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悪役姫は悪役力を発揮する。

 最初はちょっと侍女の間で鬼畜だと噂が出たが、ミリアリアが白粉の出回っている販売ルートを調べるように命じ、鉛がやばいと証明されるとちょっと見直されることになる。




 そして七日後。


 跪くマクシミリアンは、ミリアリアを前にしてとんでもない量の脂汗をかいていた。


 そんなマクシミリアンと向かい合ってミリアリアは扇をパチンと鳴らすと彼はビクリと震える。


「その書類―――目を通していただけたかしら」


「は、はい」


「貴方の卸していた白粉に含まれる鉛に強い毒性が確認されました……。かなり長いこと町では使っている者もいたようね? 肌が白く見えますし、その点だけはいい商品だということはわかりますが……城に毒物を持ち込むというのはいかがなものかしら?」


「そ、それは!」


 顔を上げ、焦って声を荒げるマクシミリアンにミリアリアは扇を突き付けて黙らせた。


「もちろん―――知らなかったことなのでしょう? 仕方のないことだと思いますわ」


「は、はい……」


「貴方は優秀な商人だとわたくしは知っています。幸いわたくしのような小娘の助言を真摯に受け止めてくれたことで、問題の商品が出回ったのは最低限で済んでいます。一度の失敗で貴方のような優秀な方との縁を手放すのは惜しいとわたくしはそう考えていますのよ?」


「……ありがとうございます」


 震えるマクシミリアンに、ミリアリアは立ち上がって歩み寄る。


 ゆっくりとした動作に、妙に雰囲気のある微笑はとても幼女のものとは思えないほど完ぺきだった。


「何を怯えているのかしらマクシミリアン? 安心していいんですわよ? もし問題になったとしても、わたくしは第一王女ですもの。それにこの件に関しては当事者ですしね? もしあなたが不利になるようなことがあればわたくしが擁護してさしあげますわ」


「……」


「そのかわり―――わたくしのお願いを聞いてくれませんこと?」


 肩に鉄扇を乗せミリアリアがそう口にすると、マクシミリアンの表情には激しい葛藤が見て取れた。


 そして数秒、マクシミリアンは黙り込み、絞り出すような声で言った。


「……よろしくお願いいたします。それで……私はどのような願いを聞き届ければよろしいのですか?」


 ふふん。こやつ屈しおったぞ?


 ミリアリアは悪役的な勝利を確信した。


 我ながら末恐ろしい悪役ムーブ。


 思惑通りのミリアリアは最高のデビル笑顔を浮かべて、元の場所に座り直すと用紙を複数枚取り出してマクシミリアンにさし出した。


「こ、これは?」


「なに、大したことではございませんわ! 貴方にはわたくしの無茶ぶりにちょっと答えてほしいんですの! まずはこれを作ってくださらないかしら?」


 用紙にはびっしりと図面と説明が書きこまれていて、マクシミリアンは特大の? マークを頭の上に浮かべていた。


「え、っと……これはどういったものなのでしょう?」


「キャリーバッグですわ! ちなみに絵はわたくしが書きました!」


「そ、それは……お上手ですね」


「でしょう!?」


 我ながらよく書けているとミリアリアも鼻の穴を膨らませた。


 そこには四角いカバンと、それを固定して持ち運べる車輪付きの荷台が描かれていた。


 成長期なだけに、伸縮出来て大人でも対応できるように考えた渾身の一作である。


 発掘したマジカルバッグは便利だが、肩から下げるタイプなのがいただけない。


 ならばいっそ機能を丸っと移植しつつ、長く使えるものにしようという目論見だ。


 手に入ればすぐにでもトラベルできそうな素敵なバッグは多少荒っぽく使っても壊れない丈夫なものを予定している。


「わたくし、マジカルバッグを持っているのですが、改造して図面の商品を作ってくださいな。正直職人に頼もうにもここまで特殊な品の事はよくわからなくて困っていたのです。そう言うことって出来るものですか?」


「は、はい。ものがあるのであれば……出来ると思います」


「それは素晴らしいですわ! じゃあお願いね?」


「は、はい。……えっとこれだけでしょうか?」


 怯えるマクシミリアンに今度はミリアリアが首を傾げた。


「ええ。今回はこれだけですよ? ……ああでも! これからも無茶ぶりはしますので覚悟しておくことですわね!」


 存在しないものを作り出すなんて無茶なお願いは、そう簡単にできることではない。


 コネのある協力者は沢山ほしい。


 今後もこっちがちょっと強めの協力関係を築いていきたいものである。


「わかりました……このマクシミリアン。誠心誠意お嬢様のご要望にお応えしたいと思います」


「よくってよ! これからもよい取引を期待していますわ! オーッホッホッホッホ!」


 わたくしってなんて悪徳王女! なんて思いながらのミリアリアの高笑いは城中に響き渡った。


 取引が終われば青い顔をして出ていく商人である。


 ミリアリア様はあのお歳で、すでに商人と黒いつながりがあるなんて噂話がささやかれ、せっかく上がった評判はちょっと落ちた。


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[良い点] ミリアリア様が微笑ましい。
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