悪役姫は見学する。
騎士の修練場は精霊術の鍛錬もすることもあってかなりの広さがある。
離宮のものとは広さが比べ物にもならない施設にミリアリアは軽い嫉妬を覚えてしまう。
前世で言うとまさに軍隊の基地のような施設で、現役の騎士はもちろん、騎士見習の若人達も日々訓練に励み、汗を流していた。
そんな場所をキャリーバッグを転がして見学しながら、ミリアリアは思った。
「さすがは乙女ゲーム……美形の入れ食いですわね」
「ミリアリア様?」
「ねぇメアリー? ひょっとして騎士の募集要項にただし美形に限るとか書いてない? お母様やらかしてません?」
「ミッリアリアサマ!!」
イヤーだって、本気で右を向いても左を向いてもダンディな美形かフレッシュな美形しかいないんだもの。
考えちゃいますわよね?
ミリアリアは「やっぱこういうとこゲームっぽいですわよねー」なんて心の中で呟きながら、頭のメモリーにナイスショットを記憶しておくことにした。
新開発の闇精霊術「暗室」にて後で紙にでも焼き付ければ、離宮の侍女辺りには喜んでもらえるかもしれない。
さて本題の方にも触れておこう。
ミリアリアが見た感じ、素振りの類は正直あまり参考にならない。
見たいのは、主に技的なものだった。
ミリアリアが考えるこの場合の技は、ゲーム中で使える項目で、いわゆる技名のついた「技」の事だ。
光姫のコンチェルトにおいて戦闘面のコマンドは主に精霊術と技で構成されていた。
技は使っている武器によって習得出来、その武器での熟練度が溜まり習得する流れである。
技は精霊術に比べると溜めが少なく、速射性が高いものが多い。
そして威力もそこそこ高いので、ゲーム内ではかなり多用された。
例えば攻略対象の一人、アーサーという名のキャラクターの最強の技フレアザンバーにはとてもお世話になったものだ。
炎を帯びた剣戟の連続攻撃はヒット数が多く、クリティカル判定が一発一発に乗って非常に使い勝手が良かった。
思えばああいう技があればもうちょっとメタルプリンプリン狩りが楽になったに違いない。
「せっかく最強装備のおかげでわたくしの得意武器が分かったんですものね。鉄扇で戦う技とかよくわかんないんですけど」
何かチャンスはないかなーとぼんやり騎士の修練を眺めていると、自分に近づいてくる人の気配を感じてミリアリアは視線を向ける。
アラこれまたかわいい赤毛の男の子、眼福だった。
だが同い年くらいの彼は大股でまっすぐこちらにやってきて、間合いを詰めてくる。
彼はあまりにも近すぎる距離から右手を突き出そうとしていて、ミリアリアはハッと悟った。
これは突っ張り……ではなく壁ドン! 乙女を篭絡する殿方の技!
乙女ゲーなら当然である。
だがこういう時の備えはしている。
繰り出された右手がドンと壁を打つ前にミリアリアは動いた。
テレポートの応用で回り込むのは相手の背後だ。
「おっと―――そいつは残像ですわ」
「なん……だと?」
「こっちが何ですわ。 乙女のプライベートスペースに踏み込みすぎではなくて?」
編み出した緊急回避の成功にミリアリアは渾身のどや顔である。
これぞ対乙女ゲー壁ドン緊急回避術「残像ですわ」。
こいつを繰り出せば恋愛フラグなど恐れるに足りない。
美形共はその手の中にミリアリアをおさめることは適わないであろう。
一瞬ぎょっとしていた赤毛君だったが、すぐに怒りの感情が勝ったのかミリアリアを振り返った。
「……お前がミリアリアだな?」
「ああ、ちょっと待ってください? 不機嫌そうな顔を一枚……では改めて、なんですの? 藪から棒に」
「……俺と勝負しろ!」
「いいでしょう! 受けて立ちますわ! ゴロアドン!」
「えぇ?」
雷鳴が轟く。
なんか驚いているが、自分から挑んでおいて驚かないでほしいとミリアリアは思った。
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