悪役姫は提案される。
とはいえその辺の事情はこちらの事だ。
精霊王様はミリアリア達の慌てた様子に面白そうに笑い、お茶を啜っていた。
「何だか大変そうだね。大丈夫?」
「おそらく大丈夫ですわ。お見苦しいところをお見せしましたわね」
「いやいや。でも君ほどの人間が取り乱す事態というのも気にかかるなぁ」
「ええまぁ。ですが今日はダークの里帰りが目的なんです。気にしなくて構いませんわ」
「ふぅん」
お茶会はあくまでオマケだ、今日はダークが精霊王様と楽しくおしゃべりでもしてくれなければ駄目である。
しかしダークに視線をずらした精霊王様は、一瞬考えたそぶりを見せ、答えた。
「いや、そこまで気を遣わずともいいよ。こうして会いに来てくれてとてもうれしい。僕は君の
ことが気に入ってしまったよ。それにせっかく来てくれたんだ。どれ、僕が君に術の手ほどきをしてあげようか?」
ただ、思ってもみなかった提案に驚いたのはミリアリア達一向全員だった。
「「「……ええ!」」」
「何で残らず全員驚くのさ」
「いやだってそりゃあ……あれだけ限界まで鍛えたのに、まだ強くなれるとか言われても、わかりませんわよね?」
「あ、そういう心配?」
ミリアリアの認識としては、この世界に置いてミリアリアという個人は成長の限界に達しているはずなのだ。
そのはずなのだが、妙に自信満々なのが精霊王様なのだから、軽く見るわけにもいかなかった。
「精霊王様。それは流石に無理ではないだろうか? ミリアリアはとうの昔に人間の限界なんて超えてる化け物以上の化け物なのだが?」
「ダーク?」
「そうですよ! ちょっとミリアリア様は普通じゃないんですよ? 見てもらったらわかると思いますが悪魔が人間の皮を被ったかな? って思いますよ?」
「これ、メアリー?」
「うんまぁ。正直人外の領域に足を踏み入れてるなーとは思うけど。こんなもんじゃないでしょ? 彼女?」
「「ええぇ!」」
「なんだかひどい反応じゃなくって?」
限界を超えようと努力はしていますけど、歴としたとした人類ですわよ?
ミリアリアは仲間たちの反応にちょっと傷ついたが、それ以上に精霊王様の話に興味があったのも事実だった。
まだ成長の余地が残されている。
生涯をレベルアップに捧げて来た、戦闘狂としては実に希望のあるお誘いである。
「それは本当ですか? 実はわたくし、もう何年も伸び悩んでいるんですわ」
「君の中につながっているモノをもっと使いこなせれば可能だとは思うよ」
「……つながっているモノですか?」
「そうだよ。君自身は彼らの事をある程度把握しているんだよね?」
「そうですね。精霊の力どころか、別の世界の力とでも言いましょうか……言っていて意味がわかんなくなる感じではありますけど、切っても切れない間柄ですわ!」
「……うん! まぁ僕もパッと見、意味はわかんないんだけれど」
「わかるんじゃないんですの? わからないんですの? どっち?」
「いやまぁ。でも僕なりにアドバイスくらいはできそうかなとは思うんだよ。精霊王なんて呼ばれてるわけだし」
「……!」
言っていることは漠然としているが、精霊王という名前の響きが説得力を倍増してしまうこの感じちょっとずるい。
こんな魅力的な提案をされてしまえばミリアリアの返事など決まっていた。
ミリアリアは広げた扇をぱちんと閉じて笑みを浮かべた。
「いいでしょう。他ならぬ精霊王様の提案なら受けますわ!」
「いいね。そう来なくっちゃ」
「もちろん、ここまで言われたら引き下がれませんわ!」
「じゃあ……さっそく始めよう」
「ん?」
ミリアリアのお茶会は残念ながらここで突如終了した。