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エピローグ

ここからは、エピローグとなります。



「……ああああああああああああっ!!!!!」


 暗い部屋の中で、ソファに座っていた小学生くらいの少年は、歯をギシギシと鳴らして、大きな叫び声を上げる。少年は怒りに任せて持っていたコントローラーと、頭に被っていたVRの器具を画面に向かって投げ捨てた。

 鈍い音と共に、大きなテレビの液晶画面が割れてしまう。その画面には、『YOU LOSE』と仰々しいフォントで表示されていた。


「くっそぉぉぉぉぉ!!! チートだチート!! お前、チート使っただろ!!」


 少年は唾をまき散らし、起動していたパソコンに向かって顔を近づける。

 パソコンには、サウンドオンリーの表示がなされたボイスチャットのアプリ画面が映し出されている。


「いや~? いい勝負だったと思うよボクちんは」


 対戦相手は、確かに“チートじみた”不正を行っていた。サウンドオンリーであるはずの相手のパソコンにハッキングし、内臓のカメラを強制的に起動させ、一方的に悔しがる顔を観察している。

 画面に映る少年の顔は、丸々と太った肉まんのようだった。こぎれいな服を着て、蝶ネクタイを締めている様子を見た対戦相手は、こらえ切れずにくつくつと笑いだす。


「いいや!! 僕の使った奴は、レベルもスキルもお前の使った奴よりも強かったもん!!」


 太った少年はパソコンを揺らし始めた。少年のチャット相手は、無駄なノイズが耳に入ってきたことに苛立ち、小さく舌打ちをする。


「いやいや、お前さ。このゲームのことわかってる? このゲームはなぁ、キャラの“素材”がすべてなんだよ。確かにレベルは、お前のキャラが上だったよ? でもさ、ボクちんの使ってたキャラは☆5。お前は☆2。つまりムリゲーってこと。わかる?」


 煽るような物言いに、太った少年は「きいいい!!」と金切り声を上げ、対戦相手に罵詈雑言を浴びせ始めた。対戦相手は、何を言っても聞かないので一方的に通信を切る。


「はいはい“出資者様のお坊ちゃん”はしつけがなっていることで~。お、課金してくれた。毎度あり~」


 少年の対戦相手は、着古して茶ばんだ白衣を着た若い男だった。不潔なぼさぼさの髪は目を隠すほどの長さで、淀んだ垂れ目が見つめる画面には、先ほど少年とやった勝負のリザルトが表示されている。白衣の男は、手元にあった紙の資料と画面結果を見比べる。


「ん~。『水橋怜央』、21歳。KCH適合値グレード5で、概念は水流操作と……」


 白衣の男が見ていたのは、顔写真付きの怜央のプロフィールだった。


「好きなものはパチンコと競馬……趣味を持つことは大切、だってぇ!? グフッ! あははははははははははははっ!!!」


 白衣の男は目に涙を浮かべるほどあたりを転げまわった。なんとか体を起こして笑いを収めるまでに30秒以上かかった。


「バッカじゃねえのぉぉぉ!!! 趣味!? 家畜の分際で!?」


 白衣の男はチャットの画面を切ると、誰かに電話をかける。


『……あれぇ、どったのドクター』


 電話に出たのは、怜央と話していた少女のアバターだった。


「ああ、モリちゃん? なあなあ水橋怜央って名前、お前が付けたの?」

『うん。そーだよ? いい名前でしょ?』

「あの設定は!? あれも作ったの?」


『違う違う! あれは怜央ピーが勝手に作ってくれたの。モリちゃんね、すっごく心が広いから、人格形成のプログラムに自動で“個性”が出るようにプログラミングしておいたの! すっげえ優しいでしょ? キャハハッ!』


「ああ……粋なことするなぁ。モリちゃん」


 ドクターと呼ばれた白衣の男は、息を甘く吐き出すと、立ち上がり、部屋の電気をつけた。

 部屋はとても広く、壁全面にモニターが備え付けられており、パソコンがモニターの前に所狭しと置かれている。


『いやいや~モリちゃんはドクターのお手伝いをしただけだよ? ドクターが考えたこのゲーム、本当にすごい! ドクターは天才だと思う!』

「ありがとう。リリースしてから、売上がすごくてねぇ。

自分を神だとでも思っているお貴族連中に、すごい売れ行きなんだ。何せ、“最高にリアルなゲーム”だからね。体力ゲージなんて存在しない生身のアバター。コントローラーと視覚共有VRを使った、生きるか死ぬかの臨場感。キャラごとの能力や特性は世界に1つしかない!

