第3.66話
四つの通知はいずれも技能やスキルについてのことだった。
こういうのって、普通は頭の中に声が響くとかじゃない? レベルアップの通知がスマホにくるとか聞いたことがないんだが。
まぁ、どちらにしろ大差ないか。正直言ってどうでもいいし。
クラスメイトたちのガヤガヤとした雰囲気も次第に落ち着いていく。その頃を見計らっていたのか、騎士団長さんが次の指示を出した。
ところで、話が変わるが、学校のイベントで班に別れて行動した経験は誰しも一度はあると思う。そして、小学校高学年や中学生であれば、班、活動グループを先生が決めるのではなく、自分たちで決めたこともあるはずだ。
そんな時、大抵の人は、先生にグループを決められるよりも、自分たちで決めたいと思うだろう。しかし、一部の友達が少ない人は、いつも最後の方までグループに入れず、結局残った人同士で集まることになるのだ。稀に、気を遣ってもらって明るい性格の人たちのグループに入れさせてもらうこともあるが、結局、疎外感が半端ない。
まぁ、何が言いたいかというと、僕は最後まで残る側の人で、グループ作りにいい思い出はないということだ。
そして、今の状況なのだが……
「じゃあ次は四人ぐらいでパーティーを作ってみようか。今のところは仮のものでもいいから、とりあえずステータスだったり、スキルを参考にグループを作ってもらえる?」
あぁ、まぁね。うん、終わった。
友達がいない。
ステータスが低い。
スキルが大したことがない。
これでグループに入れてもらえるわけがない。
ただ、まぁ、何もせずに諦めるのは良くないし、少しは頭を使ってみようと思う。
まず、このクラスは男女共に15人ずつだ。先生も含むと、男子15人、女子16人。女子の4人グループはちょうど4チームできるけど、男子は15人だから、三人は余る。だから最後に残ったとしても、男子三人になるはずで、女子と組むことにはならない。
一般論として、男子は女子と一緒に行動したいのかもしれない。ただまぁ、自分が女子と一緒のグループになったところで、気まずいだけだから。普通に男子と同じグループの方がまだマシだろう。
ふと、クラスメイトの方を見ると、普通に男子が女子を誘っていた。
陽キャ様のコミュ力……よもやあんなに堂々と誘いに行けるとは。反面、僕はまだ席から動いてもいないというのに。
おまけに男子と組んでもそこそこ気まずいし。
というか、結局、誰と組んだところで、気まずいだけでは?
……あ〜色々考えたけど、結局詰んでるかも。
そっか、考える必要なんてないか。どうせ、誰だろうと変わらないし。
はぁ…………まぁどうでもいいか。
『思考放棄』という言葉が脳裏に浮かんだ。そして、なぜかスマホ(ステータスプレート)が振動している。
……もしも、スキル《思考放棄》なんてのがあったら絶望するからな。しかも、若干ありそうなのが怖い。言葉の響き的には《思考放棄》って言う能力もありそうじゃない?
結果はというと……
“新技能アンロックのお知らせ”
“ユニークスキル《数の使徒》のレベルの上昇に伴い、
新技能【掛け算】を入手しました”
“新技能アンロックのお知らせ”
“ ユニークスキル《数の使徒》のレベルの上昇に伴い、
新技能【割り算】を入手しました”
いらねぇ……
って思っちゃったのは僕だけだろうか。正確性とか速度とか何に役立つのかって話だよね。おまけにこのスマホもどき、電卓も標準装備なんだよな。もはや計算スキルとかなくてもなんとかなるって。逆にスキル使う意味ってある?
おまけにスキルの詳細に???ってあるのが……ね。いや、だってさ、詳細を知るための機能じゃん、???とか表示するんだったらいらなくない?
それにしても眠い。イラついてたら眠くなって来た。いや、赤ちゃんかよ、って自分でも思うけど、昨日の寝不足のせいで眠気が酷い。人の部屋で寝落ちした人がいたせいで。……えぇっと名前は何だったっけ。確か、向かいの席に座ってたような……
まぁ、向かいの席の人はどこかに行っていた。そりゃ、学級委員長に立候補する人だし、そのくらいのコミュ力はあるか。ひとりぼっちは僕だけかな。
はぁ…………眠い
学校じゃないし、寝てていいかなぁ。
そうして、頭がカクンってなった瞬間、肩に誰かの手が!?
後ろにいたのは噂をすればの寝落ちした人。
「はぁ、なんだ、この人か……」
びっくりした。
「ねぇ、なんだ、って何かな? あと、この人か、ってどういう意味かな? ん?」
なんだ、って言ったのはびっくりしただけです。この人か、って言ったのは、まぁ、当然のように名前を覚えてないからです。以上!
「まさか、また名前を忘れたとか言わないよね? ね?」
じぃっと覗き込まれる。心なしか怒っているように見えるが、……気のせいではないだろう。
というか……
「逆に覚えていると思います?」
無言で笑顔。心なしか肩に置かれた手に力がこもって来ているような気がするが、……これも気のせいではないだろう。
「あの、痛いんですけど」
「ん? 何のことかな?」
怒っていらっしゃる。
「ところで、何か用ですか?」
こういう時は話を逸らすのが一番だ。
「ん? あぁ、そうだった、忘れてた……」
ふぁあぁ…………眠い。また、欠伸がでた。
後ろの人は “人に質問しといて欠伸するとか舐めてるのかな? ん?” とでも言いたげな表情だが、それを追求されることはなかった。
「ねぇ、私たちのパーティーに加わってくれない?」
なるほど、それが本題ですか。
それなら答えは一つ。
「却下で」
「無理」
「いや、拒否します」
いや、だって、こっちが無理だから。女子と同じグループに入る気なんか無いし。気まずいだけだから。
「いや、拒否権なんかないから」
いやいやいやいや、なんで? 普通あるでしょ。別に残り物の陰キャ男子メンバーでいいんだけど。委員長さんと一緒とか目立ちそうで嫌だし。まぁ、この人が嫌だってわけじゃないけど。一応、ほぼ唯一僕に話しかけてくれる存在だし。
「なんでですか?」
あるでしょ拒否権。なんでないの?
「なんでって、君と私以外ほぼ全員グループ決まっちゃったから」
「えっ?」
「…………」
「…………」
またもや、陽キャ様のコミュ力を舐めてました。早すぎない? これが普通なの? ていうか、この人も残ってるの? 普通に意外というか、あるいは、僕に気を遣って……なんてことはないか。じゃあ、なんでって話なんだよな。
まぁ、それは一旦おいといて、ようは、もう残ってるのは僕とこの人と、あと一人ぐらいなのかな? だから、拒否権も選択権もないと。
ん〜、まぁ、別にいっか。元々、誰と組んでも気まずいだけだから、誰でもいっか、って感じだったし。
「じゃあ、別にいいですよ」
「ホント!? ありがとう!」
何やら嬉しそうな様子だった。僕としてもこの人と組むのは嫌ではない、むしろ、他の女子ではなくてよかったと思う。
それはそうとして……
「ところで、名前って何でしたっけ?」
ピシッ
空間が凍りつくような寒気——あるいは殺気、を感じた。
「ねぇ……」
…………
まだまだ前途多難なようです。(主に自分のせい)