝手に出てくる。

でも口には出さない。音にしない。


だから、こうしてノートに書く。


「ももか、ひとりごとが止まらない夜」ってタイトルも、

実は昨日から考えてた。




12:00過ぎた。明日、雨かもしれない。


ベランダから空を見上げたら、雲がいつもより近く感じた。


そしたら、下のほうから声がした。


「おーい!レンーー!明日傘持ってけよなーーー!」


……いっちーの声だった。


夜でも、あいつの声は団地中に響く。

笑っちゃいそうになるくらい、元気。


声って、時々うるさいけど、

時々、ちゃんとありがたい。




ノートを閉じる。

最後のページに、こんな風に書いた。


今日も声には出さなかったけど、ちゃんといろいろ思ってた。

だから、ちゃんと“今日を生きた”ってことで、今日は合格。


明日も、たぶん私はそんなにしゃべらない。

でも、ノートの中ではたくさんしゃべってる。


(……いつか、誰かに読まれてもいいかな)

(その時は、もうちょっと恥ずかしくないように書きたい)

ももかは言わないけど、見てる。

ガキはうるさいくらいが普通だけど、

あの子は、黙って“人を見てる”。


……その目が、誰かの背中を押す日が、いつか来る。


——ミドリ(情報屋)

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