悪役姫は押し切る。
ミリアリアが発想したのは要するに銃の代替品である。
剣やら槍では多少鍛錬したところで、レベル一以下の戦闘能力じゃまるで意味がない。
だが銃ならば、撃って当てさえすればモンスターを倒すことができる。
薬莢に代わる代替品が手っ取り早く用意できるのなら、使わない手はないだろう。
どういうわけか、やろうと思えば火薬の生成から銃本体の設計まで、できなくはなさそうだけれども……うんこをこねくり回すのはちょっとお姫様的には勘弁してほしかった。
まったくどこの誰の記憶か知らないけれど、なんとも多芸な記憶ちゃんだ。
ぎょっとしたまま固まっている鍛冶屋のアーノルドは、ようやく声を絞り出した。
「あ、ああ、えっと。……よくわかんねぇがすげぇ威力だな。えっと、鉄の筒だったか?」
「ええ、今の衝撃に耐えられて、狙った方向に打ち出せれば大丈夫ですわ」
「うーむ。そいつは中々頑丈に作んなきゃならないだろうな。骨が折れそうだ。……いっそ鉄球に穴でもあけるか? なんて……」
「それですわ!」
「えぇ?」
引きつった声を出すアーノルドのジョーク、それはミリアリアにとって青天の霹靂だった。
筒を銃列のようにずらりと並べるだけではなんかかっこ悪いと思っていたが、鉄球は中々カッコイイではないか?
筋トレっぽくなって、物を浮かべる練習にもなれば一石二鳥である。
「それです! 直径1メートルほどの鉄球に穴が開いたものを10個! あとは鉛の玉を出来るだけたくさん! そうですわね1000ほど用意してくださいな!」
「おいおい……だから俺は……」
「ぜひともあなたにお願いしますわ! それともできないとでも? 貴方が言ったんでしょうに?」
簡単にできるのならすんなり引き受けてもらいたい。
唸るアーノルドは、とりあえずという風に聞いてきた。
「いやできるがよ……お嬢ちゃん、お金あるのか? それなりに値が張りそうな注文だが?」
若干、意地悪というより、突っぱねる最後の抵抗を感じる。
しかし子供に尋ねれば目を泳がせるであろうその質問をミリアリアは待っていた。
「メアリー! 支払を!」
「はい。ミリアリア様」
「……」
ドンと置かれた金貨の重量でアーノルドを黙らせる。
ああ、姫様マネーってすさまじい。
こりゃあ、チビミリアリアは拗らせるはずである。
幼女だろうとなんだろうと、多少の違和感なんてこの輝きの前では些事。素敵だ。
では静かな店主にミリアリアはついでにもう一個、注文を付けくわえた。
「いい発想のお礼に貴方の店はこれからも贔屓にさせていただきますわ!」
「……いや、そいつは」
「贔屓にして差し上げますわ!」
「は、はい……」
「それと、武器屋に来てまともな武器を買わないというのもまずいですわね。鉄の扇を一つ作ってくださらないかしら?」
「わ、わかった……」
ふふん。お姫様パワーすさまじい。そして今後も使える物は何でも使うとしよう。
鉄扇はミリアリアの決意の証である。
近い将来、黄金の輝きに勝る力とハッピーな人生を手に入れる。
もうすでにそのための力にこの手はかかっていると、ミリアリアの知識は囁いた。
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