悪役姫は再度旅立つ。
ミリアリア一行は旅支度を整えていた。
無駄に大変だった気がしたが、冒険者としては一級品の偉業を達成したのだから、冒険者ミリアリアの輝かしい旅の一ページとしては申し分なかっただろう。
ミリアリアは出発前にダークに尋ねた。
「里帰りは十分ですわよね?」
「……まぁな。ちょっと長居しすぎたくらいだ」
その返事を聞いたミリアリアは、軽く頷いた。
「よくってよ。成果は十分でしたわ。では、お世話になりましたわね」
「僕も楽しかったよ。お茶をしに来てくれた人類は君が初めてだった」
「人類で」
「人類でか」
「スケールが違いますわね。時間の感覚もですが」
「確かに。精霊王様は昔から大雑把なのだ」
「君達、聞こえているからね?」
ミリアリア達のひそひそ話に反応しつつ、精霊王様はしかしどこか心配そうだった。
「でも、本当にいいのかい? 逃げ出した国に戻ろうなんて?」
精霊王様が心配するのも無理はないけれど、まぁちょっとだけ一時的な帰国である。
「ええ。ほんの少し様子を見に行くだけですから。元から魔王については少しずつでも調べようと思っていたので感謝していますわ」
ミリアリアだって今更、原作になど係わりたくはない。
ないのだが……気にならないのかと問われればものすごく気になってしまう。
特に魔王がらみのトラブルは世界中を混乱に陥れるような、大規模なことになったりする危険もあるので、ミリアリアとて無関係ではいられそうになかった。
「そうかい? 君がそう言うのなら望むままに行くといい」
「不満ですか?」
「いいや? むしろ好ましいね。次ここに来る事があればまたお茶でもしよう。きっと君はまた面白い土産話を持ってきてくれるはずさ」
「今度は特訓なしで、ですわよね?」
「もちろん。その時は私がとっておきのお茶を用意しているよ」
「精霊王様のですか? それは楽しみですわね」
「あのー……そのお茶を入れるのはー……」
「もちろんメアリーですわ! 期待していますわね!」
「ど、努力します……」
ミリアリアは先に馬車に乗る。
そして少しだけ聞き耳を立てた。
外ではダークと精霊王様が話をしていた。
「君は残ってもいいんだよ。ダーク……これ以上人間とかかわりを持てば、辛いことを思い出すかもしれないよ?」
「……いえ。行きます。ミリアリアと共にいる時は……昔の事なんて思い出す暇がないくらいです、だからきっと大丈夫ですよ」
「そうかい? そう君が決めたのならもう止めないよ。……引き留めて悪かったね」
「はい。行ってきます」
それはとても短い会話だった。
ミリアリアは目を閉じ、ふぅと息を吐く。
そして今聞いたことは胸の内にだけとどめておくことにした。
精霊王はいつまでも、その背中を見送り続ける。
「すまないね精霊の子たち。……世界に満ちる僕たちは、すべてが世界の一部だと知っているはずなのに、どうしても分けて考えてしまうんだ。悲しませたくないだけなのだけれど……君はまた歩き出したのだね」
そうやってはるか昔から、そしてこれからも精霊王はそうあり続ける。