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宣言

 ピッ。


 ガタンゴトン。


 自動販売機が天然水の詰まったペットボトルを吐き出す。


 ペットボトルをしゃがんで取り出す仁美。


 自動販売機は2台あり、各々に青い光を放つ。


 近所には柔剣道場もある。


 この地点は啓司が仁美に告白した人気の無い場所。告白には打ってつけだ。


「ちょっと! どういう意図があるんだい?」


 後ろからゆっくり啓司が現れる。おそらく、追跡していたのだろう。


「追跡していたよね? ストーカーみたいで気持ち悪いよ」


 ペットボトルを掴みながら、仁美は振り返る。特に笑顔はなく真顔だ。


「辛辣だな。だけど今回は下心はない。シンプルに気に入らない事柄を問い詰めに来ただけ」


 ポケットに手を突っ込み、啓司は言葉を紡ぐ。自身の格好良さに酔ってるようだ。


「気に入らないこと? もしかして、フラれた事実を周囲に拡散した件?」


「そうだよ。良くご存知で。まぁ、本人が自覚してないと不自然だよね」


 だんだん啓司の表情が鋭くなる。徐々に余裕のある笑みも消える。


「確かにその通りだね。それで? 私に何か? 答えられる範囲なら構わないよ」


 啓司の変化に怖気付かず、堂々と仁美は応戦する。特にたじろぎもしない。姿勢よく佇む。


「相変わらず強気だな。そんな性格も魅力的だが可愛げもない」


「別にあなたに可愛いと思われる必要ない。それに、正直思って欲しくもない。気色悪いから」


 返答しつつ、皮肉の口撃も仁美は時折り追加する。リズミカルに効果的に。


「本当に俺をイライラさせるな。だが、このままだと埒が明かない。単刀直入に聞く」


 癖なのか。ガンッとストレスを解消するように右足を地面へ叩き付ける。


「どうぞ」


 最低限の言葉を用いて、仁美はあっさり答える。


「なぜ俺がフラれた事実を言いふらした?」


 不機嫌さをおくびにも隠さず、啓司は尋ねる。


「覚悟しろよ。簡単には解放しないからな。たとえ3時間目に遅れようとも」


「そう。それは別に構わないけど。広季が心配するのだけは不安かな」


 制服のポケットからスマートフォンを取り出し、仁美は広季へメッセージを送る。


 慣れた手つきで授業に遅れる可能性がある旨を伝達する。


 仁美の自由さに啓司は唖然とする。抗議すら不可能。


「よし完了! ごめんごめん。言いふらした理由ね。いいよ全然答えるよ」


 スマートフォンを制服のポケットに投入し、仁美は気軽に対応する。


 申し訳なさそうな態度は存在しない。さも正しい行いをしているかのように。


「…あぁ。そうだ」


 ようやく啓司は言葉を発する。数秒間、しばらく静かだった。


「理由はね。…転校生のあなたを潰すためだよ。中学時代に広季をいじめた憎きあなたをね」


 仁美の雰囲気が変貌する。普段の明るいオーラから邪悪で暗いオーラへ移り変わる。


 空気の変化を啓司は敏感に察知する。一瞬、顔や肩が微妙に震える。


「私は絶対にあなたを許さない。広季に深い傷を負わせたあなたをね」


 日常ではありえない鋭い目付きで、仁美は啓司を見据える。ターゲットを取りこぼさないように。


「だから覚悟しなよ。まだ序の口だから。今日の拡散はささやかな始まりだから」


 6月にも関わらず、わずかな通り風が吹く。仁美と啓司の髪を強引に左右へ揺らす。両者ともに視界がおぼろげに映る。


「以上だから。もう用件はないよね? 私は終わったから!」


 勝手に話を終了するなり、仁美は歩を進める。啓司の言葉を待たず。


 早々と2台の自動販売機を通過する。自動販売機は見送るように青い光をぴかっと放出する。


「じゃあまた。もしかしたら会話することも今後あるかもね」


 佇む啓司の耳元で囁き、仁美は真横を通り過ぎる。


 啓司は何も言い返せず、ただ真正面だけを直視する。


 そんな状態の啓司など無視し、仁美は構わず前進する。


「え!? さっきの話は本当。前の休み時間に森本君に暴力を奮おうと試みたあの生意気な男子がいじめをしてたの?」


 一方、偶然にも柔剣道場辺りを通りかかった舞は信じられない表情を形成する。舞は2人の視界に入らない校舎の入り口にいた。


 彼女の前で、仁美と啓司が繰り広げた会話。その事実に驚嘆する様子だ。未だに事実の正誤を疑ってしまう。


「ふざけてるの…。うちの大事な大事な森本君を中学時代にひどい目に遭わせた。それだけでなく高校でも害悪に徹するなんて」


 ぶつぶつ呟く。普段のおっとりしたオーラは既に消える。


「許さない! 絶対に懲らしめてやるの!!」

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