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悪役姫が去った後。

 パーティ会場は混乱に陥っていた。


「一体何が起こった!」


「どうなっている!」


 様々な怒声が飛び交い、混乱する人々を抑えたのは女王の一声であった。


「静まれ! 皆の者!」


 その一括で、その場は収まり、女王に視線が集まる。


 そして君臨する女王クリスタニアは決定を告げた。


「まずは我が娘の無礼を謝罪しよう。どうやらミリアリアは闇の性質が強く出過ぎていたようだ。闇の精霊神を引き寄せ、此度の騒動を起こしたのだろう」


「闇の精霊神……!」


「アレがそうなのか……」


 闇の精霊神は、この国の成り立ちであり厄災の代名詞でもある。


 地下深くに封印されたと伝え聞いた御伽噺の怪物の出現に、会場にいた全員が息を飲むのを見届けて、クリスタニアは続けた。


「だが―――我が国において光の加護は健在である。闇の精霊神は退けた」


 ひとまず退けたということにしておけば問題はない。


 光の精霊神の加護が健在であり、今現在でも脅威から守られるという事実さえあれば安心につながる。


 今のミリアリアなら多少のトラブルは自分で対処出来るとクリスタリアには確信があった。


 闇の精霊神はミリアリアに力を貸した。


 どういう経緯でそうなったのか、クリスタニアに知る由もない。


 だがあの一瞬の攻防で読み取れた、闇の精霊神とミリアリアの絆が決して憎悪や敵対心でないことが重要だった。


 クリスタニアは残念に思いながらも、決断せねばならなかった。


「この件に関しては緘口令を敷くが、相手が闇の精霊神ではミリアリアもただではすむまい。ミリアリアは死んだものとして、王位継承権ははく奪とする。そして今後は王位継承権1位をライラとして周知せよ」


 そう宣言する。


 しかし、それでこの場は収まるかと考えていると声が上がった。


「納得できません!」


「そうです! ミリアリア様に限って乱心されるなど考えられません!」


「そうだ! あいつはそんなにやわじゃない!」


「あの方は、たとえ精霊神相手だとしても後れはとらないと思います」


「む」


 自分に意見するには少々若すぎる声にクリスタニアは顔をしかめる。


 しかしクリスタニアの表情の変化に気が付いているだろうに、声の主は引き下がらなかった。


「ミリアリア様が簡単に負けるなんて思えません!」


 一番前に出た小柄な金髪の少女は、必死にそう主張した。


 その少女が自分の娘であるライラだと気が付いたクリスタニアは一瞬言葉に詰まり、問うた。


「ライラか……ならばどうする?」


 クリスタニアは自分にそう主張する娘にわずかばかりの驚きを感じていた。


 ライラは内気で控えめな性格だと聞いていたがそうでもないのか?


 それにミリアリアと特別に仲が良いという報告も聞いてはいない。


 その上で何を言い出すのか気になったクリスタニアだったがライラの提案はやはり意外なものだった。


「私がお姉様を探し出します! 行かせてください!」


 今回の事で最も得をする人間がいるとすれば、このライラである。


 その辺りどうにも腑に落ちないところはあったが、クリスタニアはにやりと笑った。


 クリスタニアは人前で微笑むことすら滅多にない。


 そんな様子に家臣達が一様に驚愕していたが顔だけ覚えて、今は流しておくことにした。


 これは中々面白い。


 娘達の成長もだが、クリスタニアはミリアリアがこのまま姿を消すのを心底惜しいとも感じていた。


 元より突出した才能を持っていたミリアリアだったが、闇の属性はこの国でとても重い意味を持つ。


 いかにミリアリアが優れた女王になろうとも、その一点で難色を示すものも多かったはずだ。


 しかし第一王女であるミリアリアがこの先女王になると言うのは自然な流れで、下手をすれば国を割りかねないとミリアリアは判断したのだろう。


 だからこそ、考えに乗ってクリスタニアはこの茶番に協力した。


 しかし他ならぬライラがミリアリアを探し出し、連れ帰れるというのならそれも面白い。


 光の属性を色濃く持つライラが女王となるのが最も軋轢は少ないだろう。


 そして闇の精霊神から姉を取り戻したという美談は、ミリアリアを自然な形で国に連れ帰るきっかけになる。


 更にはミリアリアがライラをサポートする立場となれば、盤石である。


「ふむ……好きにせよ。ただしすぐに探しに行くことは禁止する。今のお前では力が足らん」


「……!」


 しかしすべては理想の話だった。


 こうして相対すればライラがミリアリアの足元にも及ばないことはわかる。


 同時にミリアリアのために声を上げた若い貴族たちは、それなりに腕を上げているようだが少々未熟にも見える。


 強くは言わず、あくまで布石くらいにとどめておこう。


 クリスタニアはひとまずライラの軽挙を押しとどめておいた。


「話は終わりだ。では片付けをせよ」


 クリスタニアの指示で、混乱していた場は動き出す。


「しかし―――想像以上に面白く育ったものだ。流石私の娘たちだ」


 誰にも聞こえないように呟き、クリスタニアは先ほどまでミリアリアの離宮のあった場所を振り返る。


 そこには底も見えない大穴が広がっていた。



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