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無謀な声掛け

「いきなり告白は早すぎたかもしれない。次のターゲットは遊びに誘うところから始めるぞ」


 無様に仁美に振られた次の日。


 啓司は昇降口で待ち伏せする。帰りのホームルームからしばらく時間が経過する。そのため、昇降口には少人数の生徒しか見当たらない。


「俺が視認してないなら。おそらくまだクラスにいるはずだ。《《金髪碧眼の高身長》》美少女は」


 昇降口前をうろちょろ啓司は歩く。


 帰路や部活に向かう生徒から好奇の目を向けられる。しかし、啓司は全く気にしていない。いや、気づいていない。


「おっ!? 来たな」


 わくわくした顔で待つ啓司が足を止める。


 例の美少女が視界に入った。


 楽しげにその美少女は笑顔を振り撒く。


「よ〜し! 声を掛けるぞ。誰かと話してるみたいだけど。関係ないぞ」


 鏡なしで、手先で感覚的に髪をセットする。


「って。な!?」


 驚きの声を漏らす啓司。彼にとって信じられない光景が目の前に露わになる。


 金髪碧眼の美少女。海は広季と会話を交わしがら、頻繁に顔を綻ばせる。


 その事実は啓司に衝撃を与えない。隣の人物が広季であること。これが何よりも啓司から冷静を抜き取る。


 広季と海はお互いに靴に履き替える。1度は靴を履き替えるために別れ、再び合流する。そのまま帰路に就こうと試みる。


「ちょ、ちょっと待って!」


 ドタバタ走りながら、啓司は広季達を制止する。目の前に立ち塞がるように。


 啓司を視認した瞬間、広季は顔をしかめる。やはり中学時代の記憶は簡単に抜けない。前日にいくら仁美に抱きしめてもらっても。


 現に、不快感と恐怖が混ざった感情が広季の心を広く支配する。


「なんですか? わたくし達を邪魔するような形で前に立って」


 不快感を隠さない海。眉間に皺が2重ほど寄る。


「ちょっと待ってよ。落ち着こ。そんな陰キャのどこがいいの? なぜ君みたいな美少女が冴えない男と下校しているの?」


 SNSでメッセージを打ち込むように、次々と啓司は広季の悪口を口にする。それを悪びれもせず。世の常識の如く言葉を紡ぐ。


「はい? …ちょっと待ってください。…もう1度言ってくれませんか?」


 鋭い目つきで睨みながら、海は啓司へ顔を接近させる。顔の距離は目と鼻の先だ。


 明らかに雰囲気が変わった。


「な…なに? 気分を害しちゃったのかな? それなら謝るよ」


「いいから、もう1度言ってください!」


 体勢をキープし、海は啓司を無視する。


「いいよ。何度でも言うよ? この陰キャのどこがいいの? 俺みたいなイケてる人間の方が釣り合うとおも——」


 パーーン。


 甲高い音が昇降口辺りに響く。


「へっ」


 何が起きたか。その現実を啓司は認識できない。ただ素っ頓狂な声だけを漏らした。


「次、口を開いたら、左頬を引っ叩きますから。また、口を開いたら今度は蹴りを入れます」


 バイ菌を払うように、海は両手をパンパン叩く。


「行きましょ! 森本さん! あんなクソな人間の言葉なんて無視ですよ。無視!!」


 表情は一変し、満面の笑みで海は広季の腕へ抱きつく。


「お、…おう」


 目の前の時間に戸惑いながらも、海に流され、広季は啓司の横を通過する。


「森本さんの方があなたなんかより100倍。いや、1000倍魅力的ですよ」


 通り過ぎる際、啓司の真隣辺りで海が断言する。


 1言も啓司は反抗できない。ただ表情だけ固まる。


 どんどん海は前に進む。


 振り返りながら広季は啓司の後ろ姿を見つめる。


(なぜだか知らないけどダサいな)


 広季にとって未だかつてないほど啓司の後ろ姿は情けない。

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