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『剣と魔法』の世界で『数と魔術』を極めてみました  作者: 都鷲斗 翔
第0章 少し長めのプロローグ 〜魔王討伐戦〜
4/10

第2.66話

 異世界一日目は、全く眠れなかった。


 はぁあ


 深いため息ではなく、大きなあくびが出る。


 まったく、よく他人の部屋でぐっすり寝付けますね。

 まだ、二上さんはぐっすり寝てるし……


 今は、午前五時ごろ、少し早いとはいえ、そろそろ起きてもらいたい。


 カーテンの隙間から、朝日が差し込んでいる。

 こうなったら、カーテンを全開にしますか。


 朝日が眩しい。

 月は月で神秘的と言うか何と言うか、すごく綺麗だったけど、朝日は朝日で、またなんとも言えない美しさがあった。


 大きく背伸びをして、その後、身支度をする。


 とりあえずは、二上さんは放っておこう。

 そのうち起きてくるだろうし。


 洗面所で顔を洗って、制服に着替える。

 寝癖を整えようかと思ったが、ほとんど寝てすらいなかったので、髪もそこまで跳ねてなかった。

 一旦、部屋の外も見てみたが、すでに何人ものクラスメイトが起きているようで、通路で談笑してた。


 そして、問題の二上さんだが、全く起きそうな素振りはなかった。


 この眩しいなかで、よく眠れるな。


 直接触れて起こすのは、後で何か言われそうなので、枕を引き抜いてみる。


 起きない。


 引き抜いた枕を、布団の上から落としてみる。


 それでも、起きない。


「二上さん、もう朝なんですけど、起きてもらえないでしょうか?」

 耳元で話しかけてみるが、やっぱり起きない。


「二上さん」

「…………」

「お〜い」

「…………」

「あの〜」

「…………」

「もう朝なんですけど」

「…………」

「聞いてますか? 起きてください」

「…………ん、お母さん、まだ寝させてよぉ」

「……寝ぼけてます?」

「…………」

「お〜い」

「…………」


 ダメだった。なかなか起きそうにない。


 こうなったら……水でもかけてみますか。


 そんなことを考えていると、寝返りを打った二上さんと目があった。

 普段の学校での様子からしたら、考えられないような、ぼんやりした表情。

 それが急に目が見開いていき、なぜか顔が真っ赤になった。

「い、一条くん、ち、違うの、あれは、その……と、とにかく、違うから……」


 何をしているんだろう。


「あの、何を寝ぼけてるんですか? ていうか、さっさと、起きてもらえません?」

「へ? 寝ぼけてる? あ、さっきのは夢?」

「はいはい、そうですから。いい加減、どいてもらえます?」

「えっ? どくって、何で?」

「何でって、ここ僕の部屋なんですけど。昨日、他人の部屋で寝落ちしたのはどこの誰でしたっけ」

「あっ」


 ようやく、思い出したようだった。

 はぁ、まったく、手間のかかる人である。


 すると、急に二上さんが僕から距離を取るようにした。

 そして、なんだか、ものすごく疑いの目で僕を見ている。


「どうかしましたか?」

「……君さ、私に何か変な事してないよね」

「してませんけど」

「……ならいいけど」


 まだ、僕の方を疑いの目で見ている。


「ほんとに、何にもしてないよね?」

「してませんから」


 まだジトっとした目で見られてる。


「……あっそ」


 はぁ……そんなに疑うのなら、最初から他人の部屋に来ないでほしいですね。


「まぁ、いい加減、自分の部屋に戻ってくださいね」

「……はぁい。そういや、今って何時ぐらいなの。まだ眠いんだけど」


 そうですか。あんなにぐっすり寝ててよく言いますね。


「……今は五時ぐらいじゃないですか」

「五時? 早くない? もうちょっと寝させてくれてもよかったじゃん」

「そんなことないですよ。もう、クラスメイトも何人か起きてるみたいですし、さっき廊下で談笑してましたよ。二上さんも、早く自分の部屋に戻って、制服に着替えたらどうですか?」

「あっ」


 二上さんが何かに気付いたような表情になった。


「どうかしましたか?」

「私、制服、自分の部屋に置いてるんだけど」

「それがどうかしました?」

「自分の部屋に取りに行かないといけないじゃん」

「そりゃそうでしょ」

「廊下にでたら、クラスの男子たちに、寝巻き姿を見られちゃうじゃん」

「別にそれぐらいは良くないですか」

「良くないから!」


 思いの外、強く言われた。ていうか、男子に寝巻き姿を見られたくないとか言ってるけど、僕も一応、クラスの男子なんですけど。


「じゃあ、どうするんですか?」

「あ、じゃあ、君が取りに行ってよ」

「お断りします」

「まさかの即答!? なんで? 女子の部屋に合法的に入れるんだよ。いいじゃん」

「良くないですから」


 マジで無理ですから。無理難題を押し付けないでもらえます?