お貴族連中は豚どもに課金して、いっぱい育てて、薬物打って、武器持たせて……それでもさっきのヘタクソなプレイヤーは、ボクちんみたいにうまい奴には勝てないのさ!」

『そりゃあ、ゲームマスターなんだから勝てなくて当然じゃない? ドクターずるーい』


 ドクターは、部屋全面に備え付けられたモニターのスイッチを入れる。そこに映し出されたのは、監視カメラ映像だった。モニター1つに、1人の人間がピックアップされており、その数は数え切れるものではない。

 ドクターはカタカタとパソコンにデータを打ち込むと、目の前のモニターが怜央の映像に変わる。


「ゲームマスターはなぁ、大変なんだよ。だからゲームが終わった後の処理がもう、面倒面倒! その点、“Arena system”はすごいよね。リアル箱庭を作っちゃえば、処理が圧倒的にらくだからさぁ」

『リモコンなら、怜央ピーが回収したけど、なんで落っことしちゃったの?』

「豚どもの、ささやかな抵抗なのさ。ボクらも、一枚岩じゃないってこと。

そのリモコン、木っ端みじんにぶっ壊しといてくれる? 証拠、とかなんとかになったらめんどくさいからねぇ」


 ドクターは素早いタイピングで、怜央の情報欄に指示を打ち込んでいく。


「これでよしと、後は豚どもが勝手にやってくれるからボクちんの仕事は終わり」


 ドクターは大きなあくびをして、パソコンの画面をまたゲームの画面に戻す。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


『Real Fighters』

商品説明

 ダークウェブにて絶賛発売中! 購入者にハードとコントローラー、そしてVRのゴーグルをお送りします。起動したら、最初は☆2のキャラからスタートするよ。課金して育てたあなただけのキャラを使って、Real Fightと呼ばれる1対1の戦いを行ってね! まるで自分がキャラ自身かのような臨場感を味わえます。1撃の攻撃すらも命取りだ! ☆は2から5まであるよ! キャラガチャで、高性能のキャラを手に入れよう! 


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「よく作ってあるよなぁ、我ながら。ほんと、豚どもには感謝してるよぉ……」


 そう言って、ドクターは再びVRのゴーグルをかける。

 ゲームマスターの権利を持っているドクターのアカウントは、課金などせずにすべての操作キャラを使うことができる。ドクターは『水橋怜央』というキャラクターをお気に入り設定にし、ゲームを開始する。

 ――――――脳内に視覚情報が流れ込んでくる。クリアな視界だった。どうやら怜央は、部屋にいるようである。

 コントローラーでメニューを開いて、敵の位置を確認する。


「さあさあ、怜央君。殺戮の、お時間ですよぉ!」








☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ここからは、おまけ。


レ■■■■■の調査報告書

『Real fighters』の実態


■■■■■暗部が大量に生み出した人ならざる人、ここでは仮称“超能力者”とする。その製造過程については、本レポートでは割愛する。

■■■■■暗部は、超能力者の管理を名目に、自ら生み出した超能力者たちに以下の施しを行っている。

①洗脳教育。これは大変シンプルで、合理的。彼らの人権をはく奪し、自らが家畜であるということを刷り込ませることで従わせている。

②思考の管理などを行った上で、一般社会に溶け込ませている。これは、行動パターンや能力発現時の心理的思考などの研究データを取ることが目的で行われている。

③食■■■■■■■。これは非常に■■■■で、―――――――――――。

④■■■■■■■■■■■■■■■■―――――――――――。


 『Real fighters』は、主に上記①と②の超能力者を対象に、脳に様々な施術を受けた超能力者たちが参加させられている。彼らの特徴は、後頚部に特殊な電波を受け取るための小さな受信具が付いていることである。これにより、プレイヤーがアバターを操作するためにゲームを起動させると、アバターとして覚醒。彼らの意志とは別に体を操作させられてしまう。その際の記憶、行動はすべて自然と行われるように細工されており、超能力者たちが操られていると気づくことはない。彼らの生死は■■■■■暗部にとって、何の価値もないものであるため、大量の失敗作たちが生み出されては彼らの金儲けの道具になっている。

 この常軌を逸したゲームを企画を制作したのは、コードネーム“ドクター”と呼ばれる男で、彼は元、■■■■■の研究者であったことが判明している。彼が開発した、■■■■システムにより、ゲームのハードとコントローラー、アバターの管理を一元化することに成功している。ドクターにより、☆4以上に設定されている超能力者たちは『モリちゃん』と呼ばれる自立型AIに管理・監督されており、モチベーションを含めた洗脳効果をより強固なものにしている。モリちゃんの中身たる人間が存在しているらしく、同時に調査を進めることとする。

『Real fighters』内の超能力者たちは、Arenaと呼ばれる仮想現実空間に住んでおり……

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

続きは破れていて読めない……


☆ ☆ ☆ ☆ ☆




こんなゲームあったら、怖すぎますよね。

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