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口聞かない

「お前は光の…」


 健は言葉の途中で口を噤む。口元は一の文字を形成する。


 一方、広季は健を認知した瞬間、胸中に言葉では言い表せないほどの怒りが渦巻く。ぐるぐるとスパイラルを描くように。だがその感情が暴走しないように内部で必死に抑圧する。さすがに海の自宅で好き放題怒りをぶちまけるわけにいかない。


「どうしたんですか?もしかしてお2人はお知り合いなんですか?」


 海は広季と健を交互に見つめながら、疑問を投げ掛ける。瞳はチラチラ動き、非常に気になる様子だ。


「あの~。言いにくいんだけど。笠井の浮気相手は…」


 広季は重い口を敢えて開く。正直、健に1泡吹かせたかった。それほど広季は健に対して恨みを持っていた。


「ばかっ!?だまっ」


 健は慌てて制止させようとする。しかし、広季は正直にすべてを打ち明ける。すべての真相を。


「はい。…はい」


 海は相槌を打ちながら最後まで話を聞く、衝撃の事実を耳にし、徐々に口は半開きになり、目は驚くように大きく見開かれる。


 100秒ほどですべてを話し終えた。広季にとっては体感的にかなり長い時間だった。彼にとって10分間しゃべり続けた感覚だった。


「最低です!まさか人の彼女さんを奪うなんて!!」


 話を最後まで聞き終わった後、海は激昂する。血相を変えて普段は見せない大きな声をあげる。


 広季と健はその状況に動揺を隠せない。健なんてびっくりして両方に鼻水を垂らす。


「違うんだ海。これには理由があって」


 健は弁解しようと試みる。落ち着かないのか。両手を胸の前であたふたさせる。


 広季と初めて会ったときのような爽やかで余裕のある雰囲気は感じられない。みっともないの1言に尽きる。


「言い訳なんて聞きたくないです!もうお兄さんとは金輪際口を聞きません!」


 海は隆盛な口調で言い言い切る。嫌悪感を示すようにプイッとあからさまに健から視線を逸らす。


「こ…金輪際…口聞かない…」


 健はショックを隠せない。力尽きるように膝から床に崩れ落ちた。ガンッと健の膝と床のぶつかる衝撃音が生まれる。実に痛そうだ。


「森本さん!行きましょう!」


 海はそんな兄を気にする素振りを一切見せず、広季の手をぱっと掴む。細長く柔らかい感触が広季の右手を包む。


 「ど、どこいくの?」


 広季は海に手を引かれながら訪ねる。柔らかい感触をしっかり知覚しながら。


「決まってます!わたくしの部屋です!」


 海は雑な返答をしながら、ぐいぐい強引に広季の手を引く。その力強さに広季は抗えない。


「お、おう」


 広季は身を任せるように歩を進めながら、ショック状態の健を横目に付近を横切る。それから玄関を超え、高級そうな青の階段を海と登る。

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