第12話:未来って、ズルしちゃダメ?
「ズルしてでもいいから勝ちたい」って思う気持ち、正直ちょっとわかる。
でも、未来って意外とちゃんと“見てる”んだよね。
それを今日、レンが気づいたみたいで、
わたしはちょっとだけホッとした。
——ももか(無口だけど、よく見てる)
「さーて。テストが近づいてまいりました!」
いっちーが謎のテンションで、団地の階段をのぼってくる。
「お前さ、未来屋で“カンニングしてもバレない方法”とか見てこいよ!ワンチャンあるっしょ?」
「……いや、それ未来っていうか、ただのズルじゃん」
「ズルでも結果出りゃいいって風潮、あるって。世の中!」
レンは苦笑しつつも、どこか気になっていた。
たしかに“ズルしてでもうまくいく”未来って、あるのかもしれない。
それが、どんな気持ちなのか。
見てみたくなった。
未来屋商店。
棚に並んだよくわからない道具の間から、銀次が顔を出す。
「今日は、“表と裏が同時に見える”未来が出てるぞ」
「え……どういうこと?」
「結果だけじゃなくて、“やり方”も見られる未来だ。
つまり、ズルも見える。正解も見える。選ぶのはお前だ」
「……それって、しんどそうじゃね?」
「だから、お前が来たんじゃねぇのか?」
目を開けると、レンは「試験監督補助」の未来にいた。
高校の大きな教室。
テストが配られ、静寂が落ちる。
レンの仕事は、“ズルを見抜くこと”。
でもそれ以上に、“誰がどう思ってやってるか”を見つめることだった。
ある生徒は、袖に小さなメモを仕込んでいた。
別の子は、スマートウォッチをチラチラ見ていた。
でも、誰も怒らない。注意もしない。
「……バレてるのに、放置?」
未来の教師が言った。
「“その程度のズル”は、本人の中で処理される。
見てる人間が何か言うよりも、自分の中に残るものがあるんだよ」
その日のレンは、しんどかった。
ズルしてる人を見て、何もできない。
正直に頑張ってる人を見て、何も言えない。
なのに、自分だけが全部知っている。
(……これが、“ズルが通用する未来”なのか?)
結果だけで評価される世界。
でも、裏で何をしていたかは、確実に“自分の中”に残る。
未来屋に戻ると、銀次がひと言だけ言った。
「ズルってのはな、“自分の未来”をちょっと削る行為なんだよ」
「……え?」
「上手くいっても、スッキリしねぇだろ。
それは未来が、“お前はズルしたよな”って覚えてるからさ」
「……うわ、それめっちゃイヤだな」
「そりゃ、未来ってのは“覚えてる”んだよ。お前よりもな」
団地に戻ると、掲示板の横に張り紙が落ちていた。
「定期テストのお知らせ」
誰も気にしないような紙。
でも、レンはふと思い立って、その横にそっと貼った。
『あなたが頑張っていること、ちゃんと未来が見てる。』
小さく、えんぴつで。
ズルが全部悪いとは言わねぇ。
でも、ズルした分だけ、“自分”が薄くなるのも確かだ。
未来ってのは、ちゃんと“自分で引いた線”しか残らねぇからな。
——未来田銀次(未来屋商店・今日はちゃんと開いてた)