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らしくない

「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!何するの!!痛いんだけど!!」


 さすがの光も黙っていなかった。光は鋭い目付きを舞にやる。目はわずかに細まり、鼻息も荒らい。


「ふざけないで!」


 舞は光の言葉を無視し、激しく責める。その声に怯み、光はより後ずさる。先ほどの威勢は皆無だった。小刻みに口元も震わせる。


「浮気したのに復縁を求めるなんて。どれだけ人の心を甘く見ているの!」


 舞は立て続けに光を非難する。普段のおっとりした調子とは打って変わり、熾烈に暴言を吐く。


 広季も光もこんな舞を目にしたことがなかった。顔も怒りからか。わずかに赤い。


 広季は呆然と舞の背中を眺める。


 一方、光は居心地が悪そうに俯く。視線は完全に下を向き、半ば涙目だった。よっぽど姉が恐いのだろう。


「本当にどういうつもりでしたの!」


 舞は追い討ちを掛けるように問い詰める。歯止めが効かない。今のところ彼女の視界に広季はいない。光だけだった。


「…」


 光は俯いたまま言葉を発さない。決して舞と目を合わせず、黙って静寂をキープする。


「とにかく!光ちゃんはしっかり頭を冷やしなさい!!」


 舞は言いたいことを全部吐きだし、ようやく落ち着いたのか。静かになった。


 はぁはぁと肩を大きく上下させながら呼吸をゆっくり整える。少しだけ冷静になったみたいだ。だがまだ興奮は収まっていない。


 一方、周囲には3人以外誰も存在しない。唯一、自動販売機のみが機関音を吐き出す。


「森本君」


 光が何か言おうとした瞬間、舞は踵を返す。狙ったかのように。


 舞の瞳から光は抹消され、広季のみ映る。


「行こ!」


 舞は早歩きで歩を進め、広季の手を強引に引いた。ぐいっと広季の腕を引く。


「ちょっ」


 広季は戸惑うが、構わず引っ張られる。想像以上に舞の腕力が強力だった。足がもつれるがなんとか踏ん張り耐える。


 光は取り残されたまま立ち尽くす。じっと黙ったまま叩かれた頬を手で押さえる。


「大丈夫ですか?」


 広季は心配そうに声をかけた。舞は相変わらず無表情のまま前を向いて歩く。


 しばらくすると舞と広季の姿はその場から完全に消えた。光はたった1人ぽつんと取り残される。まるで迷子の子供のように。立ち姿や表情にはプンプン哀愁が漂う。


「はは…。上手くいかなかった。それにあのお姉ちゃんに説教されるなんて」


 光の呟きは誰にも聞かれることなく空気中に溶けて消える。


 なぜか顔は一瞬だけ破顔する。


 だがすぐに破裂するように顔を覆い、大粒の涙を流す。目から頬へと涙は推移する。


 そのまま跪き、シクシク泣き声を漏らす。手から零れる涙は地面へといくつも墜落する。それらの涙は同じ箇所に落ち、丸い円形のシミを作る。


それはやがて大きくなり、徐々に広がり始めた。そして小さな円は2つに増え、次第にシミの範囲は広がる。

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