悪役姫はお楽しむ。
オーッホッホッホッホ!
心はいつも高笑い、ミリアリアである。
それは恐ろしいモンスターが襲い掛かってこようともそういう自分であり続けたいなーと思うミリアリアだった。
鎌首もたげてまっすぐ直進、当たる直前で華麗にターン回避。
すれ違いざまにガツンと一発。
ルンタッタとステップをふんで距離確保。
ミリアリアにトッと閃きがやって来たのは、数十回それを繰り返した後であった。
セオリー通り単純に叩いて叩いて叩きまくっていると早速扇の技をひらめいてしまったのだ。
花吹雪。
舞い散る花のように相手を翻弄し、中ダメージの連続攻撃を与える技である。
「扇の奥義……なんちゃって……フフッ」
今のは誰にも聞こえないでほしい。
でも、何かの折に披露しようと、心にメモっておくとしよう。
しかし開始数十分でもうすでに新しい技の習得とは。
ミリアリアは、抜群の手ごたえにぐっと拳を握る。
「こいつは……おいしいですわ!」
大ムカデは光姫のコンチェルト内において、技スキル稼ぎにもってこいの敵として語り継がれる便利アイテム系中ボスである。
単調な攻撃パターンに、当たり所の多さ。
更に防御力と生命力に極振りしたような性能で自動回復までついているそいつは、手加減すれば高レベル帯でもなかなか死なずサンドバックのように殴り続けられる、とても便利なモンスターなのだ。
しかもボス判定なのが、技の習熟速度をさらに加速してくれるおいしい存在なのである。
攻略サイトでは、ムカデ先生の技塾とまで言われていた。
ミリアリアも知識では効率が良いとは知っていた。でも、正直ラストダンジョンと大差ないんじゃないかと疑っていたのだ。
ところが実際やってみると、モリモリ熟練度が稼げて楽しい。
ムカデ先生最高である。
こりゃあ日が暮れる頃までにいくつ技を覚えられるかとワクワクしていたミリアリアだったが、いいところでワンパターンだったムカデ先生の動きがわずかに変わった。
「ん? どうしたんですの?」
よく見るとムカデ先生の体から煙が上がっていて、火の精霊術でもぶつけられたように見えた。
そして聞こえたのは記憶の端に引っかかる、子供の声だった。
「おい! こっちだ!」
剣を構えて叫んでいたのは赤毛君である。
そう言えばこれ、勝負だった! とミリアリアはその瞬間思い出した。
戦意を喪失したふりをして、ダメージが蓄積したタイミングでタゲ取りとは小癪な。
赤毛君の思惑通りターゲットは見事奪われ、ミリアリアは大いに焦った。
「おのれ赤毛君! 負けませんわよ!」
地面を蹴って全力でジャンプ。
空中で身を捻り、高速回転からの渾身の一撃。
専用装備の攻撃力は、巨大なムカデを地面に縫い留める。
ミリアリアはガンと硬い外殻を踏みつけた。
痛いのを一発入れようとしたその時、外殻が一気にひび割れて、派手に弾け飛ぶ。
「!」
さしずめ戦車のリアクティブアーマーのごとく攻撃を跳ね返す仕組みだったらしい殻は、その衝撃でミリアリアを跳ね飛ばした。
してやられたミリアリアは着地しながらムムムと眉を寄せた。
「おおっと! こういう仕組みは予想外……さすがボスモンスター、不思議生物ですわね!」
こんなギミックあったかしらと首をかしげるミリアリアに赤毛君は叫んだ。
「なにやってるんだ! 今のうちに逃げろよ!」
そっちこそなに言ってんだ赤毛君。
せっかく面白くなってきたのにやめるわけないだろう。
これから夕方まで、このムカデをタコ殴りにせねば、この後こっぴどく叱られるかいがない。
ターゲットは奪い返した。
さて続きを始めようと意気込むと、赤毛君から物言いが入った。
「そんなに服もボロボロで……死んじゃうぞ!」
「ん? 服がボロボロ?」
なんだそれと視線を落としたミリアリアは、顔色を蒼白にした。
やばい。そう言えば今日はドレスに術をかけてないんだった!
