表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/27

008

 大ガードの付近の年老いたホームレスたちは、50年前と変わらずそこで寝転んでいた。ある意味、牧歌的でさえある。周囲のションベン臭さはいかんともしがたいが。

 黄泉がそのなかのひとりに近寄って、タバコを1本手渡した。老人はそれを受け取り、何やら耳打ちした。

「待たせたな。行こうぜ」

「今のはなに?」

「なじみの情報通だ。何か気になるコトがあれば知らせてくれる。今日は特に収穫はなかったが、どちらにせよ手なずけておくには、ああして定期的にエサをやっておく必要がある」

「でも、なんでカネじゃなくてタバコ?」

「イマドキ〈M.I.N.O.S.〉に登録してねえヤツは、酒もタバコも売ってもらえねえからな。むしろ現金よりもよろこばれるのさ」

「フーン」

「イマドキ現住所リアルアドレスなんかなくたって、〈M.I.N.O.S.〉にひもづけられた電子メールアドレスさえあれば、マトモな職に就ける。メール確認用の端末代がねえなら、国から補助金も出る。それでもホームレスであり続ける連中ってのは、よっぽどのガンコ者なんだろうさ。おれにはまるで理解できんね」黄泉は吐き捨てるように言った。

 西新宿からここまで歩いて来て、少なくとも風景という点において、50年前と大きな違いは感じられなかった。せいぜい建物が老朽化していたり、新しくなっていたりしたくらいか。

 しかし歌舞伎町へ足を一歩踏み入れてみれば、そこはまったく様変わりしていた。

 まず、駅前のパチンコ屋がなくなり、ギャラリーになっていた。1階には喫茶店を併設している。現在の展示内容は、都内の国公立大学が合同で展覧会を開いているらしい。

 それから、いかがわしい店の看板が、いっさい消えてなくなっていた。キャバクラ、ホストクラブ、ピンサロ、ストリップ、ファッションヘルス、個室ビデオ店、無料案内所――どれひとつとして見当たらない。残っているのはラブホテルくらいのものだった。

 代わりに軒を連ねているのは、オシャレなカフェやレストラン、ラーメン屋、ファストフード店、居酒屋、立ち飲み、バー、ネイルサロン、エステ、アパレルショップ――見るからに健全な店ばかりが立ち並んでいる。

 確かに、風俗が廃れるのもムリはないだろう。新宿中央公園のありさまを思えば、わざわざセックスに高いカネを払う意義を見出せなくなってトーゼンだ。とはいえ、アブノーマルな性癖を扱う店は残っていてもよさそうだが。

 それに、キャバクラなどまでなくなってしまったのは解せない。ああいうシロモノは何だかんだでいつの時代も、それなりに需要があるものだ。

「たまたま風俗関係で事件が重なったときがあってな。ボッタクリとか未成年を雇ってたとか。世論がそういった店をなくすべきって方向へ傾いて、特に歌舞伎町が代名詞として槍玉に上がった。それがちょうど、警察が民営化したばかりの時期だったもんで、各社こぞって摘発に乗り出したんだ。自分たちの有用性を示すために。結果、やりすぎちまったってワケさ。今じゃアあの手の商売は、全部品川に移っちまった」

「フーン。そっかァ……」どこかさびしい気もするが、うっとうしい客引きもいなくなったのはサイコーだ。いっさい歩みを妨げられるコトなく、目指す場所へ進める。

 そのとき何か聞こえたような気がして、大通りのほうを振り返ると、大音量でヘンテコな歌を流しながら、気色悪いロボットを載せたトラックが通り過ぎて行った。

 平坂は何も見なかったコトにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