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第13話:やってみたら、意外としんどかっただけ

レンってさ、意外と“がんばりたい”って気持ちあるんだよね。


今日のイベント、正直スベってたけど……

なんか、その必死さがちょっとだけ、かっこよかった。


——ももか(ひとことだけは届けたい系女子)

「おまえ、MC向いてるんじゃね?」


唐突にいっちーが言ってきた。


「は?」


「なんかさ、声でかいし、無難に場つなぎとかできそう。

てか団地のイベントあるから、未来屋で“仕切る未来”見てこいよ!」


「……そんな適当な理由で?」


「いいじゃん。“未来って、ちょっとスベるくらいが面白い”ってミラジイ言いそうだし」


言わねーよ。絶対言わねーよ。


でも、気になった。

“盛り上げ役”とか、やったことないけど、ちょっとだけ試してみたかった。




未来屋商店。今日もボロいけど、堂々としている。


ミラジイが新聞を読んでいたけど、俺の顔を見てちょっと笑った。


「今日は“空気を動かす未来”だな」


「空気……?」


「誰かの心をちょっとだけ動かす、って意味だ。

おまえには、そういう“場”を仕切る未来、合うかもしれんぞ」


「またまた適当言って……」


「どうせ行くんだろ?」


くっそ、図星。




目を開けると、団地のイベント広場にいた。


未来の俺は、マイクを握っていた。

団地フェスティバル、開幕寸前。


子どもたちが集まり、屋台のにおいがただよう。


「はいはーい! みなさんこんにちはー!」


緊張で声が裏返る。

一部の子どもが笑って、他の人たちはシーンとこっちを見ていた。


(うわ、めっちゃ空気重い……!!)




盛り上げようと必死でテンションを上げる。

けど、スベる。反応がない。

何しゃべっても、目が泳ぐ。


一人のおじいちゃんが耳を押さえて立ち去った時、

ちょっとだけ泣きそうになった。


でも。




「がんばってるじゃん」


横にいた未来の誰かが、小さく言った。

あれ、ももかだったかもしれない。


「全然うまくいってないけどな」


「でもさ。ちゃんと“伝えよう”としてるの、見てるよ」




終了後、子どもがひとり近づいてきた。


「……今日のMC、ちょっとだけ面白かった」


「“ちょっとだけ”かよ」


「うん。でも、なんか元気出た」


その一言が、全部救ってくれた気がした。




未来屋に戻ると、ミラジイが立っていた。


「スベりまくった未来、どうだった?」


「しんどかった……でも、なんかちょっと嬉しかったかも」


「“伝える”ってのは、技術じゃなくて心だ」


「……なにそれ、いいこと言った風」


「スベっても、誰かに届く。

それが本当の“仕切り屋”ってやつだ。

今日のお前は、届いてたぜ」




団地の掲示板に、小さなポスターが貼られていた。


『次回イベントMC募集! 初心者OK!』


レンは少し迷って——


ポケットからマジックを出し、

「オレも、またやるかも」と小さく書き足した。


(今度は、もうちょっとだけ“うまく”じゃなく、“ちゃんと”やろう)


スベるのは、挑戦したやつだけだ。


カッコ悪いってのは、やらなかったことじゃなくて、

やる前に引き返したことだ。


レン、お前は今日ちゃんと“しんどい未来”を歩いた。

それが、めちゃくちゃカッコいいんだよ。


——未来田銀次(いつかスベった側の人間)

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