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悪役姫は企む。

「……我ながら驚きですわね。何でわたくし、まだお姫様やっていられるのかしらメアリー?」


「何を言っているのです? 当たり前ではないですか」


 月日が経つのは早いものでミリアリアはその日、15歳の誕生日を迎えていた。


 ミリアリアは自室の鏡の前でずいぶん育った自分の顔をしげしげと眺めながら、とても不思議だと心底思った。


「そうかしら? 我ながら破天荒なプリンセスライフを送っているというのに?」


「自覚があるのなら反省してください」


 容赦のないメアリー。


 そりゃあモンスター狩りに嬉々として参加したり。ダンジョン素材を売り払って一財産作ったり。

 記憶の知識を頼りにバカスカ地球産のものを作ってみたりしたが、ルールを守って楽しく活動していたにすぎない。


 おかげでフラストレーションもため込まず、心身ともに健康に成長したミリアリアは、今では大人の女性に足を踏み入れていた。


「嫌ですわ。そう言えば昔、お母様がわたくしにお会いになった時点で目をつけられた―と思ったから、かなり急いで色々と進めていたっていうのに、すっかりゆっくりと修行してしまいました。マジすごいですわわたくし」


 ゲーム的に言えば、かなり早い段階でレベルはカンストしてパラメーターもこの上ないはずだが、それ以外の技能というモノはどうしてもある。


 戦闘技能はもちろんだが、掃除や洗濯料理なんかの生活力まで上がってしまった。


 ミリアリアは我がことながら自分で鍛え上げたスペックに呆れてしまった。


「それにしてもこんなに物覚えがいいなんて……わたくし天才なのではないかしら?」


 困りましたわとミリアリアは舌を出した。


 軽いジョークのつもりだったのだが、どういうわけかメアリーはいつになく真面目な口調で答えた。


「ミリアリア様は天才でございますよ。それを認めていない人間なんて、この国にはいませんわ」


「……今日はやけに褒めますわね? 何も出ませんわよ?」


 ミリアリアは訝しむ。


 しかしメアリーはすまし顔のままだった。


「いえ、本心です。私はこの国を導くお方はミリアリア様をおいて他にないと確信しております」


「またまた。メアリーは誕生日は優しいですわね」


 メアリーは今日という日に当てられたのか、ずいぶんな高評価なことを口にしていた。


 あらあら? いつの間にこんなに好感度を上げてしまったのかしら?


 ミリアリアは本気だったらどうしようとちょっと焦った。


「……残念でしたわね。わたくしほど女王に向いていない人間はいませんわ。直情的でわがまま。思い込んで頭に血が上ると周りが見えなくなるのが致命的です」


「そうでしょうか?」


「そうよ。他ならぬわたくしが言うのだから間違いありませんわ」


 正直この性格で女王にさえなればうまくやれると本気で思い込んでいた元祖ミリアリアは楽観的にもほどがあった。


 だがしかし、情報さえ知っていればたとえ三つ子の魂が百まで有効だとしても、多少の方向修正はできると信じたいところである。


「メアリーの言葉は嬉しいけれど、本気で言ってるなら適当にあきらめるように。今日のパーティは残念なことになると思うわ」


「そ、それは一体どういう意味でしょうか?」


 本気で言っているミリアリアに、メアリーも気が付いたのか焦り始める。


 こうやってメアリーを焦らせるのもミリアリアの楽しみになっていたのだが、この表情も今日で見納めかと思うと未練がないと言えばウソになる。


 だからこそ今日という日を迎えたわけなのだが、そろそろケジメはつけなければならなかった。


「どういう意味もなにも、わたくしは女王になどなれないってことですわ。ああそれと、今からとても危険なことが起こるから念のため離宮にいる職員は全員避難するよう伝えてくださる?」


「ミ、ミリアリア様?」


「まぁ、パーティですからね。盛り上がっていきましょう!」


「ミリアリアさまぁ!? 不穏なんですけど!」


 ようやくいつもの調子を取り戻したメアリーにミリアリアはいたずらっぽく笑いかけた。


 そう。最後位はいつも通りに爽やかに別れたい。


 そら走れとメアリーを追い出して、ミリアリアも動き出した。


 準備を整え、向かうのは中庭のバルコニーである。


 手にしているのは愛用のキャリーバッグ。


 真っ黒な背中の開いたドレスは、子供の頃は全く似合っていなかったけれど今ならそれなりに着こなせているはずだ。


 履きなれたハイヒールは軽快な音を立ててミリアリアの歩みを轟かせ、廊下で出会った人間はミリアリアのいつも以上のやる気に気圧されたのか息を飲んで道を譲った。


「さぁあなた達も外に逃げなさい! ホラ急いで! 猫一匹残してはダメですわ!」


 この国では呪いの象徴でさえある艶やかな黒い髪をなびかせて、ミリアリアは用意した舞台に立つ。


 本日のお茶会は、ハミング精霊学園への入学を祝うという名目で、思いつく限りあらゆる家に招待状を送っていた。


 黒髪のわがまま第一王女の招待にどれだけの人が集まるものかと思っていたが、立食パーティを用意していた中庭は満員御礼であるらしい。


 ミリアリアがバルコニーに立つと、客の視線が一気に集まる。


 ただその中に、この国の女王クリスタニア=ハミングの姿を見つけて、ミリアリアは素で驚いていた。


 体が勝手に緊張してしまうわけだが、考えてみれば嫌なことをまとめてやってしまうには非常に都合がいい。


 そう気が付くと、むしろテンションが上がって来たミリアリアは周囲に100近い数の鉄球を浮かべた。


 左手に掴んだ愛用のキャリーバッグをガンと置き。右手には扇を広げ。完全武装でその場に臨んだ。


 一世一代の演説である。ミリアリアは万感の思いを込めて、言葉を放つ。


「皆様―――今日はわたくしのために集まっていただき感謝いたしますわ! しかし、開幕早々で恐縮ですが、さっそく皆様方にわたくしからお伝えしなければならないことがございます」


 ミリアリアの声を聴いて、庭から感嘆の声が上がった。


 少しだけ息を整えて間を置き、ささやかなざわめきが収まったのを確認してミリアリアは告げた。


「わたくし―――ミリアリア=ハミングは王位継承権第一位を放棄することここに宣言いたします! ではまぁそう言うことなので!」


 宣言の後シンと、水を打ったように静まり返った会場である。


 女王であるお母様も含めて、全員が目を点にしている光景は痛快だった。


「「「「えええええええ!?」」」」


 そして鉄砲水のように溜めに溜めて響いた絶叫は予想以上で、ミリアリア的にはビックリだった。


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