(50) 一九八四年(2)
「寅雄・トーコさんですね」
「ええ」
「私の母親から、あなたに伝言があります。いま、お時間は」
その言葉はふっつりととぎれた。
暗転。
明け。
たしかに、一瞬店の明かりが落ちた。不可解な停電のような落ちかただった。暗転、のちに明けたところには、寅雄の前から少女の姿はなくなっていた。
寅雄は、まばたきをするのにあわせて、上を見た。電灯の故障をうたがったのだ。目をもどし、やはり、少女の姿がなくなっているのを、見やる。
「狐に化かされた」
という言葉が、彼の頭にふつりとよぎった。それは少女がだれに似ているのか。それを、思いだしたせいでもある。だが、やはりそれが誰に似ているのかを思い出せなかった。
寅雄は店内を見やった。矛盾した感想を浮かべながら、そして、ぎょっ、とした。
なんでかと言えば、ちょうど、視界から入らないギリギリに人が立っていたからだ。その人物は女で……髪が長く容姿が整っていたので、だ……その腕にひとり人間をぶらさげているようだったからだ。
より具体的にいえば、寅雄の脳では、それはネック・ハンギング・ツリーを片手でやっているようだ、と出力された。
しかし、そうすると女の細腕でやれるものか……非常識な場面には、反射的に否定的な、強い言葉があがった。
「なっ……」
「静かに」
と、言ったのは吊りさげられている男、どこかで見たことがある。あるいは、それは毎日鏡で見ている自分の顔によく似ていた。だった。
ふうと、吊り下げている女がため息まじりに言った。
どちらの口調も力みがまったくない。
目の前の光景が、幻か、頭のおかしい夢のようだった。それも酒に酔っぱらってうなされているときの。
「きみが悪趣味なのは知っていた。だから言うが、どうしてあんな姿でここの主人の前に現れたかは聞きませんよ」
「口調を統一したまえ。これだから、自意識のうすい連中はさ」
「すこしありすぎなのが、きみみたいなのだって?」
「わたしは意識してやっているだけだよ。口調の話だよ?」
男が肩をすくめた。「グ・レェンディル」と、女、もしくは若い女性が言った。男は、じろりと言うように(ただし、おそろしく芝居がかっていた)女性を見た。
「その名前で呼ぶのか、きみはさぁ」
「仕方ないだろ。わたしは半分は同属でなく、半分は私だ。そう、人間か。人間だものな」
「それならしょうがない」
「きみがなにもやらないことを示せば、わたしは下ろすけれど、きみにそんなことが可能か?」
「それはできそうもない。闇夜にかくれて、王の戦士の寝首をかく化け物だぜ、わたしは」
「きみを下ろそう。監視のもとで」
よくわからないことを言い、女性はグ・レェンディルと言った男を下ろした。グ・レェンディルは、襟を整えてから、両手で女性の手をにぎり、「シャーデン、久しぶり」となれなれしく言った。
シャーデン、と呼ばれた女性は嫌がるそぶりも見せず、その図々しい握手に応えた。
グ・レェンディルの両手に、両手をそえて離す。
「そこの彼には、いてもらうことにする」
「かまわないさ。わたしはどうせすぐ帰るつもりだからね。会えてうれしかったよ」
「なぜここに?」
「きみこそ、なぜに、ここにいる」
「そこの御仁を見ればわかるだろう。呼びだされたんだ」
「ふむ」