「じゃあ、こうしよう。もし、君が私の制服を取りに行ってくれないなら……」

 二上さんがニヤリとする。嫌な予感しかしない。

「……君が私を襲ったって言いふらすよ」

「マジでやめてください」


 本当に洒落にならないので。

 クラスの中で、陰キャの僕が、人気者の二上さんを襲ったなんていう噂が広まれば、身の破滅以外何もないので。


「じゃあ、取ってきてくれない? お願い」

「…………承知しました」


 はぁ、朝から疲れる。

 正確には、深夜からか。


 仕方がないので、部屋から出ると、廊下の男子から声をかけられた。


「お、一条じゃん。ヤッホー」

「あ、はい」

「つれねぇなあ。もっと愛想良くしようぜ」


 訂正する。声をかけられたというより、絡まれた。


 ふと思ったんだけど、このまま、二上さんの部屋に入るのは無理じゃないか?

 二上さんは、制服を取ってこないと、襲われたって言いふらすぞ、って脅してきたけど、女子の部屋に入るだけでも、十分やばくない?

 っていうか、制服ってスカートもでしょ。女子の部屋からスカートを持ち出すとか、他の男子に見られれば、即アウトでしょ。


 詰んでる。


 二上さんに言いくるめられたものの、詰んでる。


 僕にどうしろと。


 まず、女子の部屋に入るには、口実がいるな。

 で、理由として、一番いいのは、まぁ、先生から伝言がある、とかかな。

 二上さんは一応、元学級委員長だし、伝言があるって言ったら、信じてもらえるか。


 誰もいないのは分かっているが、一応、ノックしてから、二上さんの部屋に入る。


「一条、お前、二上になんか用事あんのか?」

「今日の早朝に先生とばったりあって、委員長さんに伝言を頼まれたので」

「あぁ、そうか。ならいいや」


 案の定、怪しまれた。まぁ、適当に言っとけば、勝手に信じ込むタイプの人間だったけど。

 これが、クラスの女子だったら、絶対もっと根掘り葉掘り訊かれるだろうけど。


 はぁ、疲れる。


 何がかというと、女子の制服、スカート含む、を他の男子にバレないよう隠し持って行かないといけない、ということがだ。


 ほんとに、なんの罰ゲームだろ、これは。


 めちゃくちゃに神経をすり減らした。自分の部屋に戻った時の安心感、バレたらどうなるかと思った。


「これでいいですよね。ちゃんと持ってきましたよ」

「ありがとー」


 二上さんは、ベッドの上で、足をバタバタさせている。

 キャラ崩壊してません?


「じゃ、着替えるからあっち行ってて」

「はい、はい」


 素直にリビング? 寝室? から出る。

 ん? よく考えたらおかしくないか?

 ここって、僕の部屋なんですけど。普通逆じゃない?

 着替えるから見ないで、は分かるけど、普通、自分が洗面所に行くなりするよね。

 よく我が物顔で言えましたね。


 そんなことを考えてると、二上さんが出てきた。

 やっぱり、見慣れた制服姿がよく似合ってる。

「じゃあ、とりあえず、一条くんも、他のクラスのみんなも、一旦集合しよっか」


 そう言って、二上さんは部屋から出ようとしているが、慌てて引き止める。

「ちょっと待ってください。廊下に男子たちが居るんですよ。二上さんが、この部屋からでたらどう思われると思います?」

「じゃあ、どうしろって言うのよ」

「とりあえず、廊下の男子たちがいなくなるまで待ちましょうよ」

 この後、結局は、廊下の男子がトイレに行くまで、三、四十分もの間、待つことになった。


 そもそも、廊下の男子がいなくなるタイミングで、二上さんが制服を取りに行けばよかったのでは?

 僕に取りに行かせる意味ってありました?



 とにかく疲れた……



 〜〜〜〜〜



 そろそろ、午前六時ごろ。

 かなり疲れているが、ひとまず問題は無くなった。


 多分、七時ごろには大体の人が起きてくると思うから、それまでは仮眠でも……とか思ったけど…………さっきまで二上さんがベッドで寝てたんだよな……


 無理だな。


 ……いや、でも、流石に少しは横になりたいし……



 結論:一切合切気にせず、倒れ込みました。



 枕から二上さんの匂いがする。まあ、正確にはシャワールームに置いてあったシャンプーの香りなのだが。


 今の感じを見られたらやばいな。特に二上さん本人に見られたら終わる。


 とか思ってたらね……うん。フラグだったね。


 もはやノックすらせずに、唐突に来たよ、二上さんが。


 そして、枕投げ二回戦が開幕した。

 詳しい会話は忘れたけど。まぁ、顔を真っ赤にした二上さんが枕を抜き取って、投げて、それを投げ返して、がまた始まった。



 結局、疲れて終わった。休む暇も無かった。


 異世界初日の朝、こんなのでいいのか……?

次回は明日午後7時に投稿させていただきます。

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