悪役姫は、ヒロインと対峙する。
「……んん!」
動揺を扇の下に隠して、ミリアリアは内心取り乱していた。
そして王冠を頭に頂いた、黒いドレス姿のライラは、どこかハイライトが薄い悪魔的な笑みをミリアリアに向けている。
「ああ……お姉様お会いしたかったです」
「え? ええ、久しぶりですわね」
おっといけないいけない、姉の威厳が台無しですわ。
動揺を抑えミリアリアは涼しい顔で久しぶりに自分の妹と再会した。
だが喜んでもいられない。
光に満ち溢れているはずのヒロインが、すさまじく闇っぽい。
始まる前から、チェックメイトされているような危機感があった。
「……ライラ? これは一体どういうことなのかしら?」
ラスボスとヒロインの融合なんて冗談ではない。
気を引き締めミリアリアはヒロインと対峙する。
玉座に座るライラは顔を上げると、妙に熱っぽい視線でミリアリアを見つめて言った。
「……ようやく、ようやくいらしてくださったんですね! お姉様! ライラは……ライラはこの日を待ち焦がれていました!」
「……ん?」
なんだかちょっと思っていた歓迎の仕方と違う。
我がディープラバーズの脳内会議もざわつくほどの異常事態である。
確か魔王に乗っ取られたミリアリアは……もっと男性っぽいしゃべり方で冷酷さが隠しきれない感じだったはず。
ところがライラは頬を紅潮させて、冷酷どころか妙に熱っぽい吐息を漏らし語っていた。
「憧れのお姉様が私に自分から会いに来てくれるなんて、今日は人生最良の日だわ! どうしましょう! ライラは困ってしまいます! ああ、同じ部屋にお姉様がいるだけで体温が倍くらいに跳ね上がってしまいそうです!」
「んん? 貴女は……ライラなのですよね?」
「はい! そうですお姉様!」
どういうことだろう? 今まで数えるほどしか会ったことがないのに、視線が熱い気がする?
ミリアリアはライラから一歩引いて、尋ねた。
「で、ではっ学園ではなくなぜここにいるんです? ダメでしょう?」
「それは偏にミリアリアお姉様と共にあるためです! 貴女の隣に並ぶ力を得るために! ライラは頑張りました! ええ! そうです! そのためならばこの国すら惜しくはありません!」
「……!」
なんか思ってたのと別の方向でライラが完成している!
ミリアリアは全身の毛穴から冷や汗が噴き出すのを感じていた。
一体何がどうしてこうなった!
動揺したミリアリアだったがすぐに、事態を察してハッと息を飲んだ。
そうだ今ライラはまともではない、それはこの闇の気配が証明していた。
「確か、魔王の精神支配は……感情の負の側面を利用したもののはず……これが負の側面?」
おのれ魔王。やってくれる。
何がどうなったら乙女ゲーのヒロインがシスコンに変貌すると言うのか。
100歩譲って、猛烈に憎まれて、姉妹で骨肉の覇権争いに突入とかならまだ定番どころで納得もできようというものだが、これはあまりにも想定外だ。
そもそもミリアリアは城にいる間は、ライラと面識を持たないように心掛けていたくらいなのだ。
こんな重めの感情を向けられる心当たりはミリアリアには皆無である。
「わかりましたわ! これは魔王の趣味ですわね! 姉妹の禁断の愛とかがテーマと見ましたわ! きっと行方不明の姉を想う妹心を魔改造してこんなダークサイドに落としたに違いありませんわ!」
「断じて違う! 妙な勘違いをするんじゃない!」
「そう! 魔王はそう言う感じですわ!」
ツッコンでからミリアリアはハッとした。
「え? なんです今の?」
叫びと同時にライラの体を黒い靄が一気に包む。
目つきが吊り上がったライラは、別人なのだろうとミリアリアは理解した。
「チッ……お前の顔を見た瞬間に意識を取り戻しおった……やはり相性の問題か、忌々しい」
「引っ込みなさい! 私のお姉様との時間を邪魔するんじゃない!」
「お、おう……」
せめぎあっている。
ミリアリアは完全に支配されたのに。
若干の嫉妬を覚えたミリアリアだったが、それどころじゃなかった。
「ああ、お姉様……ミリアリアお姉様はご存じないかもしれませんが、ライラはずっと前から……貴女に憧れていたのです」
魔王を圧倒したライラは、湿度の高い視線でなんか語り始めた。