グ・レェンディルは、ちらりと言うにはおおげさに、カウンターの席を見た。そこには素知らぬ顔で、着流しに上品な羽織を身につけた、古風な人物が座っている。ハナゾノ……だが、寅雄には、この会話しているふたりがなぜハナゾノを気にしたのかわからない。
ハナゾノはというと、騒ぎを気にするそぶりはなかった。もしかすると気づいてすらいないのではないか、という平静、平素な顔で平然と日本酒をコップであおっている。そういえば、なぜ彼は気にしてもいないのだろう。そのことに気がつくと、とたん得体のしれない不気味な感情が、物理的な感触さえありそうに寅雄の脳内をそびやかした。
シャーデンはしらけた眼をした。言う。
「悪魔ロクロクの予言は有名だ。ということは、きみが今日ここでいますることは、決まっていたことになるな」
「失礼した。話しあいがあるなら、わたしもまぜてくれればよかったのにな?」
「ちんぴらみたいな口をきかないでください?」
「悪気はなかった」
「ああ。きみに悪気なんかないだろうとも。善意とも思っていないんだろう。思ったとおり、穴があると水を流したくなる子どものように、いたずらをするクセが直っていないようだ。それに、きみ自身もそういうクセとしか、本当に思っていなさそうだ」
「変わっていないと言うならきみもだ、シャーデン。わたしが嫌いなところ。変わっていないだろう? これは、イーブンだと思う」
「なんでもいいですよ。二度としないでください。きみの尻ぬぐいのようなことは、わたしたちがすることになるのだろうから」
「わかった。二度としないということ以外は。これはそういう話だ。実を言うと、そこの寅雄氏になにかするつもりは本当になかった」
グ・レェンディルは片方眉を上げた。そのときには、男のような、女のような判別しにくい顔になっていた。ただ、口ひげはたくわえていた。女性めいて瞳にきらめきがあり、まつ毛が長かった。
なぜか醜い、と感じる、そんな微笑をもらす。
「たとえばだいじなことを忘れている人間が、その忘れていることを目の前で突きつけられると、どんな顔をするだろう。もしかして、記憶の操作なんて置いておいて、絆や、想いの力というものが奇跡を起こしはしないだろうか……今回、わたしの行動を分析するとそうだよ。唐突に、ただ、見たくなったんだ」
「ゲスめ」
グ・レェンディルは、その答えがつまらない、そういうぶすっとした顔でひらひら手をふった。
シャーデンの脇をぬけて、入り口に向かう。「お客様だ」と、言った。スライド式の戸に手をかけて。
言うとおり、すると、その目の前で戸が開いた。一瞬、勝手に開いたと寅雄がなぜか錯覚したが、女性が立っていた。その女性とちょうど入れ替わりに男、グ・レェンディルは、出ていった。
入ってきた女性はグ・レェンディルを気にはしたが、ひと言もそれに触れず、店に入ってきた。カウンターの、ハナゾノの横に座る。
長めのショートヘアといった髪型の健康的な女性で、一見中性的な印象を人にあたえる。黒髪に翠がかった黒目で東洋人的な顔立ちだった。それは日本で連絡員として動いていても、違和感のわかない容姿である。
本名は、ケルス・ケラーという。人種的にはいわゆる中国系イギリス人。現在は不二井文子と名乗っている。身分は就職活動中のフリーアルバイター。年齢は、十九歳……。
寅雄の脳裏には、そのような情報が次々となだれこんだ。
(なんだってんだ?)
