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「森本さん。放課後はわたくしの自宅に来ませんか?」


 ある日、広季は海に声を掛けられ、自宅に誘われる。場所は廊下だ。


「いや、そんな迷惑じゃないの?」


 広季はやんわり断ろうと試みる。さすがに付き合ってないのに自宅へお邪魔するのは気が引けた。実際、仁美や舞の自宅へお邪魔した経験はあるのだが。


「大丈夫です。どちらかというとわたくしが森本さんに来て欲しいんです!」


 海は諦めずに懇願する。上目遣いで顔と豊満な胸を接近させる。海の顔は広季と目と鼻の先になる。


「それに幸運にも両親もいませんし…」


 海はわずかに距離を取り、身体をもじもじさせる。頬はほんのり紅潮し、身体は左右に揺れる。豊満な胸も呼応するようにプルプル左右に揺れる。


「うん?それはどういう意味?」


 広季は海の言動に違和感を覚えた。脳内に?が生まれる。なぜ海が顔を赤くするのか理解不能だった。女心は難しい。


「それは内緒です!言わせないでください!!」


 海は両目をきつく瞑り、恥ずかしそうに訴える。両手は胸の前で強く握る。その仕草は実に女性っぽさが滲み出る。


「あ、ああ…ごめん」


 広季は素直に謝った。自分の失言は容易に気付いた。海の様子を見てすぐに察する。


「いえ、こちらこそ取り乱してすみません…では放課後にお願いしますね」


 海は申し訳なさそうに謝罪し、改めて自宅に誘う。今度は落ち着いた口調で丁寧に頭を下げる。


「う、うん。分かったよ」


 広季は海の意図がよく分からなかったが、流れで了承してしまう。何の疑いもなく実行する。


(あ、自然と誘いを受け入れちゃった)


 海は広季の了承を耳にした瞬間、控えめに胸の前でガッツポーズする。飛び跳ねるように足を少し浮かせてから。


 広季は上手いこと誘い込まれてしまった。これは海の戦略だったのだろうか。それは海のみぞ知る。

 



 放課後。学校から20分ほど歩くと、海の自宅に到着する。海の家はこの地域で有名な高級住宅街の中心に位置する。紺色を基調とする家であり、3階建ての大きな1軒家であった。庭には新緑の芝生があり、約10メートル以上の面積はある。


「どうぞ!はいってください!!」


 海はドアを開けるなり、広季を入るように促す。そのドアは汚れ1つなく、異常な高級感も漂わせる。


(絶対に傷つけないようにしないと)


 広季は素肌で反射的に感じる。日常では考えられないが、自分自身をきつく戒める。不用意な行動をしないように。


「う、うん」


 広季はおそるおそる海の後を追うように自宅へお邪魔する。手はほんの少し震える。さすがに高級住宅は初めてなので緊張する。


「ただいま~」


 海は玄関でローファーを脱ぎ、帰りの挨拶をする。広季も倣って普段靴を脱ぐ。他者の自宅なため靴のつま先と踵も丁寧に揃える。


「おかえり~。海~~。お兄ちゃんは待ち焦がれてたよ~!ただいまのハグでもする~?」


 ご機嫌な口調で健が玄関に登場する。頬もだらしなく緩む。海を受け止めるために両腕を広々と左右に拡げる。


「お兄さん…。何度も言いますが、絶対にしません!」


 海は露骨に嫌悪感を漂わせ拒絶した。バッサリだった。目は完全に冷え切っている。


「「あっ」」


 自然と広季と健の目が合う。広季が嫌なほど見覚えのある人物が目の前に佇む。


「お前は…」


「あ、あなたは…」


 2人は同時に声を出す。互いの名前を呼ぼうとする。しかし、お互いの名前を知らないことに気付く。


 そう広季から光を奪った健は海の兄だった。その衝撃的な事実を認識する前に苦い記憶を思い返した。

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