(47) 月は無慈悲な(5)a
もろなお町市内。
どこかはわからない。つづけて。
徘徊している、と思われる(実際にはその行動に、指向性があるかもしれないが)鎧の中型を探すのか、その前にさまざまな方法を試すのかは微妙なところだった。
おそらく、目立つ相手だ。音も立てている。見つけるのは容易である以上、そちらに挑んで、駆除にかかるのがいいというのが早い手段だ。
だが、鎧の中型は耐久力が図抜けているようだった。確実かどうかわからないが、現時点で最大威力のことを試すのであれば、それ自体は、簡単にいくと言えた。
あるいは言えるだけだ。
現状手にある戦力で成功できるとはかぎらない。
中型はほかにもいた。
そちらは特別硬いということはなく、ゲンコの射撃が通じるようだった。形状も人型からはかけはなれている。
倒した中型の死体を確認して、ゲンコはいったん動きを止めることにした。段階を思いきって解放してしまったクルタナの影響が、もろに身体におよんでいる。アンプルで抑えが効くかどうか、先の保証が、ない。決着するとしたら、はやくつけるべきだった。その結果がどうなるにしろ、と一応はつけたしておくが、ゲンコは心からそれを信じているわけではなかった。
ガットギターのエイブリーとしての能力を考慮するに、分の悪い賭けやぎりぎりの判断と言われることではない。そう自然に思っていた。
「わるい知らせがあります」
ゲンコに代わって通信機器を試しながら、フロムナインが言った。口ぶりからはいっさい感情は感じられない。
そもそも、そんなものはないのだが。
「暗視装置を建物の外に向けて測定していたのですが、巨大な影が動作しているのが見えました」
ゲンコは階段の踊り場からのみ見える、外の景色をちらりと意識して、フロムナインに目をもどした。フロムナインは続けた。
「不定形な輪郭や、人体の一部に類似した部位の特徴などから、大型の怪物ではないかと」
「本当に?」
ゲンコは聞きかえした。
言いながら、さらに幾体も倒した怪物の肉片を気にしている。汚れていどは慣れたものだが、手が感覚を狂わせる錯覚があるのは、よくない。
外に見られる大型らしき影は、フロムナインが見ただけで三体ほどであったこと。その大きさは通常大型として記録されているサイズより二回りは大きく、二十メートルはあること。
ガットギターの記録にある威力からして、打倒は可能であることなどを告げた。
「なら、ほかの方法を試すか」
「試すか?」
「あるいは感覚によって判断するのに任せるかですね」
「感覚ですか」
フロムナインは言って沈黙した。ゲンコの言いようを聞くままにする、という意思表示であるらしい。
(どうするんだか)
という顔をして、ゲンコはまた考えこんだが、今度はさらに短かった。一度建物内を右往左往してみるつもりだった。
それをフロムナインに提案しようか、と思ったところに、ありえない音が鳴った。
なにかが振動する耳になじんだ音だった。ゲンコは心臓がはねあがるのをおさえて、フロムナインからポケベルを受けとった。
メッセージが表示されている。ペンライトをつける。
ゲンコは明かりの下でメッセージに目を走らせ、頭をかかえた。内容に反応したわけではない。
「どうしました」
「声が聞こえる……見たことのない……」
「……」
ごめんなさい、と、ゲンコは手をおろした。とどまりすぎた。移動しなければならないと考え、すぐに実行にうつす。フロムナインも聞いてはこないが、聞きたそうな雰囲気はわかった――それは、断じて感情の動きではない――だが、腕の負傷のことやところどころ打っていることくらいはすでに説明した。いまさら言うことはないだろう……。
