ある日。あの時。あの花園で。
その日私はこの世で最も美しいモノを見た。
花びらと、黒い蝶の舞い踊る庭で、私は彼女に出会った。
彼女の姿は今もなお目に焼き付いている。
まるで闇夜を写し取ったような黒髪に、燃えるような情熱的な瞳。
まるで美の化身のような女の子の瞳に自分の姿が映っているのが不思議で、私は呼吸をするのも忘れていた。
「もう少し強くなっておきなさいライラ。じゃないと―――わたくしにすら負けてしまいますわよ?」
そんな私に彼女は告げる。
それは言葉だけ考えれば棘のあるものだったけれど、直接聞いた私にはそこに悪感情なんてまるでないことはすぐにわかった。
むしろそこにあるのは、いたずらをするような無邪気さと、心配するような優しい響き。
彼女が黒い蝶の幻影と共にいなくなると、私は腰を抜かしてしまった。
それが、ミリアリア=ハミング―――ハミング王国第一王女にして、私の姉に当たる人と初めて言葉を交わした瞬間だった。
もちろんあの完璧な存在に、触れる事すらためらわれる。
だがとにかく近くにいたい。
声が聴きたい。
そんな願いは叶うことはなく。
ほとんど言葉を交わした記憶もないまま時間だけが過ぎてしまって、彼女はこの国から姿を消してしまった。
「はぁ……一体どこに行ってしまったのかしら? ミリアリアお姉様以上に女王にふさわしいお方なんていないのに……」
思い出してはため息がこぼれる日々を、ライラは送る。
ああ、好きすぎて語彙が死ぬ。
「はぁ……ミリアリアお姉さま―――ちゅき」
今日も頬を赤らめたライラは夢心地で呟いた。