悪役姫は削り切る。
「さて……リベンジですわね」
結局自分に最適ないつも通りの宝石で体を彩り、ニュードレスには闇の精霊術がよく通る。
身だしなみは万全。化粧のノリも最高だ。
そして技の冴えはいつも以上で、目的地にもすぐにたどり着いた。
つまりベストなコンディションということ。
待ち受ける巨大なゴーレムは、まさしくミリアリアの道をふさぐ障害物であり、叩けば叩くほど熟練度が上がる師匠でもある。
「……ではご教授いただきますわ。今日こそ少しはつかめる気がしますのよ?」
タイタンゴーレムのテリトリーに踏み入れば、命がけのレッスンの始まりだった。
ミリアリアは扇を開き、呼吸を整える。
今日こそはあの硬い体を削り切る、その突破口を確信に変えるため、ミリアリアは走り出した。
タイタンゴーレムの手のひらが振り下ろされるのを、ステップを踏んでかわす。
流れるように相手の腕を利用して駆け上がったミリアリアは、ゴーレムの顔面に狙いを定めた。
「扇に精霊術を纏うように―――」
使いなれない技を意識して、口に出す。
精霊鋼の扇は効率的にミリアリアの力を吸収し、増幅して黒い閃きをミリアリアにもたらした。
「! キタキタ来ましたわ! さぁ! リベンジです!」
ミリアリアは扇を扇ぐイメージで振りぬく。
飛び出した黒い刃はトリッキーな動きでゴーレムへ纏わりついた。
たっぷりと闇属性の乗った鋭い刃は深々と無数の傷をゴーレムの体に刻みつけていた。
「扇技・影鳥……いいじゃありませんの! 出足は速いし消耗は少ない!」
ゲームでは技は回数でカウントされていた。
ならば純粋に有効な攻撃回数が上乗せされた今、やることは同じだった。
「では行きますわよ! うつべしうつべしうつべしうつべし!」
情け容赦なく放たれる影鳥の嵐。
ガンガン削り取られるタイタンゴーレムの装甲がそこら中に飛び散った。
自動回復の速度を上回る波状攻撃に溜まらずタイタンゴーレムがよろめいたのをミリアリアははっきりと見た。
だがここで油断してはいけないのがこいつなのだ。
装甲を削り切った後の仕上げこそ踏ん張りどころだと、ミリアリアは前回の敗戦で学んでいた。
「ゴ……ゴゴゴ」
装甲の岩など、所詮土の寄せ集めでしかない。
中の骨組とコアこそが最も硬く、最後こそ回復力を振り絞って来る。
「わかっているんですわよそんなことは!」
ミリアリアは渾身の念を燃やす。
そしてゴーレムのコアを完全に砕くべく残りのすべてを振り絞った。
「食らいなさい―――アンク連撃!」
扇を上空に投げ、十本すべての指に闇を集中。
そのすべてから一斉にばらまかれた闇属性の弾は、回復の間を許さずタイタンゴーレムを砕いて行く。
影鳥ほどの速度はないが、アンクの方がダメージが通った。
ここまですれば、回復するより早くあのコアに届くはずだ。
「うおりゃあああああ!」
ミリアリアはとにかく速く正確に精霊術を行使すること以外考えなかった。
倒れろ倒れろ倒れろオオオオオ!
実際叫びはしなかったが、目が血走るほどに集中した精霊術は間違いなく速度記録を更新していただろう。
そしてついに、ゴーレムが膝から崩れ落ちる。
地面に転がったとたん砂と化したその姿を見た瞬間、ミリアリアは全身から汗が吹き出し、膝が砕けそうになったが、根性で踏みとどまった。
勝利の瞬間こそ乙女の意地の見せ所!
落ちて来た扇を掴み取り、くるりと回転させ、ぱちんと閉じる。
「うん! 勝利です! ……マジヤバですわね!」
よかったーギリギリ勝てて本当によかった! なんて半泣きになりつつ、ミリアリアは傷一つない扇で、優雅に口元を隠して、ようやく大口を開けて高笑いした。
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