ゲンコの意味不明な反応のことも、フロムナインはそういう人間を見てきているはずである。恐怖がはびこる正気でない場所に置かれ、幻覚を見てなにかつぶやく者、幻聴を聞いて、とりみだす者。
幻聴とは、多くの場合死者の声か、昔聞いた環境のうごめき、また、現実に生きる人間の声である。それは、現場の人間を丹念に聞きとってきたデータの統計が出してもいる。
ゲンコが見たのもそういうたぐいだと。
つぶやいたのは動揺から生まれるうわごとのようなものだ。
事実、うわごとではあるが、ゲンコ自身は動揺を感じているわけではなかった。何発も弓を引くことになるかもしれない。しかし、何発も自分が弓を引けば、打開できるのならやらない理由も躊躇する理由もない。
ただちょっとしんどいだけだ。身体が。そう考えている。
(怖いのははたして、それをやったときに自分が立っていられるか。途中で刈りとられるみたいに死んでいないか……)
建物のホールに強がりが拡散していく。音がない。また出てきた小型の怪物が、しゃきしゃきと鳴りそうな無音の刃物をふりまわしている。暗闇に、ぬらりとして光りそうなほど鋭いはさみだった。そのはさみを、先につっこんでいたフロムナインの手がぽきりと折った。無音のまま、金属片になった怪物の身体の一部が、ふっとんでいく。
それだけで刺さりそうな勢いだ。
吹き飛ばされた怪物の身体と肉片を横に、数体におそいかかる。奇襲をうけて、触手がばらけて、さらに爪が、二層につらなって暗闇にひろがる。ゲンコはそこにつっこんでいくのが危険と妥当に判断して弓を引いた。抑えられた威力で、二発、一体に、その後ろの一体に炸裂し、さらにもう一発真正面からはなれた小型に命中した。次々と肉がはじけて、小型の身体が勢いをつけて床をたたく。
たっ、たっ、と音を立てて血が点を作った。赤い。ゲンコはさらに弓を横に引いた。ホールの床へ、走り出てきたような中型の巨体。鎧の巨人ではない。目と口が、上下逆につき、腹にも二対の目が光っている肉塊。
その肉塊が、触手のような小さい肉塊を吐き散らかした。びちゃびちゃと壁や床に貼りつくような粘性の、ハエトリガミじみた速いもの。
ゲンコはかわしながら、横にあらかじめ引いていた弓を三本の指ではじいた。肉塊を縦に裂くように、真空の刃が走り、血が噴水となる。暗闇で見えにくい間を、ペンライトのわずかな灯りが、走る紫じみた体液を一瞬だけ写し取る。
ゲンコは真正面にくるよう、弓を引きなおして照準した。放つ!
中型は汚物となって身体半分を弾け飛ばした。
「はーっ!!」
ゲンコは息をおもいきり吐きだした。鼻の下をぬぐう。
視界のすみで、フロムナインが数体の、小型を粉々にするような掌底をみまっている。肉塊がはじけとんで、その奥からきていた中型を、ゲンコの射線にだした。いまのは、ほれぼれするタイミングのよさだった、と、ゲンコはフロムナインにたいして思った。
フルンティング、と、彼女のもととなったエイブリーは呼ばれていた。いまは多くの場合、彼女を知っている人のうち確実に多数がフロムナイン、などと呼んでいるが、べつに正式な名前ではないのだ。
フロムナインと呼ばれるのをこだわりがあるらしく、たびたび拒否してもとのフルンティングで呼ぶようせまるところがある。エイブリーを素体としたため、再現性のない科学技術となっている。正しく量産されない腐った技術。本来なら廃棄されているとされる。
左右の手のひらどちらかからくりだされる、強力な振動波が、そのたちまわりの正体ではある。フロムナイン自身がエイブリーをもとにした素体であり、怪物の攻撃に対する耐久性と、ときに体当たりまで攻撃方法にする頑丈性をほこる。
どうにかホールの怪物の迎撃をして、またすばやく場所を移した。
走りぬけていく通路で、入り組んだ小型の群れがまばらに立っている。立っているだけでないそれらを、なぎたおしていくように、エイブリーをふるう。唾液に血がまじった。