寅雄が思い浮かべたのは、彼女が、顔見知りの現地潜入員であるということだった。諸般の事情から、寅雄とは面識があった。
「わたしたちは一度、趣味が悪い、ということについて真剣に話し合うべきだと思いますよ」
ケルスが言った。持ってきていた、ビニール袋をカウンターに置き、そこから紙のケースをされた缶ビールのパックをのぞかせる。
かしゅっと、銀色に景色や明かりをうつすフタが開いた。
ビールの安っぽい香りがつんとした。寅雄は応対をしなければならないか、とも思ったが、彼の本能的なものがそれを抑えつけた。首をつっこんではならない……海外での経験中、何度か寅雄はこの勘に身を救われたおぼえがある。
あるいはそれは錯覚だった。霊感とか星座占いのようなものだった。
「うん」
ハナゾノが言った。うなずいたのでなく、応答だった。自分がなにかを、続けて言うときの物言いだった。
「思うにだな。そいつはわたしらにのみ責任をふっかける問題ではないと思うんだよな」
「というと……」
「たいしたことじゃない」と、ハナゾノは言った。手には指のあいだにはさまれたタバコがある。しけた紫煙をあげる、白い巻紙と透明にくもったガラスの灰皿。
「存在の大きい小さいはここでは問わないよ。段階として、わたしらと言うのは、もとはこの惑星の霊長種、つまりは、人間と同じであったこともあったが、その時が思い出せないほどには進化をかさね、年月が流れ慣れきった。してみるとそのころのことは知識すらない。ローカライズとダウンサイジング……」
「私たちはその超存在、深宇宙の先にいるひとびとが作り出した化身。どのような理由かは、いまさらその化身からさらに派生したような身では、思考回路もわからない」
「それも、誇大な妄想かもわからんという話だし、お釈迦様にもわかるまいってところか。いや、もしかしてわかるのか?」
「ハーフエルフ。きみのところのオブライアンという少女は?」
「そんな形式ばって聞く話題でもないでしょうよ」
ハーフエルフとよばれたケルス、あるいは「見も知らぬ女性」は、気楽そうにつぶやいた。
「どうかって意味なら、シャーデン、あなたがチェックした日から事態は一歩も動いてないし、あと二日はまともに起きあがってもこれないでしょう。オブライアンは。わたしにとっては監察対象で、あなたたちにとればわたしの監視対象となる。それ以上の面倒は、わたしを含めて、だれも背負いこむものでない。しいて言うならゲンコ・オブライアンという少女が自分の面倒を、自分で背負っています」
「二日って?」
「それ以上はじっとしてないし、いられないということ。若いからね」
シャーデンは立ったまま聞いている。「そうか」と言ったが、すぐ、それが重要なことでなかった証左のように質問した。
「この土地で起きていること、あるいは座標について、興味が?」
「興味はないかなぁ。まあ、わたしなんぞはここで暮らしてもいるものだからね。いつ騒ぎが収まるかに興味はあるが、それ以上はない。今日呼びたてしたのも、話し合いさね」
「都合のすりあわせくらいなら、顔を合わせなくてもね」
「さみしいことを言うもんだ。誰も彼も。文明の利器ってのが出ばってきて、人間の一部に組みこまれてから、人間はそういう意味で怠け者になっちゃっちゃん……と」
「お昼のコメンテーターみたいなこと言うね。次は怪談特集でもしますか」
「あれは、そういうお仕事なんだから茶化すんじゃないもんだ」
ふっ、と、ハナゾノがタバコの煙を吐いた。煙はぽっと、途中で輪になった。ハナゾノは、自分でそのいたずらの産物を払った。
「ただ、わたしらが正しい理解をしているかどうかは、一考の余地はあるかもしれない」
言う。シャーデンはじっと考えてから言った。
「グリニザは、この座標の事態について、終息の段階が見えはじめたと思っている」
「予測は外れるものよね」
「気になることが?」
「降ろされてくる話のなかではないかなぁ。結局、本は見つかったんですか?」
「なんだ、おまえさん、あれに興味があるの? おもしろみのない話だよ。あの本」
「べつに」
「本が要因でないことは、意見が一致しているでしょう」
「現象には、要因があることもあり、ないこともある」
「あるんですか? 心当たりが」
