悪役姫は望みを口にする。
「まぁとどめなんて刺しませんけどね。ミリアリアジョークですわ」
「……は?」
とはいっても解放されたダークは体を覆う闇が吹き散らされ、いつの間にか翼も角もない。
地面にめり込むダークは悪魔のような姿ではなく、全身真っ黒な男の子になっていた。
おぅ、ダークさんギャップ萌え。でも乙女ゲーなら仕方がない。
ミリアリアはそんな感想を胸の奥にそっとしまった。
「……な……なんだその力は……お前本当に人間か?」
「失礼なことをおっしゃいますわね。こんな美少女を捕まえて」
「だが、ネーミングセンスはどうかと思う」
「やかましいですわよ」
素敵だろうがとミリアリアは胸を張る。
なのになぜか、ファンクラブ会員たちは賛否両論だった。
ダークはぽかんとしていたが、何かツボに入ったようで楽しそうに笑い始めた。
「全く、かなわんな。……聞かせてくれ。なぜお前は私と契約したい?」
そして尋ねてくるダークにミリアリアはなんだかうれしくなってくる。
契約を前向きに考えてくれるのなら前進だ。
しかしミリアリアは必ずしも契約がしたいかと言われるとそうでもなかった。
「そうですわね……契約は、まぁ今から数年後。わたくしが妙な悪霊に憑りつかれる……かもしれないので? 強い精霊の契約があると助かるかなー? みたいな保険ですわ」
それは思いつきなようなもので、考えなかったこともない程度のものだ。
相手が闇の精霊神なだけに嘘なんてついても無駄だと思って話したが、逆にダークには言いようをあきれられてしまったらしい。
「よくわからないがそれは大変なことではないのか? いや、その前に……お前ほどの者がしてやられる敵というのも驚きだが」
「もちろん、そうやすやすとやられるつもりはありませんわ」
ミリアリアとて、今更負けるつもりなんて欠片もない。
遭遇したらすぐさま撃退を心がけていたが、ミリアリアの意気込みはダークに伝わったようだった。
「だがなるほど……結局何がしたいのかわからんな」
「あらそう? わたくし一番の目的はもう伝えていたと思うのですけれど?」
「そうだったか?」
そう。重要なのは契約ではない。そこを勘違いしてもらっては困る。
ミリアリアが頷くと、ダークは尋ねた。
「では何のために?」
ミリアリアは若干緊張しながら、本当の望みを改めてダークに伝えた。
「一番の理由は、わたくしと一緒に来てほしいだけです。わたくし―――相棒を探しておりますの。あなたはその候補の一人ですわ」
「……相棒?」
気の抜けた声で聞き返すダークにミリアリアは数度頷き、ダークに詰め寄った。
「そうです! もっと言えば遊び相手ですわ! 楽しく遊べる気の合う相棒が欲しかったんです!」
ミリアリア的にかなり照れる告白だったのだが、ダークは困惑を深めてやはり首を傾げた。
「いや訳が分からない……なんで闇の精霊神たる私とお前の気が合うと思ったのだ?」
「そりゃあ、わたくしラスボスですし、あなた裏ボスでしょう?」
「もっと意味が分からなくなったんだが?」
なんとも言葉で言うのは難しい。
しかしこういう話ができる可能性があるからこそ、ダークは相棒たり得る。
困惑するダークにミリアリアは歯がゆいものを感じていたが、もちろん焦りもしていなかった。
「意味……確かにそれは重要ですわね。ラスボスのわたくしがこうなった意味、裏ボスのあなたにたどり着いた意味、そんなのいくら考えてもわかりませんけど」
「?」
「……要はわたくしもあなたも神様から与えられた待遇があまりよくないってことなんですわ」
ミリアリアは死亡必至の悪役。
そしてダークは日の目を見ることがあるのかないのかもわからない裏ダンジョンのラスボスだ。
両者とも順当にいけば、ろくな結末が待っていない。
その辺りダークにも自覚があったようだった。
「……確かに待遇がいいとは言えないな」
「でしょう? ですがわたくしはこの世界の事が大好きですの。イケメンも多いですしね? せっかくなので命尽きるまで楽しみつくすと決めています。ですからこれはお誘いですわ。あなたもわたくしと一緒にこの世界を特等席で楽しみませんこと?」
ミリアリアは熱く勧誘する。
力が手に入ったことは証明できた。
手始めに手に入れた憧れの力は、ミリアリアを運命の先に連れて行ってくれると信じている。
その道連れを探すのもまた、楽しみというモノだった。
今度こそ本気で手を伸ばしたミリアリアにダークが本気で困惑して尋ねた。
「……お前正気か?」
「当然。どうします? 嫌なら他を当たります。断っても構いませんわよ?」
第一に楽しんでなんぼなので、まずは趣旨を完全に理解してもらわねば困る。
待ちに入ったミリアリアの事をしばらく見ていたダークは結局ミリアリアの手を取った。
「フ、フフフ……お前は本気でそう思っているのだな……」
「当然ですわ。誰より自由に最強に、余すことなく妥協なく堪能しましょう!」
我ながら素晴らしい提案だとミリアリアは確信していた。
ダークはしかし、その一瞬だけ握った手から力を緩めていたが、結局手は離さないまま肩をすくめて答えた。
「いいだろう―――その契約、結ぼうじゃないか」
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