「七〇段を……神官は、ナクト、カーペンター……七〇〇のきざはしを経て……」
「ゲンコ・オブライアン! ここは夢ではない!」
「わかってるわよ!」
理不尽などなり返しをして、ゲンコははっとした。今のは、だれか? だれでもない、フロムナインとかわした会話だった。
だが、そんなことがあるものか! 彼女は■■た。虚空のどこでもない宇宙の、すべてがそろうところ、なにもないところへ行った。それは未来の話。
いいや、ちがう。彼女はここにいる。彼女は黒髪で、若く、その点あの人に似ている……あの人? あの人って、なんだ。
「それは、私の母だよ!!」
はあっ、と、どなり声を上げて、ゲンコはひたいをびちゃりとふれた。手のひらも、額も汗でびっしょりだ。冷や汗か、あぶら汗か。
フロムナインが肩にさわっているのに気づくのも一瞬遅れた。
(なんてこった……)
がく然とする。ひどい精神の汚染状態だ。なにかとんでもない密度の、ナニカがここにはうずを巻いている。自分は翻弄されている。湖面の上の小舟だ。
無様だった。
ひとしきり自己嫌悪して、ゲンコはフロムナインの手から指をはなした。知らずににぎりしめていた。フロムナインの指先は、当然のように血がかよっておらず、硬質で、握った指は白くなった。
そこへ、血がかようイメージで、ゲンコは脳に血を通させた。まるでそれまでは通っていないかのような錯覚があった。
「?」
ふと、顔をあげて、ゲンコは疑問符を投げた。
実際には、疑問とまでもいかなかった。
視界が変わったのだ。思わず、目をめぐらせる。
すると、もう一度、視界が変わる。
一瞬、顔を上げたとき、もといたコンクリとリノリウムの床が見えたのだ。あたりはさびれていて、月が窓からさしこむ廊下だった。
それが目を巡らせた瞬間に、べつのものになった。べつのもの、ではない。
ここが明かりとりの丸い穴があいた廊下であるのは、さっきからずっとだ。
(幻覚……)
「いや……」
ゲンコは、フロムナインのリアクションを見て、それをみのがさなかった。まちがいなく、彼女も一瞬、顔を上げてなにかを確かめた。
それはゲンコとおなじタイミングで同じものを見た。ように見えた。
だが、希望的観測かもしれない。それこそ幻覚とよべるものだ。
ゲンコは、フロムナインを見やって、迷うようすをした。フロムナインはゲンコを見た。
「ゲンコ・オブライアン、いま、なにか視界に変化が?」
「あなたも……」
「さきほどのポケベルのメッセージは?」
「変哲ないもんですよ。応答してほしいと」
「通信機器をここで試しますか?」
「もうすこし移動しましょう」
ゲンコはポケベルのメッセージだけ、送ることにした。通話は音が出る。
ゲンコが提案した文脈を、ちょっと、すりあわせてからフロムナインが、清書し送る。
ゲンコがそうしなかったのは、明かりがないなかでやるなら、フロムナインの目のほうがいいからだった。
が、それが功を奏した。
ゲンコは、ふと気づいたようにばっとフロムナインの身体をつかんで倒した。
フロムナインが地に伏せる。伏せるようしたのはゲンコだが、瞬時にこのアンドロイドは察して対応していた。
ごうっと、薙いだ。
頭があったところだった。ゲンコは視線を巡らせながら、全力でグラフを展開させた。ガットギターとクルタナ、それに付随する目の機能。知覚の制御と拡張。
それでも、つぎにくる斬撃か、それとも鎧の体躯が、ふきとばしにくるかは予想できない。ただ、空間と事物と事物の軌道、すきまを見てとることができ、そこにしゃにむにすべりこむ。
フロムナインとはそこまでの連携はできなかった。たがいに現場のプロといえば、そう言わざるをえなかったが、内実は急ごしらえの一人と一人だった。いや、一台か?
