悪役姫は案内される。
「仕方がないですわね。そんなに怖がるのなら、好きなだけわたくしを拘束なさい」
ミリアリアは確かにそう言い。結果として城に入ることが出来た。
懐かしい城の中をアーサーとシリウスの案内で進む。
警戒しているためか歩みが遅いのは好都合だった。
しかし時間はあればあるだけ良い。
せっかくなのでミリアリアは雑談でもすることにした。
「……それにしても、ビビりすぎではありません?」
ミリアリアはでっかい鎖でグルグル巻にされて、手かせと足かせをはめられていた。
どこから引っ張りだしてきたのか、どちらもばっちり金属製で足かせ付きだと、さすがにちょっと歩きにくい。
「そんなことはない」
「当然だ」
ちなみに騎士達もがっちり周囲を武器を片手に囲んでいるのだから、とんだエスコートもあったものだった。
「一体これからどこに向かうつもりなのかしら?」
ミリアリアがため息を吐いて尋ねるとシリウスは答えた。
「ライラのいる部屋ですよ」
「そう言えばライラは今学生ですわよね? どうなんです? 学生生活は順調ですか?」
「いえ……」
シリウスは言葉を濁す。
まぁそう言われても姉には言いたくないかもしれない。
「考えてみれば……あなた方も学生のはずですわよね。こんなに堂々と城を歩いていていいんですの? 都合がいいから流していましたけど、おかしいですわよね?」
そう言えば現時点でまだ、主要人物達は学生である。
ところが特に役職らしきものもないはずの彼らを止める者は誰一人としていなかった。
「それはライラに会えばわかることだ」
「邪魔しておいてよく言いますわね」
「当然だろう。今もライラの前にお前を連れて行くのは反対だ。それだけ脅威なんだよお前は」
「まぁ当然ですわね。これでも王族の端くれですし」
「戦闘能力が一番ヤバいけどな?」
「ジャレただけではないですか。何なら今度は本気で相手をして差し上げますわ」
「本気じゃなかったんだ……」
「ふん。ライラがそう望むのならこの命に代えてもどうにかしたさ」
「それって死んじゃいません?」
「それでお前を抑えられるならやるよ」
「……」
話の端々で覚悟決まりすぎなんですけど?
愛の力恐るべしなのでは?
ミリアリアはワクワクしていたが、同時に闇の気配も鼻につく。
こいつはどうも判断に迷うが、思っていたよりもずっとライラのフラグを立てるスピードは速いようだ。
慄いている間に、二人は立ち止まる。
顔を上げたミリアリアは、一筋汗をかいて扉を凝視した。
「謁見の間とは……あの娘才能ありすぎですわ」
我が妹ながら恐ろしい。
どういう状況なのか定かではないだが、進まなければ始まらない。
ミリアリアは謁見の間に通じる扉を開ける。
忘れもしない謁見の間は、本来であればまばゆい光に包まれる神聖な場所のはずだった。
「マジヤバですわ……進行が早すぎるんじゃいですの?」
だが、扉を開けた瞬間にあふれるのは、濃い闇の気配だった。