だれが発言しているのか曖昧になってきた会話劇のなかで、シャーデンがそう言ったのが寅雄の耳をとらえた。それは、彼にとって仕事の延長にある事情だったからだった。
怪物の出現。意思ある暗闇の跋扈においては、原因となるものがある場合もある。
「ある」場合、それらは意味不明なオブジェクトとして、組織が処理する。処理の方法までは、寅雄のような要員が知っていることではなかった。
(そもそも、原因ってなんなんだろうな)
「原因となるものは、オブジェクトであり、意思ある暗闇に脈絡のない関連性を、無理やり持っているものだ。そのときの現象の気分次第と言える」
「わざわざ、そんな話を……」
「度がすぎる現象の発生に対しては、なにかの縁で外から持ちこまれた古物などが該当した例はある。それを手順にしたがって処理したところ、地鎮祭でもやるように、現象も霧散し起きなくなったとか」
「……」
「オブジェクトは、たとえばわれわれが探知したり、人間における第六感や霊感、あるいは、五感でとらえられる特有の気配が、音が、匂いがetc.etc.あるわけではない」
「周囲になじまない、そこに存在するのが不自然で突拍子もないもの。それだけが、見つけだす手がかりにならなくもない」
「あの本は古物というには新しすぎた。この地にあるのも脈絡がないものではなかった。ちゃんと、人の手を渡ってはこびこまれた。このため、オブジェクトには、なりえないと」
「周囲になじまない、そこに存在するのが不自然で突拍子もないもの……」
シャーデンはつぶやいて、それから顔をあげた。
「それ以上、不毛なことを言いつづけるようなら、それより、御二方はわたしの目的に協力することは考えてもらえたか、聞きたい。同じくらい不毛な話で」
言う。半眼になり、目の前の男女を見すえながら……あきれたような顔ではあったが、それは、このシャーデンなりの真摯な顔であったらしい。つづけて、言う。
「オート・モーフィスもバラしたようだ。すでに二年と十カ月を割っている。時間は足りない以上に足りていない」
「世界を救うって話か。しょってるねえ」
「滅亡するなら、それが止めようがないかどうかということだと思う。わたしは止めようがないと思うな」
「生者盛衰、一切必滅てかぁ。いや。すまない。茶化したわけじゃあない。だがな、止めようがなくて人間様が亡びてしまうって言うんなら、そりゃあ逆に止めちゃいけないんじゃないかと思う。だいいち、関係がない。これが大きい」
男と女は、非常ににぶい反応を返した。
「自分事じゃない。これは痛いだろう? どうだね、実際」
「わたしにとって……私、か。は、自分事ではあるよ」
「だったら、だれにも頼らず自分一人だけでやるもんだ。物事のスジとなりゃそうなるよ」
ハナゾノは、まじめな目で首をふった。が、本気の人間が見たなら怒るかもしれなかった。
「期待はしていなかったよ。シット」
「ヤンキーみたいなこと言うなよなぁ」
「人の侠気を当てにするほど若ぶることもあるまいに」
「キョウキ?」
ハーフエルフが真顔で聞いた。ハナゾノは、注意した。
「キョウキじゃなくて、キョウキだよ。侠気っての。義理人情の渡世者が、漢気や、心意気に打たれて手を貸すってね。この国だと泣ける話は定番だ。涙で飯は食わないだろうけれどね」
「まあ、よくわからないよ」
「そうかい。結局、オート・モーフィス、やっこさんは、どこまで本気があるのだろうかね」
「同胞を罠にはめるていどには、気が触れている……のかなんなのか」
「すると、やはりサワコ・ルールがネックになるんだろうな」
ハナゾノはもみ消したタバコを見やって言った。
「不思議な力は持ってるのに、予測不可能で、狡猾な一面もあるとくれば、放置しておくのは忍びない。といって、わたしらは、同胞にできることと言ったら嫌がらせみたいなせこい妨害ていど」
「それがオート・モーフィスが放置されてきた原因でもあります。人間の手でどうかならないよう、あの調子で立ち回りながら、生きながらえてきたのでしょう」
「本人じゃなくなっている……」
「オート・モーフィス自身から、申告されました。今後は自分は消えるとも言っていた。わたしの考えが甘かった」
「考えが甘いのは、わたしら共通の特徴だしなぁ。それを鑑みても、サワコ・ルールは同胞ではないのだろうね。計算高くなってしまってるもの。自己保存を越えたナニカなんて、わたしらは持たないものなんだね」
