第3.00話
今は大広間らしきところにいる。異世界に転移してきて、宿泊部屋に案内される時に一度通った場所だ。
ふぁああぁ
眠い。欠伸しか出てこない。
「ふふっ、一条くん、ずっと欠伸ばっかだね」
誰のせいでしょうね。まったく。
出席番号順で席についている。僕が一番前で、右隣が出席番号2番の人、そして、正面が出席番号16番の二上さんだ。
さっき二上さんが来たのは、僕を呼ぶためだったらしい。クラスメイト達に集合するよう言う時に、二上さんは女子に呼びかけるから、男子は僕が起こしに行け、ということだった。
そのせいで、仮眠も取れず、朝から男子たちを起こして回っていた。
眠い……
聞くところによると、近衛騎士っぽい人が先生に全員を集合させるように伝えて、先生が二上さんにクラスメイトを集めるように言って、二上さんが僕に男子たちを起こすように言って、二上さんは女子を起こしに行った、とのことだ。……先生が学級委員長に仕事を丸投げしている。……そして、その仕事の半分を僕に投げられた。
ところで、今は大広間に集合している。もっとも、ただ集まっているだけで、男子は男子で席を離れて集まって話をしていたり、女子は女子で、自分の席の近くの人と話している。……もちろん、僕は一人ぼっちだ。
眠い……
七度目ぐらいの欠伸が出そうになった時、騎士っぽい人たちがやってきた。
近衛騎士七人に囲まれてやってきたのは昨日の国王さまだった。確かアルヴィンさんだったっけ。顔なんて覚えてないけど、相変わらずのthe王様っていう服装だから、すぐに分かった。
「ウォホン」
国王さまの咳払いで、話していた男子たちは自分の席に戻り、女子たちも国王さまの方に注目した。
「さて、全員が集まったところで、少しこの世界について知ってもらおうと思っておる。詳しくは後ほど、近衛騎士団筆頭、ヴァイリオンから聞くように」
国王様が騎士の一人を手で指した。軽装の騎士だった。腰に差した一本の剣以外に武装が見当たらない。そして、イケメン。
「はじめまして。僕の名前はヴァイリオン・フュルスト・ヴァン・ストリングス、この国の近衛騎士団長ってのを務めてる。君たちの指導役をさせてもらう。よろしく」
名前にヴァンって入ってるし、貴族なんだろうな。……そして、心なしか女子たちの目が釘付けになっているような気がする。
「ウヲォホン」
少しさっきより大きめの咳払いで、再び国王さまの方に注目が移る。
「ヴァイリオンに指導をさせる前に、余の方からも、いくつか重要なことだけ伝えておこう。まずは、そなたらの今後についてである。そなたらには勇者として、魔王軍と戦っていただきたい」
なんというテンプレ展開。クラスメイトたちがざわつき出した。まあ、当然の反応か。僕は驚きよりも、眠気が勝っちゃってるけど。
「昨年、魔人族の軍隊が平和協定を無視して、西の都、エレボスティリスに攻め込んできたのだ。真夜中の急襲だったため、エレボスティリスは陥落。魔王軍はそこを拠点として、侵攻を進めておる。今のところは大都市への被害は、西の都以外はないが、小規模な集落や村には多くの被害が出ておる。これ以上の被害を出さないよう、現在は守りに専念しているが……このタイミングで勇者様方が召喚されたとなると、攻めの好機である。是非とも、勇者様方に、魔王軍と戦っていただきたい」
ん〜っと、言い方的には、勇者の召喚はこの人たちがやったんじゃないのか。……となると、日本に戻るのは期待できないな。っていうか、今、守りに専念してるんだったら、わざわざ、攻める必要ってある? 返り討ちにされるのがオチでは?
「もちろん、報酬はたっぷりと用意しておる。それこそ、一生遊んで暮らせるほどの金額をな」
ざわめきが大きくなった。……っていうか、一生遊んで暮らせるだけのお金があるなら、軍事費に充てるなりしたらいいのに。
まぁ、どうでもいいんだけど。……とにかく眠い。
「次に、そなたらのステータスやスキルについてである」
…………それは興味がある。チート能力とかあったらいいな。
「後ほど、ステータスプレートを配ろう。それを見て前衛か後衛か、近接戦闘タイプか、魔法戦闘タイプかなどを決めてもらう。一ヶ月ほど訓練し、その上で実戦にも参加していただく」
実戦か、嫌だなぁ。
どちらにせよ、異世界物の定番だし、魔王を倒さなきゃ帰れないとか、そもそも帰る方法はないとかだろうしなぁ。
「何か質問のある者はおるか? この場で答えられる範囲であれば答えよう」
国王様が言い終えるとすぐに後ろの誰かが勢いよく手を挙げた。
「はいは〜い、俺らって強いんすかぁ」
「おいおい、相手は国王様だぜ、ちょっとは礼儀正しくしろよな」
「ぎゃははは、それもそうだなぁ」
「その王様が俺らには敬語なんだぜ、俺らって、もしかしなくても最強なんじゃね」
「異世界、楽勝じゃん」
四人ぐらいの男子がふざけている。相手は王様なんだし、流石にやばくないか、と思ったのだが……
「質問がないのなら、以上とする」
王様は綺麗にスルーした。普通に即処刑でもおかしくないような気がするのだが、王様は華麗にスルーした。
「あ、あの、すいません。やっぱり元の世界には帰れないのですか?」
今度はまともな質問だった。それにしても、やっぱり帰れないのか、という質問の仕方から見て大体この後の展開を予想しているような感じだな。
異世界転移もののお約束みたいなもので……
「誠に申し訳ないが、我々には不可能である。残念ながら、転移魔法はあるものの、世界を渡ることなどはできぬ」
やっぱりそうなるでしょうね。お約束は守られる。定番中の定番の流れですね。
ただまぁ、クラスメイトの反応はというと……
やっぱりそうなんだぁ とか
でしょうね。 とか
反応薄っ。いやまあ、僕も人のことを言えた身じゃないけど。
「他に質問がないのなら、我からは以上とする。あとはヴァイリオンに訊くように」
そう言って国王様は、七人中六人の騎士と共に去っていった。残ったヴァイリオンという騎士が前に出る。
「よしっ、じゃあ色々と質問もあると思うけど、まずは現物を見てもらった方が早いかな」
そう言って指を鳴らすと、直径10センチほどの火の玉が浮かぶ。
一応、クラスメイト達は、おおぉぉというような声が上がったが、やはり反応はめちゃくちゃ薄かった。
もっとも、一番前の席なのに、全くと言っていいほど反応していない僕が言えたことではないが。
「これが魔法。もっと大きな火を生み出すこともできるし、こんなこともできる」
もう一度指を鳴らすと、さっきの火の玉が鳥の形になった。
さっきと比べると反応は大きかった。
「まぁ、こんな感じかな。みんなにもこんなことができるようになるかもしれないよ。次に、ステータスについてだね。これも実物を見てもらおうか。今からステータスプレートを配ってもらうから各自確認してみてね」
そうして、メイドさんからステータスプレートなるものを受け取った。
男子の中にはメイドの存在に目が離せない人もいたが、それよりも気になるのはこのステータスプレートについてだ。
このステータスプレート、縦の長さが6、7センチほど、横の長さは13センチぐらいの長方形。
角は丸くなっていて、厚みは5ミリぐらい。
そして、ひとつだけ丸いボタンがある。
…………どこからどう見ても、スマホだった。
次回は明日午後7時に投稿させていただきます。