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ガネーシャの首  作者: 木下森人


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22/27

022

 翌日、平坂はひとり新宿をブラブラ歩きまわって、〈人形つかい〉が食いつくのをひたすら待ち続けた。

 彼女の周囲には黄泉を含めて、ALGOS警備保障の探偵たちが複数人待機している。怪しい動きを見せた者を見逃さないようにと、彼女の護衛のためだ。

 夜中までほとんど休みなく、まる1日ねばってみたが、その日のところは収穫がなかった。明らかな不審者を発見して取り押さえる一幕もあったが、プロファイリングからまったく外れていたし、〈M.I.N.O.S.〉にも登録済みだった。

 そしてオトリ捜査を2週間続けてみたものの、結局もくろみどおりにはいかなかった。

 黄泉はうんざりした態度を隠そうともせず、「最初からダメもとのつもりではあったけどよォ……こうも空振りだと、さすがにイライラしてくるぜ。いったいどうなってんだ? なんで〈人形つかい〉は釣られねえ? もしかすると、もう殺人からは足を洗ったってコトじゃねえのか?」

「それは絶対にありえないわ」平坂は力強く断言した。「サイコパスはけっして犯行をやめるコトなんかできない。次はもっと上手くできるっていう欲求に、ヤツらはけっしてあらがえないんだから」

「だが実際に犯行はストップしてる。これまでの犯行周期からしたら、とっくに動いてなけりゃアおかしい。だとしたら、考えられる理由はなんだ? 例えば事故に遭ったとか」

「それは希望的観測すぎて、わざわざ考慮する意味がないわ」

「日常生活のほうが急に忙しくなった?」

「ううん。そういうとき、特に秩序型の犯罪者なら、ヘーキでウソをついて仕事や学校を休む」

「なら、おれたちの考えと違って、おまえさんは犯人の好みから微妙に外れている?」

「今までの被害者の年齢からすると、あながちありえないハナシじゃないわね。だけど、だからと言ってほかのエモノにも手を出さない道理はないわ」

「ほかにもちょうどいいのが見つからなかったら? 秩序型は殺す相手にはこだわるんだろ?」

「そうね。たいていのばあいは、その仮説で説明がつくところだけど……〈人形つかい〉の関しては、かならずしもあてはまるとは言えないでしょうね」

「あァ? なんでだ」

「〈人形つかい〉にとって、そもそも完全に好みと一致するエモノは存在しないの。生きた人形なんてしょせん夢物語。だからドリルで加工する。自分好みの人形になるように。例えばサンマが食べたくなったとして、多少値段が高かったり、脂のノリがイマイチでも、買うときは買っちゃうでしょ? ようはそういうコト」

「オイオイ、それじゃアほかにどんな理由があるってンだ? ヤツが犯行をストップしてる理由は」

「…………」

「もしくは、おまえさんのプロファイリングがまったく的外れなのかも――いや、今のは言い過ぎだな。スマン、忘れてくれ」

 平坂はあえて言わなかったが、可能性はもうひとつ存在する。

 確かに、サイコパスがおのれの犯行によって満足し、立ち止まるコトなどできはしない。

 けれども、その満足が自分自身によってではなく、外的要因によってもたらされたのならば、けっしてありえないコトではないだろう。〈噛みつき魔(トゥース・フェアリー)〉――フランシス・ダラハイドがそうなりかけたように。

 平坂は〈人形つかい〉にとって完全に好みと一致する者など存在しないと言ったが、それが実際には存在したならば。ヤツが造り上げるまでもなく、完璧な人形が目の前に現れたならば。そのときは、もはや出来損ないになど用がなくなり、犯行を続けなくてよくなる。

 この2週間、ひたすら願っていた。真犯人が現れて、おのれの抱く疑念のひとつを、綺麗サッパリ消し去ってくれるコトを。だが世のなかそう甘くない。むしろ疑念は、よりいっそう深まってしまった。

 ――やはり、大江こそが〈人形つかい〉ではないか?

 いや、そんなハズはない。彼は今の社会において変わり者には違いないが、善良な青年だ。美器用で、社会に順応できないだけの、かわいそうな若者だ。そして、彼女の大事な恋人だ。こんなにも醜い彼女を受け入れてくれた、やさしいひと。大切なひと。けっして欠けてはならないかたわれ。――ああ、こんなにも愛おしい。

 しかし、彼女がどれほど彼のコトを想ったところで、疑念が消えてくれるワケではない。真っ黒に焦げついて、どんなにこすっても落ちない。

 こうなったらもう、徹底的に調べ上げるしかないだろう。大江のコトをすべて残らず。そうして、彼が殺人鬼ではないという明確な証拠をつかまないかぎり、この疑念は晴れてくれない。

 適当に口実をでっち上げて、解析室が絞り込み中の容疑者リストを見せてもらったが、平坂の願いもむなしく、そこには大江も含まれていた。現住所も載っていたから、家探しすれば犯行時に使った道具などが見つかるハズだ。

 そこまでわかっていながら、平坂は決断できずにいた。

 もし、ホントに大江が〈人形つかい〉だったら? その事実におのれは耐えられるのか? 耐えられたとして、彼を逮捕できるのか? 探偵としての職務をまっとうできるのか?

 悩みに悩んだすえ、平坂はこの問題をいったん保留しておくコトにした。単なるその場しのぎではない。あくまで優先順位を入れ替えただけ。まずはもうひとつの疑念を晴らしておこうと思ったのだ。

 すなわち、なぜ饗庭が処方薬の種類を偽っていたかについて。

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