表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/54

尾行

 次の日。学校終了後の放課後。


 仁美は友人の深川彩音ふかがわ あやねと一緒にショッピングモールにいた。ショッピングは相変わらず繁盛中で周囲は客の声で騒がしい。


 彩音は茶髪に水色の瞳、ショートカットでボーイッシュな女子だ。


 仁美と彩音は同じ高校でありつつ中学からの友達でもある。


 そして、奇妙にも仁美と彩音は5月にも関わらず、制服の上にロングコートを着ていた。仁美は亜麻色、彩音は茶色をおのおの身に着ける。その上、彩音は伊達メガネと帽子のハットをかぶる。また、仁美はサングラスにキャップの帽子をかぶる。


「どうして僕もショッピングモールにいるんだ?必要ないだろ?」


 彩音は年不相応の少年みたいな声色で不満を口にする。その間、目はわずかに細くなりつつ唇の先も尖る。


「それに、どうして変装なんかするんだ!長袖なんかこの時期暑いだろ!」


 さらに、彩音は自身の服に目を通しながら疑問も口にする。服は非常に清潔感を保ち、いい香りが漂いそうだった。


「それは…。彩音がショッピングモールで笠井さんが男性と仲良く歩く姿を見たって教えてくれたからだよ。それと、変装は尾行でバレないためね」


 仁美はサングラスをわずかにずらし、周囲をぐるりと見渡す。その際、美しい亜麻色の瞳がひょっこり覗いた。


 そう。仁美は彩音からそのような話を聞き、早速ショッピングモールに足を運んだ。強引に彩音を誘って。


「それにしてもどこにいるんだろ?もしかして今日は現れないのかな」


 仁美は丁寧にサングラスを掛け直し、考え込むように両腕を胸の前でクロスさせる。


「あ、いたよ。あれじゃない?」


 彩音は軽い調子で指さす。その声に一切の緊張感や緊迫感は存在しない。


「え!?うそ!」


 仁美は驚きつつも、彩音の指さす方向を辿る。方向を間違わないように指の方向をしっかり確認して。


 すると、意外と簡単に光は発見された。彼女は大学生らしきイケメン男の腕に抱きつく。その男は以前に光がいちゃいちゃしていた人物だった。


「な、なにあれ!広季の気持ちも知らないで!」


 仁美は幸せそうに会話する光に対して苛立ちを覚える。その証拠に、目つきが普段の優しい感じと大きく異なりきりっと鋭くなる。


「ちょ、ちょっと仁美!バレるよ!!」


 彩音はどうにか落ち着かせようと上手いこと宥める。そのおかげで、光達に仁美や彩音は認識されていない。未だ、光達は自分達の幸せな空間に身を置く。何人たりともあの空間には侵入できそうにない。


「それにしても、あの男の人かっこよくないか?」


 仁美がだいぶ落ち着いてから、彩音はわずかに頬を赤く染めながら同調を求める。


「そう?全然かっこよくないし、タイプでもない」


 仁美は少しも考えずにバッサリと低評価を下した。その言葉の端々には冷淡さが垣間見えた。


「おぅ。辛辣。仁美にはまったく魅力的に映ってないみたいだ。まあ、おそらく例の人だけしか眼中にないんだろうけど」


 彩音は苦笑いを浮かべながらも納得した様子を見せる。多分、思い当たる節はあるのだろう。


「ねえ、速くいくよ。尾行しないと」


 それから、仁美と彩音はバレないよう慎重に尾行する。


 結果、2人は何度も光とイケメンの楽しそうな光景を視認した。


「ねえ健君。これなんてどう?」


「ああ。それはいいね。光センスあるね!それ買おう」


 あるときは、相談して服やアクセサリーを買い、即座に身に纏いペアルックにした。


 また、あるときにはカフェで。


「…き、緊張するね」


 光は顔を真っ赤にしながらおずおずと尋ねる。


「大丈夫?無理ならやめようか?」


 健は心配そうに気に掛ける。その声を聞き、大切にされている思ったのか。光は嬉しそうに頬を緩ませ、女の顔を存分に露にする。


「ううん。大丈夫!一緒のタイミングで飲も。いける?せ~の」


 光は健と同時にストローを啜った。2人の吸引によってストローにオレンジ色の液体が流れ込む。


 飲んでいる間、光と健は笑いながら見つめ合う。2人共じっと目を合わせる。


 しばらくしてから、2人共ストローから口を離した。そのせいで、ストローはわずかに左右に揺れる。


「美味しかったね…」


 光は顔を真っ赤にしながらトロンとした目で満足そうに微笑む。身体に熱を帯びているのか。顔や額にほんのりと汗を垂らす。


「そっか。それなら俺も嬉しいよ」


 健は慣れた手つきで光の頭を撫でた。男性特有のがっしりした手が光の頭を包む。


 もちろん。光は抵抗せずただただ受け入れる。頭を撫でられる度に顔はどんどんだらしなく緩んでいった。


 一方、仁美はこれらの幸せそうな光景を視認する度にイライラを露見させた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