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光姫は焦がれる。

 ミリアリア=ハミングが姿を消してから、一年。


 今すぐにでも探しに行きたいと、ライラは願い続けていた。


 だと言うのに―――。




「……何で私はこんなところにいるのかしら? 」


 ライラは日課になっている自問自答を口にする。


「そりゃ。俺達が力不足だからだろう?」


 そんなライラを覗き込んで、赤毛のアーサーがやれやれと肩をすくめていた。


 まさに図星。


 しかしライラは唇を尖らせてジト目で言った。


「……うるさいよ脳筋」


「誰が脳筋だ! 本当の事だろうが!」


 声を荒げる赤毛のアーサーに、ライラは胡乱気な視線を向けた。


 本当の事である。


 しかしだからと言って納得出来ないのは、ライラもそしてアーサー自身も同じことなのをライラは知っていた。


 あの日、ライラ達はミリアリアを止めることが出来なかった。


 それは今もライラ達に苦い思い出として記憶されている。


 女王であるお母様の命令に従い、力をつけるために学園に通うことになったが、あの悔しさを忘れた日など一時だってありはしなかった。


「はぁ、その筋肉が見せかけだけじゃなければよかったのに」


「み、見せかけじゃねぇし! 筋肉は俺を裏切らねぇし! あいつがおかしいだけだし!」


 赤毛の筋肉ダルマが何か言っていると、ライラは冷めた目で見る。


 ミリアリアが出ていく時、足止めすら出来なかったのだからその筋肉に何の意味もないと思う。


 そしてもう一人青い髪のシリウスはそんなライラを諭すようなことを言ってきた。


「そう言わないであげてくださいライラ様。アーサーもあの件は情けないと思っているのです」


「貴方もじゃない青毛のシリウス。そんなに沢山高級な宝石をつけているのに、精霊術、全然通じてなかったし」


「うぐぅ……」


 彼が身に着けている宝石がタダの飾りでないことをライラはちゃんと理解していた。


 しかし過剰に身につけすぎても大した意味がないことは敗北で証明されたようなものだろうにとため息を吐くと、シリウスのメガネがずれた。


「……いえ、確かにその通りです。あの方は……まさに精霊に愛されているとしか思えない」


「そう! そうなの! ミリアリアお姉様は昔からそうだったわ!」


 ライラは身を乗り出し、ミリアリアの精霊術を思い出してうっとりと頬を染めた。


 ミリアリアお姉様が神懸っていることはもはやどうしようもない。だからミリアリアを阻めなかったことはライラにしても当然と納得は出来た。


 それはそうだ、本気になったお姉様にライラ達ごときが対抗できるわけがない。


「私もね? ミリアリアお姉様みたいになりたくってすごく勉強したの。でもどれだけやってもあんな風にはなれなかった……。アレはミリアリアお姉様だからこそ到達できた境地なのよ!」