先ほどの不意打ちはダメージこそ免れたが、ミリアリアのドレスに致命的な損傷を与えていた。
そして汚れがひどい。
弾けた殻に体液でも混じっていたのか、残念ながらこのドレスはもうパーティに着ていくことは不可能だろう。
今日は朝から騎士の訓練場に出向くから、お気に入りのドレスを着ていたのも最悪だった。
「……」
あ、これ無理だ。忍耐力がダメ。
ガッツリ落ち込んだミリアリアは瞬間移動で赤毛君を回収して、続いて見晴らしのいい岩の上に転移する。
「え? なに?」
「今日はもう終わりですわ……まぁ扇に技があることが分かっただけでもよしとしましょう」
眼下にはミリアリア達を見失って大暴れしている大ムカデがいる。
「フ、フフ……では始めましょうか」
ミリアリアは右手を高く掲げ、目標を見定めた。
全身から闇が迸り、体から力が溢れ出る。
溢れた力は右手に収束して、高圧縮された闇となった。
大ムカデは半端なダメージでは仕留め切れない。
しかし倒し方は単純明快。再生が間に合わない威力をぶつければ事足りる。
その場合打撃耐性アリなので精霊術推奨だ。
「よくも……わたくしのお気に入りのドレスをダメにしてくれましたわね!」
ボンボンボンと注ぎ込まれる力の分だけ巨大化する黒い闇に赤毛君は震えてミリアリアのドレスのすそを握り締める。
「食らいなさい! 夜を喰らう闇! アンコクウ!」
出来上がった闇の塊をミリアリアは遠慮なく解き放った。
大ムカデに着弾したアンコクウはその瞬間一気に膨れ上がって周囲ごと大ムカデを飲み込んだ。
ミリアリアは涙目の赤毛君の首根っこを掴んで遠くに退避。
次に視界が切り替わった時、そこにはドーム状に広がったアンコクウと同じサイズのえぐれたくぼみがぽっかりとひろがっていた。
むなしい勝利である。
「よし! 討伐完了……勝負はわたくしの勝ちですわ!」
だがそこ大事なところだ。
爆風で乱れた黒髪をさっと手で払って、一応ミリアリアは勝利宣言した。
その後ちゃんと日が暮れる前に帰ったというのに、しこたま怒られた。
破れたドレスはゴミ箱に直行で、泣きっ面にハチである。
そして今日連れ歩いた赤毛君は騎士団長のご子息で、アーサーという名の攻略対象だと知って驚いたミリアリアはやっぱりしこたま怒られることになった。
「……ううう。服は汚したけどちゃんと送り届けたのに」
満身創痍のミリアリアと赤毛君は別れ際に少しだけ話をした。
赤毛君は勢いがなく落ち込んでいたようだが、いきなりミリアリアの顔を見るなり謝って来た。
「その……すまなかった。いきなりあんなことを言うなんて、騎士にあるまじきことだった……それと、その……モンスターからかばってくれてありがとう」
ふむ、まぁ人には事情というものがある。
イライラする時は、埃が転がって来ただけで我慢ならないことだってあるだろう。
昔のミリアリアなら、とりあえず死刑を連呼していたかもしれないが、今はそこまで心は狭くない。
謝罪をしてくれるのなら、素直に受け入れることもできる。
ミリアリアは扇を開き頷いた。
「よくってよ! 弱い者を助けるのも強者の務めというものですわ!」
だがその言葉を聞いた瞬間、赤毛君の表情が強張る。
そして涙目になった赤毛君は走り去った。
「俺は……弱い者なんかじゃないやい!!!」
全力ダッシュである。
うーむ、別に傷つけるつもりとかではなかったのだが、悪いことをしたかも。
それはともかく美少年の涙目は、うちの侍女連中には好評だった。
頭のどこかでそう言うとこだぞっとツッコミを入れられた気がした。
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