とにかく巨体のつっこんできたのをかわし、ゲンコはなんとか地に足をつけた。フロムナインがどうしたかわからず、そこにいたもう一体の斬撃をかわしている。
服のすそだけが間に合わなかった。
ゲンコは、つっこむままに巨体にむけ床をころがった。みっともないが、かまうものか。構っている余裕もなく、あちこちをまたしたたかに叩きつけ打ち身になりかねない衝撃を耐える。
鎧の中型。
それも、二体も。
大型が、建物の外にいたとフロムナインは言った。
ならばこの中型も、幾体も同じものがいるのかもしれない。おさえていた最悪とよべそうな考えをまき散らして、ゲンコは逃げた。逃げていてどうする。決めるのだ。
ここでやるべきことは決めることだった。
ここで人生を終わらせたくなければ。唐突にやめた日記のように、意識が二度と目覚めないように、なりたくなければ。
(決めるんだよ、オブライアン! ゲンコ! まぬけなお嬢さん)
ゲンコはほれぼれするような最小の動きで、ふりむきざま弓をぬきはなつように向けた。ほぼ同時に、はなれた一体が斧をぶん回した。斧は飛んだ。矢のごとく。ゲンコは、同時に引きしぼった矢をはなつ。矢と、斧の刃とが、上、下、微妙にななめにかみあう角度でかちあった。斧のほうが上へそれて飛び、ゲンコのちょっとだけかがめた上を行きすぎた。上空、すれすれを。
斧を投げたのとべつの一体は、すでにつっこんで……斧はその横を正確によける軌道で飛んだのだ。連携している! きていた。
ゲンコは壁と床のななめになった空間をみちびき、そのところに、また身体を投げつけた。計算どおりに巨体がかすめる。まるで地下鉄や鉄球をなげる……砲丸か、競技の、または、投槍の投擲が肌全体をかすめとる感覚。
ひじのあたりをなにか大きなものがたしかにかすめた。ゲンコは寝たまま、身体全体だけはぎりぎりふんばるようなかたちで、壁から通路に向けて一直線の弓を引いた。引いたままの姿勢で、自分が一瞬たもっているようにした。
狙うのは行きすぎた巨体。
「ウェンフェルス、栄光を!」
フロムナインが短くささやくと、光刃が大きく闇を裂いた。それは、一瞬の火花のように、短いあいだのび、中型の鎧でおおわれた身体を揺らした。
あるいは、照らしだした。ゲンコは、それが射撃へのフォローになるのを感じた。また、同時に引くな、と感じた。
弓が放たれた。
爆発が放電とともに空を裂いた。
(くそ!)
と、一瞬、悪態が往きすぎた。
ひらめきのようなものだった。ゲンコが生きていることの証左だ、と、思考のすみでやけくそ気味に思った。
巨体には突き刺さった。渾身の威力のはずだ。そのあいだにも事態はすすむ。ゲンコはすでに動いている。上げて、目に入れて。
周囲の状況を伝達する。どんなときでも、欠かしてはならない。
その把握したところによると、矢の突き刺さった巨体は、動いていた。死んではいない。もう一体。いや。
ゲンコは、フロムナインが巨体の斧に叩きのめされたのを見た。
その巨体は、まだ見ていなかった。総量で言えば、三体目、ということになる。
自分たちは、三体の巨人に襲われていることになる。
ゲンコが思い浮かべたのは、かろうじて、三体も鎧の中型がいるなら、通路にせばめられて動きが制限されるかもしれないということだった。
ゲンコは彼らを全員排除することを決意した。手はそれより早く、はじかれたように左足を殴りつけている。折れるような振動。
スローモーションにも感じられる、鎖の動き。三体すべて、ゲンコの居場所をとらえている。
そのうち二体が、殴りつけてくるようだった。ゲンコはギターで和音でも奏でるときのように、糸をはじいた。
細かい破片、一瞬で、意識が飛んだような空隙がはさみこまれる。