「当てこすりですか?」
「ちがう」
ハナゾノは言うと、「じゃ、今日は失礼しようかね」と、立ち上がった。ハーフエルフと呼ばれていたケルスも、二本程度の空き缶をビニール袋にまとめた。
帰るらしく、ハナゾノは席に代金ぴったりを置いた。ケルス・ケラーはそのまま立っていく。
男女が店を出ていった。一人のこったシャーデンは、寅雄を見た。なにか言うためらしかった。
「失礼しました。断りもなく居座って。わたくしは、シャーデン、あるいは胡橋・シラトリと申します」
「ああ。これは、ご丁寧に」
寅雄はそう反応した。
やや間は抜けていたが、ほかにどうしようもない。
「あいさつが遅れました。寅雄・トーコさん。迷惑料を置いていくべきですが、できない事情がありまして……代わりと言ってはなんでしょうが、知り合いの業者の連絡先を置いていきます。照明に関して、わたしの悪影響があったようですから、なにか問題が起きた際はそちらにお知らせください。変わり者の友人がいて、こういった機械に関してくわしく、業者並みの仕事ができる同胞です」
シャーデンは、直接渡さずにカウンターに名刺を置いた。山戸浦電器きかい(有)、代表取締役、知葉実夫と記されている。
寅雄はちらりと見てクセで、すぐ記憶した。が、シャーデンは続けた。
「これから合図して三つ数えたら、あなたは記憶を失いますが、都合のいいことは都合のいいように記憶がのこされていますので、覚えておいてください」
シャーデンは言うと、寅雄が「は?」と返事する前に自分の頭を指さした。寅雄の目はそちらに行った。
「人間の技術力では、おそらく実現までに間があると思いますが、わたしたちの超能力として対象の人間の記憶を操作できます。といって、もっぱら消すことに注力したものです。特徴として、人間の脳をはじめとした身体に、この記憶操作はなんの影響もあたえません。効果のある実例として、わたしたちが人類たちに、存在を認識されてからというもの、わたしたちと、怪物とに関する研究のまるで成果をえられていないことが上げられます。人間の発想やルーティンというのは、誰であろうと甘く見てはいけないものです。同時に恐るべきものです。年数を重ねれば重ねただけ、頭脳、忍耐、学習などなど、筆舌に尽くしがたい勢いと、進展で進歩を得てしまうのです。わたしたちの記憶を操作することで、積みかさねをなくしてしまう方法も、これから、どこまで、効果があるものか」
「……」
「これまで対策が得られなかったのは、記憶や資料の積み重ねがあるたびに、わたしたちと、同胞によってその記憶は改ざんされて、ものの役に立たないものになっていた。それさえなければ、もっと貴方達の組織というのも、損害や損失を出していなかった。この点、わたしたちは、貴方達の怨みや憎悪といったものを買うにあたいします。それでも人間にわたしたちは、まあ、滅ぼせないのですが。ではなぜそんなことを? 当然の疑問ですが。それについてはお答えできませんが、一つ言えるのは、そうしないと意思ある暗闇は広がりを増し、向こう側にとりこまれる人間も増えるでしょう、ということですね。わたしたちを知ることで、人類たちに根づいたネットワーク……現在時点では人間に干渉できない技術力で、いまや大多数の人間に……。いや」
「……?」
「すべての人間の脳内に」
シャーデンは手をおろした。ちょっと指の形を変え、反対の手を上げた。
それは指を鳴らす形だった。
「ネットワークでつながっているのが、わたしたちの意識だとしたら他人の記憶を改ざんするというのは、脳のデフラグに等しい。ま、そのぶん容量自体がとんでもない、あくまで人間に許される脳の範囲、人体の許容内での話だが、ではあるのだが。君たちいじられるほうにくらべれば、ちょっとなにか忘れて思い出せなくなるくらいでいい。ここまで説明したのは、そこまで理解させないとこの作業がおこなえないからだが」
「ああ……?」
寅雄は反応を返したが、だいぶ、うろんげだった。
どちらにせよシャーデンは、当惑させればいいだけのようだった。
「それでは、こちらの手にご注目。今から三つ数えるまで、目を離すことはできません」
「三」
「二」
「一」




