第11話:将来って、どっかにあるの?
レンってさ、いつもなんか“わかってる風”なとこあるけど、
実はめちゃくちゃ迷ってんの、オレ知ってんだよね。
「将来とか、どっかにあるんだろ」とか言ってたけど、
今日のレンは、ちょっと“自分で描こうとしてる”感じだった。
それだけで、すげぇなって思ったんだよ。
——市川一馬(相棒ポジション)
「お前さ、将来なにになりたいとか、あんの?」
いっちーが唐突に聞いてきた。
団地のベンチでポテチを分け合ってた夕方。唐突なやつ、マジで。
「……別に。わかんないし」
「え〜、そんなこと言って、ほんとはあるんでしょ?」
「ないっつーの」
「ほら、じゃあさ、未来屋行って決めてこいよ。
“将来ってやつを探す体験”とかできるんじゃね?」
「……そんなの、あるのかよ」
その日の未来屋は、めずらしく静かだった。
棚も、井戸も、ミラジイも、いつも通り“変な感じ”ではあったけど。
「今日は“道しるべ型”の未来が出てるな」
「道しるべ型?」
「自分がどこに行くかを決めるより、誰かの“道”を描いていくタイプの未来だ」
「なにそれ……でも、なんか見てみたいかも」
「んじゃ、勝手に体験してきな。自分の未来が“どこにあるか”知りたいんだろ?」
目を覚ますと、レンは町の中にいた。
でも、いつもの町じゃない。
看板に書かれていたのは「地図設計センター」だった。
「未来屋……どうなってんだよマジで」
支給されたタブレットに表示されたのは、
「新しくできる街の、地図を作る仕事」。
けっこう地味。地味すぎて、逆に興味わく。
レンは、歩きながらスケッチした。
この道、少しカーブがきついな。
ここにベンチ置いたら、たぶん人が集まる。
道幅狭いと、自転車とすれ違いにくそうだ。
なんだこれ。
オレ、未来でこんなこと考えてんのか。
正直、派手さも達成感もない。
でも。
でもなんか……心の奥が、ちょっとだけ、動いた。
作業が終わる頃、同僚らしき未来の誰かが言った。
「地図ってさ、“未来の誰かのための道”だよな」
その一言が、不思議と頭に残った。
未来屋に戻ると、ミラジイがタバコをくわえながら言った。
「どうだった、“自分の将来”の場所は見つかったか?」
「うーん……なんか、まだ迷ってるけど、
でも、“迷ってる自分”がいてもいいのかもって思った」
「それも地図の一部だ」
「え?」
「迷うってのは、まだ知らない道があるってことだ。
“全部わかってる道”よりよっぽど面白ぇ」
「……なるほど。わかったような、わかんないような」
「そりゃ、今は“迷子のくせに道案内してる”ようなもんだからな。
それでもやってみたってのが、大したもんだ」
団地に戻った夕方。
レンは、ベンチでノートを広げた。
空白のページに、道のスケッチを描いてみた。
別に誰にも見せない。ただ、自分のために。
将来が“どこかにある”んじゃなくて、
いま自分で描いていけるなら、それでもいいのかもしれない。
人はな、誰かの地図を見ながら歩くんじゃなくて、
自分の迷いの中に線を引いてくもんだ。
レンのやつ、今日は地図屋の未来を体験して、
まだ答えは出してねぇけど——
“迷ってること自体が進んでる”って、ちょっと気づいたっぽいな。
ま、そのくらいでちょうどいい。
——未来田銀次(未来屋商店・不定休)