悪役姫は冒険者になる。
おっす! わたくしミリアリア! 元ハミング王国第一王女の今はただのミリアリアですわ!
なんて適当な挨拶を考えて笑っていたミリアリアは、死にかけた冒険者を近くの村に送り届けて、樹海の探索を続けていた。
我が母国、ハミング王国を飛び出したのは今は昔の話。
ミリアリアは王国から脱走後、即冒険者として登録し、冒険の旅に出発した。
そうして向かったのは「精霊宮」というダンジョンである。
スタートこそ順調に思われた旅だったのだが、しかしこの精霊宮、まず見つけることが難しいのが問題だった。
精霊神ダークの導きに従い、訪れた地には確かに精霊宮の伝説は残っていたものの、その正体は不明。
更には精霊王の樹海と呼ばれる道も全く整備されていないジャングルは、すさまじく広大だった。
冒険者として適当に暴れまわりながら、樹海の中を探索する日々はそれなりに楽しくはある。
確かに楽しくはあるが……いろんな意味で見通しが悪い。
まぁ軽い里帰りのつもりでいたら思ったより大変、そう言うことだった。
ミリアリアは馬車の中で揺られながらぼそり呟いた。
「本当に……ここに精霊宮があるのかしら?」
そんな呟きに目の前に座る色白の少年の肩が一瞬だけピクリと震えた。
「も、もちろんだとも。ここにあるのは間違いない」
ミリアリアは訝しんだ。
彼の名前はダーク。
闇の精霊神なんて呼ばれていた強力な精霊であり、現在は協力関係の相棒、その人間形態だ。
だが大切な相棒であっても、疑わしいのなら盲目的に信じるわけにはいかない。
ミリアリアは愛用の扇を口元に当てて、再び尋ねる。
「ホントですの? じゃああとどれくらいで見つけられそうなのかしら?」
「どれくらいか……だと? もうすぐだとも。うん多分もうすぐだ」
「本当ですの?」
「もちろんだとも」
「もしなかったら……新術で作った飛びきり癖の強い料理を味見をさせますわよ?」
「……だ、大丈夫だとも」
ちょっと自信がなさそうなのが気になるけど、そこまで言うのなら仕方がない。
だが新型、発酵シリーズ第一弾黒い納豆を披露するのは、そう遠くない未来になりそうだった。