第15話:未来屋、今日は休業中?
レンが未来屋行こうとして、店が閉まってた日。
めっちゃソワソワしててウケたけど、
なんか、ちょっとカッコよくなって帰ってきた気がした。
あいつ、“今”をちゃんと見れるようになったのかもな。
——いっちー(ノリで生きてるけど案外よく見てる)
今日は未来屋に行こう、そう思ってた。
学校の帰り道、なんとなくモヤモヤしていて、
「未来、ちょっとだけ見たいな」って気分だった。
でも、団地の裏にあるあの小屋——
未来屋商店は、
今日は、閉まっていた。
木の扉にぶら下がった札に、達筆でこう書いてある。
『本日休業。また明日。』
「……うそだろ。あの店、休むの?」
ずっと開いてると思ってた場所が、急に閉じてる。
なんだろう、このソワソワした感じ。
レンはしばらくその場に立ち尽くしたけど、
しかたなく、団地の中をふらふら歩きはじめた。
ミドリ姐がベンチでアイスコーヒー飲んでた。
「未来屋、閉まってたの?」
「……なんで知ってるの」
「そりゃまぁ、あの店の気配くらいわかるさ」
ミドリ姐は、わけ知り顔で笑う。
「なんか……未来が止まった感じ、する」
「うん。でも、止まってる時も、人生って進んでるよ」
次にすれ違ったのは古賀さん。
団地の階段をぼそぼそ掃除していた。
「……レン。たまには“未来見ない日”も必要だぞ」
「え、なにその名言っぽいこと」
「ただの思いつきだ」
そのまま去っていったけど、
なんだか全部見透かされてる気がした。
仕方なく部屋に戻り、ランドセルを置く。
窓の外を見ると、団地の広場が見えた。
子どもたちが走り回ってる。
いっちーがバケツ持ってる。
誰かがシャボン玉を飛ばしてる。
未来のこと、何も考えないで動いてる。
(……今をちゃんと生きるって、こういうことかも)
夜。
ベランダで風に当たりながら、空を見上げた。
今日一日、未来を見ないで過ごした。
だけど、変なことに気づいた。
なんとなく、ちょっとだけ、
「今の自分」をちゃんと感じた日だった。
次の日。
未来屋商店の扉は、何事もなかったかのように開いていた。
ミラジイは新聞をめくりながら、
レンに目もくれず言った。
「昨日はな、店主の気まぐれだ」
「……それだけ?」
「そうだ。未来ってのは、
たまに“止まってみること”で、よく見えるんだよ」
「また名言っぽいこと……」
「昨日のお前は、ちゃんと“今”にいた。
だから今日は、未来屋に来てもいい日だ」
レンは井戸をのぞかず、しばらく立ち尽くしてから言った。
「……今日は、もうちょっと“今”でいいかも」
「ふむ。未来屋、連休でもいいかもしれんな」
「ふざけんな。次はちゃんと開けろよ」
“未来”ってのは、
止まってる時に、勝手に伸びることがある。
お前らは“見に来る”ことに慣れすぎた。
たまには“見ない日”も、ええんじゃないか?
……まぁ、俺も昼寝したかっただけだが。
——未来田銀次(定休日を作る勇気)