その存在を、ゲンコが意識したのは、紫電のように視界がはじけ、移動した身体のスピードに、破片が切り裂いて答えたためだった。顔や、皮膚や、あるいは服のあちこちに細かい傷が走った。ゲンコはひととびにまた跳んで、二体の一撃をかわし、弓を構えた。
一体だけ、ゲンコの動きにかろうじて反応していた。あたりまえだ、消えるほどの速度で動こうと、目の前で見たのだ。
左足が、激しくたかぶっていた。人体の一部ではありえない感触をしていた。
まぎれもなく、ゲンコの足であり、人間の足の姿もしている。だが、莫大な力がふくれあがってくる。発光するかのような、輪郭の高まりが、胎動するゲンコ本人の人体に、動きとともに広がっていく。斧が空を斬る音がすさまじく無感動に響いた。
ゲンコは、ひゅっと音を立てるほど息を吐いた。止めた。次の瞬間には、頭があったところを、凶暴な質量が薙いでいた。いくつか髪の先も散っただろう。
全身が総毛立つ。脂のような汗が吹き出す。気持ち悪い。感覚と、自己を一致させるのに、ゲンコは必死になって、一撃を躱した目を、躱した姿勢のまま、敵の肉体へ向ける。
「ひ――」
声が出た。しゃっくりのようなものだ。予想を上回る速度で、眼前いっぱいに黒い肉体があった。それは鋼鉄のようなものでおおわれている。
あれに当たったらどうなる。捕まったらどうなる。かすっただけでも、はたしてどうなる。ひどく呑気で遠ざかった思考が、失いかけている意識を、おそろしくはっきり自覚させる。緊急事態とはそのようなものだ。周りの世界に放り出された生き物が、あらがうすべもなく身につける衣服もなく、鋼鉄のつるつるしたものに、さらされる。恐怖、あるいはそれを、狂気とよぶ。
ゲンコが引いた弓の様相も、まるで、体毛を、逆立てているかのように、紫電が発した。いや、銀の放電と発光だ。射撃されるエネルギーに耐えかねたかのように!
ばきり。
そんな音で、鎧の中型の頭部はふきとんだ。
当然、打撃めいたものではある。だから、着弾と同時にへし折れたというのが正確なのだろう。
「〜〜〜〜」
血走った目。かみ切った口。巨体が倒れふし、別の巨体が、床を掻いてくる。長い腕で、よつんばいの獣のように、飛んでくる。
が、それより早く二撃目の矢にゲンコの手はかかっていた。倍速の判断思考が、なにもかも、動きを予想に収めていたように矢を放つ。放つな、と、ゲンコの脳が動作に遅れて警告する。
そのときには、やはりゲンコの肉体は、着弾で返ってくる衝撃波が自分ごと眼前の物質を吹き飛ばして放電、発破して、あちこち打つほど転がることを用意している。丸まって、木の葉のように床を舞う。
「あっ――だ」
言いながら、ゲンコはさかさに床に両手をついてアクロバットした。転がっていった先に、鎧の中型がもう一体現れている。そいつは剣をもち、その剣は、パンを切るノコのように細く、ゲンコが避けた時には、横ざまにふられたところだった。ゲンコはブレイクダンスでもやったように、起き、突き、跳ねてはなれるのを目にも止まらずやった。
その途中、吐いた血が吐しゃ物となって、ゲンコが跳ねたあとをたどった。ゲンコは、歯をきつく縛ってものも言わない。
内臓がねん転するような痛みが、身体に襲っている。それでも、なにも言わず弓をひく。連続で。一撃が剣を手にした鎧の中型を倒した。もう一撃が、追いすがっていた一体を崩れおとさせた。通路のあちこちに、鋼鉄の倒れこむ音がひびいた。
が、ゲンコは止まらない。新たな鎧の中型が現れたからだ。三本の腕に、それぞれ剣と鎖をにぎり、鎖は巨大な鉄球がつき、すり潰された臓物にまみれている。
鎖が生き物めいて、不自然に、宙に舞った。だが、それは巧緻なコントロールによるものらしかった。ゲンコが正面に、ふりむきざまとらえた横を、鉄球がかすめている。ゲンコがかわしたのだ。その背後に、すでに二体の鎧でない中型があらわれ、フロムナインが立ち直って交戦している。
一気に通路に修羅場が満ちていた。