 それはもう噛みしめるように、ライラは言う。


 そのセリフには、本当に血のにじむような特訓の果てに得た万感の思いが込められていた。


「でも私は属性に目覚めるのが遅かったからねぇ。……なんでもっと早く頑張らなかったんだろう……」


 第一王女であるミリアリアが、高い能力を見せていたこともあって、ライラはあまり期待を寄せられず、むしろ落ちこぼれていたと言ってよかった。


 だがライラは、ミリアリア本人との出会いですべてが変わった。


 ミリアリアに少しでも近づこうと精霊術に強い興味を示し、勉学に励んでいるうちに……ライラは開花したのである。


 光の属性に目覚め、女王候補としてライラの評価は上がったのだが……それ以上にミリアリアの絶対性がライラの中で確固たるものになったのは間違いない。


 そして精霊術をほんの少しでも使えればミリアリアという人間のずば抜けた力は誰だって理解できるはずなのだ。


「ああ……どんなに理解しようと努めても、背中も見えない姿が神秘的で……ものすごくかっこいいの」


 ライラは熱く語る。


 一度溢れ出すとこの気持ちはどうにも止まらないわけだが、その聞き手もちゃんといた。


 男二人はライラの言葉を聞いて、うんうんと重々しく頷いていた。


「ああ……たしかにかっこいい」


「憧れますよね……」


「そうよね! 私、思うの。実力で追いつけないんだったら、もう物理的に近くに行くしかないんじゃないかな?」


「だから……ライラ様は全力で逃げてるから俺達じゃ追いつけねぇって」


「そうですね……私達で捕まえられるのかというと」


「そんなこと出来るわけないでしょ? ミリアリアお姉様が本気を出したら影も追えると思うなよ?」


「わかってるならいちいちつっかかるなよ」


「わかってるけど……! もっと一緒にいたかった~!」


 うおおおっと嘆くライラの言葉は定番の愚痴である。


 出来ないとはわかっているけど、そばにいたい、結局のところその矛盾に満ちた思いが現状のすべてだった。


 アーサーとシリウスは手が付けられないと顔を見合わせる。


 そんな嘆き悲しむライラの元に今日の朝は珍しくもう一人がやって来る。


 気配に気が付いてライラが顔を上げると、金髪のぽっちゃりエドワードはとても爽やかに前髪をかき上げていた。


「やぁ、君達。ごきげんよう! 今ミリアリア様の話をしていたのかい? そうだろう?」


「ゴキゲンヨウ……まぁそうよ。ミリアリア様の話をしていたの」


「そうだろうとも! あの方はどんなに言葉を尽くそうと語りつくせるものではないからね! 僕もその恩恵にあずかったことがある! 焼き鳥という手料理を振るまってもらった時の衝撃は今でも忘れられない、僕の大切な思い出さ!」


 誇らしげに語るエドワードだったが、聞いているライラの瞳からはスッと光が消えて、コテンと首を傾げた。


「……え?……なにそれ? お姉様の手料理? お姉様自ら?……ありえないんですけど?」


「待てライラ様……何をする気です?」


「落ち着けライラ。その殺気はクラスメイトに向けるものじゃない」


「だって! お姉様の手料理とか……うらやましすぎない!」


「あっはっは! そうだろう! ミリアリア様は食文化の伝道師としても有名なんだよ!」


「うぅ!」


 ライラは取り押さえられながら、口惜し気に歯噛みした。


 確かにミリアリアお姉様は新たな食文化を生み出したとも評判で、その料理の腕前は一流のシェフが舌を巻くと言う。


 そしてなぜだか料理に並々ならない情熱を持っているエドワードは、悔しがるライラにはお構いなしに熱く語っていた。


「彼女の生み出した様々な料理はどれも洗練されていて、民にも親しまれているのさ! 知り合いのシェフ曰く、お一人で考えられたレシピとは思えないほどの完成度と独創性なのだそうだ!」


「……お前も大概図太いな」


「これだけ露骨に殺気をぶつけられても顔色一つ変えないとは……メンタル鋼ですね」


「……ミリアリアお姉様なら当然だわ!」


 しかしエドワードの語る賞賛は的を射ていた。


 さっきまで親の仇を見るように殺気を漏らしていたライラは、一瞬で機嫌を直してがっちりと握手。


 ここにいる男子達と一緒にいる理由はとてもシンプルだった。


 普通に話が合う。


 ちょっと憧れ以上の物が混じっていそうなのがライラ的には気に入らないので要警戒だが、それはそれとしてミリアリアの魅力を語らえるだけでもそれは楽しい時間なのである。


 というように絶妙なバランスで成り立っているのが、彼女達4人の日常だった。


 だが食べ歩きに余念のないエドワードが、朝からこうして会話に入ってくるのはとても珍しい。


 ライラにしてみるても、特に理由は思い浮かばなかった。


「そう言えばエドワード、何か私達に用事でもあったの?」


「ああ、そうだった。3人とも。学園長が君に話があるそうなんだが」


「学園長が?」


 ライラは心当たりがない話に首を傾げた。


 するとエドワードはにこやかに頷いた。


「ああ、なにか学園長が面白いアイテムを手に入れたそうでね? どうにも闇の属性を秘めたアイテムの様で、君に一度意見を聞きたいそうなんだ」


「私に?」


「そう。君の属性はとても珍しい光だからね。何かわかることがあるんじゃないかな?」


「うーん。どうかなぁ」


 エドワード自身も内容について不明瞭なのか、ところどころで語尾が疑問符である。


 ライラとしては拒否する理由も思いつかなかったので、学園長に会いに行くことにした。


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― 新着の感想 ―
王女候補…。今まで王女ですらなかったということですか? 第二王女って、なっていたのは(仮)だったと。 だとすると今の身分は何なのですかね。
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